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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百四十八話 春の匂い

“自分の人生を選ぶ”ということは、正解を探すことじゃない。

苦しくても、“自分で決める”ことなのかもしれない。

 数日後。


 


 


 透明都市には、少しだけ春の匂いが混ざり始めていた。


 


 


 冷たい風の奥に、柔らかな空気がある。


 


 


 季節が変わろうとしていた。


 


 


 黒い店の窓際で、レンはぼんやり外を見ている。


 


 


 雪はもう、ほとんど残っていない。


 


 


 代わりに。


 


 


 歩道の隅には、小さな花が咲き始めていた。


 


 


 その時。


 


 


 アカネがカウンター越しに言う。


 


 


 「顔、ちょっと変わった」


 


 


 レンが振り返る。


 


 


 「なにが」


 


 


 アカネは少し笑った。


 


 


 「前より、“待てる顔”になった」


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 昔の自分なら。


 


 


 きっと耐えられなかった。


 


 


 不安で。


 


 


 寂しくて。


 


 


 答えを急かしていたと思う。


 


 


 でも今は。


 


 


 怖いまま、待っている。


 


 


 ちゃんと相手の人生を尊重しながら。


 


 


 それは多分。


 


 


 恋愛というより、“愛情”に近かった。


 


 


 その時。


 


 


 店のベルが鳴る。


 


 


 入ってきたのは、美月だった。


 


 


 レンの呼吸が、少し止まる。


 


 


 白いニット。


 


 


 薄い春色のストール。


 


 


 でも。


 


 


 一番変わっていたのは、表情だった。


 


 


 迷いが、少し減っている。


 


 


 美月は、レンを見る。


 


 


 そして。


 


 


 静かに笑った。


 


 


 「……久しぶり」


 


 


 たった数日。


 


 


 でも。


 


 


 その“久しぶり”には、いろんな感情が入っていた。


 


 


 レンも、小さく笑う。


 


 


 「だな」


 


 


 美月は席へ座る。


 


 


 少し沈黙。


 


 


 窓の外では、春の風が揺れている。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、ゆっくり口を開いた。


 


 


 「……ちゃんと話した」


 


 


 レンは黙って聞く。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 「いっぱい泣いたし」


 


 


 「旦那さんも泣いた」


 


 


 胸が、静かに痛む。


 


 


 美月は、目を伏せた。


 


 


 「簡単じゃなかった」


 


 


 「全然」


 


 


 その声には、ちゃんと現実の重さがあった。


 


 


 逃げずに向き合った人間の声だった。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、静かに顔を上げる。


 


 


 そして。


 


 


 真っ直ぐレンを見る。


 


 


 「でもね」


 


 


 春の光が、ゆっくり店へ差し込む。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 「私、初めてちゃんと“自分の人生”考えたの」


 


 


 レンは、静かに息を呑む。


 


 


 美月は少し笑った。


 


 


 「今までは」


 


 


 「誰かの期待とか」


 


 


 「嫌われないこととか」


 


 


 「傷つけないことばっか考えてた」


 


 


 少し間。


 


 


 「でも今回」


 


 


 「苦しくても、自分で選ばなきゃって思った」


 


 


 その瞬間。


 


 


 レンは、ようやく分かった気がした。


 


 


 この物語で、本当に変わったもの。


 


 


 それは恋愛だけじゃない。


 


 


 人間たちの、“生き方”だった。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、小さく息を吸う。


 


 


 そして。


 


 


 静かに言った。


 


 


 「……私ね」


 


 


 レンの胸が、強く鳴る。


 


 


 美月は、少し涙を浮かべながら笑った。


 


 


 「ちゃんと、自分で決めたよ」


 


 


 店の空気が、静かに止まる。

読んでいただきありがとうございます!

今回は、“春の匂い”を描きました。

物語はいよいよ、“感情を取り戻した人間たちの答え”へ近づいています。

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