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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百三十一話 壊したくない人

本当に大事な相手ほど、“自分を選んで”と簡単には言えなくなる。

愛情は時々、“手に入れたい”より、“壊したくない”へ変わっていく。

 信号が青へ変わる。


 


 


 人々が、静かに横断歩道を渡っていく。


 


 


 雪はまだ降っていた。


 


 


 白く。


 


 


 静かに。


 


 


 美月の言葉が、レンの胸へ残っている。


 


 


 “このまま好きでいたら、私たち壊れるかな”。


 


 


 レンは、すぐ答えられなかった。


 


 


 多分。


 


 


 壊れる可能性は、ある。


 


 


 現実は、そんなに優しくない。


 


 


 でも。


 


 


 だからといって。


 


 


 この感情を、“なかったこと”にもできなかった。


 


 


 二人は、駅へ向かってゆっくり歩き出す。


 


 


 その時。


 


 


 レンが静かに口を開いた。


 


 


 「……壊れるかもしれない」


 


 


 美月が、少しだけ肩を揺らす。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「でも」


 


 


 雪の積もる歩道を見る。


 


 


 白い足跡。


 


 


 並んだ影。


 


 


 「俺、美月を壊したくない」


 


 


 その言葉が、静かに夜へ落ちる。


 


 


 美月は、何も言わない。


 


 


 ただ。


 


 


 少しだけ俯いた。


 


 


 レンは続ける。


 


 


 「旦那さんとの時間も」


 


 


 「今の生活も」


 


 


 「全部含めて、美月だから」


 


 


 胸が痛かった。


 


 


 もし感情だけで動くなら。


 


 


 もっと簡単だった。


 


 


 “好きだから一緒にいたい”。


 


 


 それだけで済んだ。


 


 


 でも今は違う。


 


 


 誰かを本当に大事に思うほど。


 


 


 “壊したくない”が先に来る。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、小さく笑った。


 


 


 でも。


 


 


 その目には涙が滲んでいる。


 


 


 「……レン、優しすぎ」


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 「多分、怖いだけだよ」


 


 


 昔みたいに。


 


 


 感情だけで全部壊れる恋を、もうしたくなかった。


 


 


 その時。


 


 


 駅のホームへ、電車が滑り込んでくる。


 


 


 光。


 


 


 ブレーキ音。


 


 


 現実の音。


 


 


 美月は、その光景をぼんやり見つめていた。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく呟く。


 


 


 「ねえ」


 


 


 レンが顔を向ける。


 


 


 美月は続けた。


 


 


 「もしさ」


 


 


 少し間。


 


 


 「今の私が、“レン選びたい”って言ったら」


 


 


 レンの呼吸が止まる。


 


 


 雪が、静かに降る。


 


 


 美月は、震える声で続けた。


 


 


 「レンは、どうする?」


 


 


 その質問は。


 


 


 今までずっと避けてきた“核心”だった。


 


 


 レンは、すぐには答えられない。


 


 


 好きだ。


 


 


 ちゃんと。


 


 


 でも。


 


 


 だからこそ。


 


 


 “選ばせること”の重さも分かってしまう。


 


 


 長い沈黙。


 


 


 やがて。


 


 


 レンは、静かに口を開いた。


 


 


 「……多分」


 


 


 雪が肩へ積もる。


 


 


 レンは、美月を見る。


 


 


 「本気でそう思うなら」


 


 


 「止めない」


 


 


 美月の目が、少し揺れる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「でも」


 


 


 声が少し掠れる。


 


 


 「“寂しいから”だけなら、止める」


 


 


 店でも。


 


 


 昔の恋でも。


 


 


 レンは、何度も見てきた。


 


 


 孤独だけで繋がった感情が、最後に人を壊すところを。


 


 


 だから。


 


 


 今度だけは。


 


 


 ちゃんと、“本物の選択”であってほしかった。


 


 


 その時。


 


 


 電車の扉が開く。


 


 


 暖かい車内の光が漏れる。


 


 


 美月は、少しだけ泣きそうな顔で笑った。


 


 


 「……ほんとずるい」


 


 


 レンも、少し笑う。


 


 


 でも。


 


 


 二人ともわかっていた。


 


 


 この恋はもう。


 


 


 “綺麗な思い出”では終われないところまで来ている。

読んでいただきありがとうございます!


今回は、ついに“選ぶ”というテーマへ踏み込み始めました。

感情を取り戻した先で、人は今度、“どう生きるか”を選ばなければいけなくなります。

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