第二十二話 別れの踏切
本当に終わる恋は、怒鳴り合いじゃ終わらない。
優しさだけが残るから、余計に忘れられなくなる。
冬の空気は、痛いほど冷たかった。
レンは美月の後ろを歩いていた。
駅から続く細い道。
人気のない夜。
美月はずっと無言だった。
レンは何度も話しかけようとして、やめた。
何を言えばいいかわからなかった。
謝ればいいのか。
引き止めればいいのか。
それとも。
もう終わっているのか。
踏切の警報音が鳴り始める。
赤い光が、二人を断続的に照らしていた。
美月が立ち止まる。
レンの胸がざわつく。
嫌な予感がした。
「……レン」
美月は振り返らないまま、小さく言った。
その声だけで、胸が苦しくなる。
「私ね」
少しだけ間が空く。
「疲れちゃった」
レンは息を呑む。
風が強かった。
彼女の髪が揺れている。
「ごめん」
レンはすぐに言った。
「俺、ちゃんとするから」
「そういうのじゃないの」
美月の声は静かだった。
怒っていない。
だから余計に苦しい。
「レン、優しいよ」
「ちゃんと私のこと好きでいてくれた」
レンは少し安心しかけた。
でも。
次の言葉で、全部崩れた。
「でも、苦しかった」
警報音が響く。
レンは言葉を失った。
美月は続ける。
「レン、自分でも気づいてないと思うけど」
彼女の声が、少し震える。
「私がいなくなるの、すごく怖がってた」
レンは否定できなかった。
怖かった。
本当に。
美月を失ったら、自分が空っぽになる気がしていた。
「だから」
美月は小さく笑う。
泣きそうな笑顔だった。
「私、ずっと“レンを支える役”になってた」
レンの胸が締めつけられる。
違う。
そんなつもりじゃなかった。
でも。
違うと言い切れない。
「俺は……」
声がうまく出ない。
美月は静かに振り返った。
その顔を見た瞬間。
レンは息が止まりそうになった。
泣いていた。
美月は、泣いていた。
「ごめんね」
その言葉だけで。
胸の奥が壊れそうになる。
「私、もう無理」
踏切の向こうを、電車の光が走る。
レンは思わず叫んでいた。
「待ってくれ!」
みっともない声だった。
でも止められなかった。
「俺、変わるから!」
「ちゃんとする!」
「だから――」
美月は泣きながら首を横に振った。
「レン」
その声が、優しすぎた。
だから余計に終わりだった。
「私ね」
美月は涙を拭きながら言った。
「レンのこと、本当に好きだったよ」
レンの世界が止まる。
好きだった。
過去形だった。
警報音。
冷たい風。
赤い光。
その全部が、やけに鮮明だった。
そして。
美月は背を向けた。
レンは動けなかった。
追いかけられなかった。
ただ。
自分の人生が終わっていく感覚だけを、静かに見ていた。
読んでいただきありがとうございます!
ついに“別れの夜”が描かれました。
次回、レンが記憶を売る決定的な瞬間へ進みます!




