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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百三十五話 答えを出す夜

人生を選ぶということは、“何かを失う可能性”を引き受けることでもある。

だから、本当に大事な選択ほど怖い。

 夜だった。


 


 


 透明都市の空には、雪雲が薄く残っている。


 


 


 レンは、黒い店の屋上にいた。


 


 


 冷たい風。


 


 


 静かな街明かり。


 


 


 缶コーヒーは、もう半分以上冷めている。


 


 


 昼間の女性の言葉が、まだ胸へ残っていた。


 


 


 “悪者になりたくないだけ”。


 


 


 その言葉は、思った以上に深く刺さっていた。


 


 


 その時。


 


 


 スマホが震える。


 


 


 美月からだった。


 


 


 【今、少し電話できる?】


 


 


 レンは、数秒画面を見つめる。


 


 


 そして。


 


 


 静かに通話ボタンを押した。


 


 


 「もしもし」


 


 


 電話の向こうは、少し静かだった。


 


 


 やがて。


 


 


 美月の、小さな声。


 


 


 『……ごめんね』


 


 


 レンが眉をひそめる。


 


 


 「なんで謝るんだよ」


 


 


 美月は少し黙る。


 


 


 そして。


 


 


 震える声で続けた。


 


 


 『今日ね』


 


 


 『旦那さんに、“最近なんかあった?”ってまた聞かれたの』


 


 


 レンの胸が、静かに痛む。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 『でも、ちゃんと答えられなかった』


 


 


 『嘘ついた』


 


 


 風が吹く。


 


 


 レンは目を閉じる。


 


 


 現実は、少しずつ動き始めていた。


 


 


 感情だけでは止まらないところまで。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、ぽつりと呟く。


 


 


 『……苦しい』


 


 


 その一言に。


 


 


 いろんな感情が詰まっていた。


 


 


 罪悪感。


 


 


 幸福。


 


 


 寂しさ。


 


 


 愛情。


 


 


 全部。


 


 


 レンは、しばらく黙っていた。


 


 


 簡単な言葉を返したくなかった。


 


 


 “頑張れ”も。


 


 


 “俺を選べ”も。


 


 


 どっちも違う気がした。


 


 


 長い沈黙。


 


 


 やがて。


 


 


 レンは静かに口を開く。


 


 


 「……美月」


 


 


 『うん』


 


 


 レンは、夜景を見る。


 


 


 透明都市の灯り。


 


 


 感情を取り戻した街。


 


 


 泣いて。


 


 


 怒って。


 


 


 迷いながら生きる人たち。


 


 


 レンは、ゆっくり息を吐く。


 


 


 そして。


 


 


 静かに言った。


 


 


 「ちゃんと、自分で選んでほしい」


 


 


 電話の向こうが静かになる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「俺が好きだからとか」


 


 


 「旦那さんに悪いからとか」


 


 


 「そういうので決めないで」


 


 


 胸が痛かった。


 


 


 でも。


 


 


 ここで感情だけへ流されたら。


 


 


 多分また、誰かが壊れる。


 


 


 レンは続ける。


 


 


 「美月が」


 


 


 「“どう生きたいか”で決めてほしい」


 


 


 風が吹く。


 


 


 電話の向こうで、小さく息を飲む音がした。


 


 


 そして。


 


 


 長い沈黙のあと。


 


 


 美月が、静かに泣き始めた。


 


 


 声を押し殺しながら。


 


 


 レンは、何も言わない。


 


 


 今必要なのは、多分慰めじゃなかった。


 


 


 “自分で選ばなければいけない現実”を、ちゃんと受け止める時間だった。


 


 


 やがて。


 


 


 美月が、涙声のまま呟く。


 


 


 『……怖い』


 


 


 レンの胸が締め付けられる。


 


 


 もちろん怖い。


 


 


 人生を選ぶということは。


 


 


 何かを失う可能性を、自分で引き受けることだから。


 


 


 その時。


 


 


 レンは、静かに言った。


 


 


 「うん」


 


 


 そして。


 


 


 少しだけ笑った。


 


 


 「でも、多分」


 


 


 夜空を見る。


 


 


 雪雲の隙間。


 


 


 微かに見える星。


 


 


 「怖いくらいじゃないと、人生変わんない」


 


 


 その言葉が。


 


 


 静かに夜へ溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!


今回は、“答えを出す夜”を描きました。

感情を取り戻した人間たちは今、“どう生きるか”を選ぶ段階へ来ています。

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