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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百四十七話 冬の終わり

感情に流されることと、“自分で選ぶ”ことは違う。

人は時々、苦しくても“自分の人生”を生きたくなる。

 夕方だった。


 


 


 透明都市の空は、薄いオレンジ色へ染まり始めている。


 


 


 雪は、ほとんど溶けていた。


 


 


 歩道の端へ残った白だけが、冬の名残みたいに静かに残っている。


 


 


 レンは、駅前の広場で立っていた。


 


 


 ポケットの中で、手が少し冷えている。


 


 


 胸も、落ち着かなかった。


 


 


 美月からのメッセージ。


 


 


 【今日、会いたい】


 


 


 その言葉の意味を、レンは考えないようにしていた。


 


 


 期待したくなかった。


 


 


 でも。


 


 


 どこかで、期待してしまっている自分もいた。


 


 


 その時。


 


 


 人混みの向こうに、美月の姿が見えた。


 


 


 白いコート。


 


 


 少し疲れた顔。


 


 


 でも。


 


 


 どこか、前より静かな目をしていた。


 


 


 美月はレンの前へ来る。


 


 


 しばらく、何も言わない。


 


 


 冬の終わりの風だけが吹いている。


 


 


 やがて。


 


 


 美月が、小さく笑った。


 


 


 「……待った?」


 


 


 レンも少し笑う。


 


 


 「まあまあ」


 


 


 その会話が、妙に懐かしかった。


 


 


 でも。


 


 


 今日は、逃げられない日だった。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、静かに息を吸う。


 


 


 そして。


 


 


 真っ直ぐレンを見た。


 


 


 「……ちゃんと考えた」


 


 


 レンの胸が、静かに締まる。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 「いっぱい悩んだ」


 


 


 「泣いたし」


 


 


 「自分でも嫌になるくらい考えた」


 


 


 苦笑する。


 


 


 でも。


 


 


 その顔は、どこか少しだけ晴れていた。


 


 


 美月は、ゆっくり言葉を続ける。


 


 


 「レンといると」


 


 


 「ちゃんと感情が動くの」


 


 


 「生きてる感じがする」


 


 


 レンは黙って聞いている。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 「でも」


 


 


 少し間。


 


 


 「旦那さんと生きてきた時間も、やっぱり本物だった」


 


 


 その言葉に。


 


 


 レンは静かに目を閉じた。


 


 


 否定しない。


 


 


 できない。


 


 


 それは、レンも分かっていた感情だから。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、小さく震える声で言う。


 


 


 「だからね」


 


 


 夕陽が、二人を柔らかく照らしている。


 


 


 美月は、涙を堪えながら続けた。


 


 


 「私、自分で選びたい」


 


 


 レンの呼吸が止まる。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 「“寂しいから”でも」


 


 


 「“流されたから”でもなくて」


 


 


 「ちゃんと、“自分がどう生きたいか”で決めたい」


 


 


 その瞬間。


 


 


 レンは、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。


 


 


 感情に飲まれていた頃とは違う。


 


 


 逃げない。


 


 


 誰かのせいにしない。


 


 


 ちゃんと、自分の人生として選ぼうとしている。


 


 


 その姿が。


 


 


 どうしようもなく、美しかった。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、少し泣きそうに笑う。


 


 


 「だから」


 


 


 少し間。


 


 


 「もう少しだけ、時間ちょうだい」


 


 


 レンは、しばらく何も言えなかった。


 


 


 でも。


 


 


 やがて、小さく笑う。


 


 


 「……うん」


 


 


 不思議だった。


 


 


 結論はまだ出ていない。


 


 


 でも今。


 


 


 前よりずっと、“ちゃんと前へ進んでいる”感じがした。


 


 


 その時。


 


 


 冬の風が、静かに街を抜けていく。


 


 


 透明都市。


 


 


 感情を閉じ込めていた街。


 


 


 でも今は。


 


 


 人々が、“自分の人生を、自分で選ぶ”ために泣ける街へ変わっていた。

読んでいただきありがとうございます!

今回は、“冬の終わり”を描きました。

この物語は今、“誰を選ぶか”だけではなく、“どう生きるか”の最終段階へ入っています。

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