第二十一話 壊れていく恋
愛は、人を優しくする。
でも同時に、“失う恐怖”が人を醜く変えていく。
「忘れたままよりは、ずっといい」
レンの言葉を、アカネは静かに聞いていた。
高層階の部屋。
夜景だけが、遠くで瞬いている。
アカネは小さく呟く。
「不思議」
レンは顔を上げる。
「何がだ」
「人って、苦しいのに」
アカネは金色の結晶を見る。
「どうしてまた、思い出したがるんだろう」
レンは答えられなかった。
でも。
多分。
苦しみごと、その人だったからだ。
痛みだけ切り離すことなんて、できない。
その時。
また記憶が流れ込んでくる。
冬。
狭い部屋。
美月が、黙って座っている。
テーブルの上には、請求書。
レンは苛立った声で言う。
『今月ちょっと厳しくて』
美月は静かに頷く。
『……うん』
その“うん”が、妙に弱々しかった。
レンは気づいていなかった。
彼女が少しずつ疲れていたことに。
『ごめんな、ちゃんとするから』
レンは笑おうとしていた。
でも。
その笑顔には余裕がなかった。
生活。
金。
将来。
愛だけじゃ、生きていけなかった。
記憶は続く。
夜。
美月がスマホを見ている。
その画面を見た瞬間。
レンの胸がざわつく。
高級レストラン。
スーツ姿の男。
『会社の人?』
レンが聞く。
美月は少し黙ってから答えた。
『……相談乗ってもらってるだけ』
その瞬間。
レンの中で、何かが濁った。
不安。
焦り。
嫉妬。
愛が、少しずつ形を変えていく。
『その男、金持ってんの?』
自分の声が、嫌に刺々しい。
美月は悲しそうにレンを見る。
『そういう言い方、やめて』
レンは黙れなかった。
怖かった。
失うのが。
だから。
余計に追い詰めた。
『俺じゃ駄目なのかよ』
美月の目が揺れる。
『違うよ』
『じゃあなんで!』
その瞬間。
美月が、小さく泣いた。
レンは息を呑む。
その顔を見た瞬間。
胸が強く痛んだ。
ああ。
自分は今、この人を傷つけている。
なのに。
止まれない。
怖いから。
失いたくないから。
愛しているから。
レンは頭を押さえた。
記憶が戻るたび、自分の醜さまで見えてくる。
アカネが静かに言う。
「愛はね」
レンは顔を上げる。
アカネは少し寂しそうに笑った。
「綺麗なだけじゃないの」
その言葉が、妙に優しく聞こえた。
読んでいただきありがとうございます!
レンと美月の関係、少しずつ壊れ始めました。
次回、“別れの夜”へ近づいていきます!




