第三十一話 もう終わった恋
終わった恋は、“嫌い”になって終わるとは限らない。
むしろ、まだ好きだから苦しいこともある。
夜。
レンは、ひとりで部屋に座っていた。
電気もつけていない。
窓の外では、透明都市の光だけが静かに瞬いている。
スマートフォンの画面には、美月とのメッセージ履歴。
短いやり取り。
それだけなのに。
胸が苦しかった。
【すごく仲良かったよ】
その文章が、頭から離れない。
仲良かった。
過去形。
その響きだけで、妙に寂しくなる。
レンはソファへ深く座り込んだ。
知らないはずなのに。
どうしてこんなに苦しい。
その時。
また、断片が流れ込んでくる。
夜のコンビニ。
二人でアイスを選んでいる。
『レン、それ絶対また途中で飽きるじゃん』
笑い声。
自分も笑っている。
幸せだった。
何でもない夜。
でも。
その“何でもない時間”が、どうしようもなく大切だった。
レンは目を閉じる。
胸が痛い。
その時。
スマートフォンが震えた。
美月からだった。
レンの呼吸が浅くなる。
開く。
【こんな時間にごめん】
続けて。
【ちょっとだけ、話せる?】
レンはしばらく画面を見つめていた。
断る理由はなかった。
でも。
怖かった。
この女と話すたび、自分の中の何かが壊れていく。
それでも。
レンは返信した。
【うん】
数秒後。
通話着信。
レンは少し迷ってから、通話を取った。
「……もしもし」
沈黙。
そのあと。
小さく息を吸う音。
『久しぶり』
美月の声だった。
その瞬間。
レンの胸が強く脈打つ。
懐かしい。
どうしてかわからない。
でも。
泣きそうになるくらい、懐かしかった。
美月も少し黙っていた。
そして、小さく笑う。
『変だね』
「……何が」
『こうやって話すの』
レンは返事に詰まる。
確かに変だった。
初対面みたいなのに。
初対面じゃない気がする。
美月は静かに言った。
『レン、本当に覚えてないんだね』
レンは低く答える。
「……ごめん」
謝る必要なんてないのに。
なぜか、謝りたくなった。
美月は少しだけ沈黙したあと、言った。
『謝らなくていいよ』
その優しさが、妙に苦しかった。
『だって、忘れたかったんでしょ?』
レンは言葉を失う。
忘れたかった。
確かに、自分はそう願った。
でも。
今は。
「……わからない」
レンは正直に言った。
「忘れた方がよかったのか」
窓の外の光が揺れる。
美月はしばらく黙っていた。
やがて。
小さく呟く。
『私も、わかんない』
その声だけが。
どうしようもなく寂しそうだった。
読んでいただきありがとうございます!
レンと美月、再び言葉を交わし始めました。
次回、“別れたあと”の二人の本音へ近づいていきます!




