表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/151

第十五話 顔のない恋人

人は時々、愛した相手より、“愛していた頃の自分”を忘れられなくなる。

写真を見た瞬間。


 


 レンの呼吸が止まった。


 


 


 自分が写っている。


 


 


 少し若い顔。


 


 今より柔らかく笑っている。


 


 


 そして、その隣。


 


 


 女の顔だけが、黒く塗り潰されていた。


 


 


 乱暴に。


 


 何度も何度も塗ったみたいに。


 


 


 レンは無意識に写真へ触れる。


 


 


 指先が震えていた。


 


 


 「……なんだよ、これ」


 


 


 掠れた声が漏れる。


 


 


 アカネは少し離れた場所から静かに言った。


 


 


 「あなたが塗り潰したの」


 


 


 レンは振り返る。


 


 


 「俺が?」


 


 


 アカネは頷いた。


 


 


 「記憶売却の前日」


 


 


 その言葉に、胸の奥が重く沈む。


 


 


 前日。


 


 


 つまり。


 


 


 自分は忘れる前に、“その人の顔”を消そうとしていた。


 


 


 レンは写真を握りしめた。


 


 


 「……なんで」


 


 


 アカネは静かに答える。


 


 


 「壊れたから」


 


 


 その声には感情がなかった。


 


 


 でも。


 


 


 どこか、慣れた響きがあった。


 


 


 何度も見てきた人間の終わり方みたいに。


 


 


 レンは写真を見下ろす。


 


 


 笑っている自分。


 


 


 幸せそうだった。


 


 


 その顔が、余計に苦しかった。


 


 


 「……俺、そんなに好きだったのか」


 


 


 アカネは少し考えるように目を細めた。


 


 


 「依存に近かったかもしれない」


 


 


 レンは眉をひそめる。


 


 


 「違いがあるのか」


 


 


 「あるわ」


 


 


 アカネは静かに近づいてくる。


 


 


 「愛は、“相手の幸せ”を願う感情」


 


 


 「依存は、“相手がいないと自分が壊れる状態”」


 


 


 レンは何も言えなかった。


 


 


 写真の中の自分を見る。


 


 


 あまりにも幸せそうで。


 


 


 逆に怖かった。


 


 


 その時。


 


 


 また断片が流れ込んでくる。


 


 


 夕焼け。


 


 


 踏切。


 


 


 女の声。


 


 


 『レンって、重いよね』


 


 


 胸が強く痛む。


 


 


 『でも、そういうところ嫌いじゃなかった』


 


 


 笑っていた。


 


 


 優しい声だった。


 


 


 なのに。


 


 


 次の瞬間。


 


 


 『……ごめん』


 


 


 そこで映像が途切れる。


 


 


 レンは頭を押さえた。


 


 


 苦しい。


 


 


 まるで胸の奥に、ガラス片が刺さっているみたいだった。


 


 


 「……っ」


 


 


 アカネは静かにレンを見つめる。


 


 


 「思い出した?」


 


 


 レンは荒い呼吸のまま呟く。


 


 


 「フラれた……?」


 


 


 アカネは答えない。


 


 


 その沈黙が、逆に答えだった。


 


 


 レンは笑いそうになる。


 


 


 なんだ、それ。


 


 


 たったそれだけで。


 


 


 自分は愛した人の記憶を売ったのか。


 


 


 いや。


 


 


 違う。


 


 


 多分、“それだけ”じゃない。


 


 


 こんな壊れ方をするには、もっと深い何かがある。


 


 


 レンは写真を見つめる。


 


 


 黒く塗り潰された顔。


 


 


 でも不思議だった。


 


 


 顔は見えないのに。


 


 


 “笑っていた”ことだけは、わかる。


 


 


 その時。


 


 


 アカネがぽつりと言った。


 


 


 「あなた、その人に似てる」


 


 


 レンは顔を上げる。


 


 


 「……誰に」


 


 


 アカネは少しだけ寂しそうに笑った。


 


 


 「私が、愛されたかった人」

読んでいただきありがとうございます!


“顔のない恋人”の断片が少しずつ見えてきました。

次回、レンが記憶を売る直前の夜へ近づいていきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ