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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百二十九話 言葉にした瞬間

“好き”という言葉は、幸せだけを運んでくるわけじゃない。

時々それは、現実をより鮮明にしてしまう。

 クラゲの水槽が、静かに揺れていた。


 


 


 青い光。


 


 


 水の音。


 


 


 周囲のざわめきが、遠く聞こえる。


 


 


 美月の言葉だけが、レンの胸へ残っていた。


 


 


 “好きになり直しちゃったな”。


 


 


 レンは、すぐに返事ができなかった。


 


 


 言葉にした瞬間。


 


 


 何かが、本当に変わってしまう気がした。


 


 


 美月も、少し俯いている。


 


 


 多分。


 


 


 勢いで言ったわけじゃない。


 


 


 何度も飲み込んで。


 


 


 悩んで。


 


 


 それでも零れた言葉だった。


 


 


 その時。


 


 


 レンが、静かに息を吐く。


 


 


 そして。


 


 


 小さく笑った。


 


 


 「……ずるいな」


 


 


 美月が顔を上げる。


 


 


 レンは苦笑したまま続けた。


 


 


 「こっち、ずっと我慢してたのに」


 


 


 その瞬間。


 


 


 美月の目が、少し揺れる。


 


 


 泣きそうな。


 


 


 でも、少し嬉しそうな顔だった。


 


 


 レンは、水槽を見る。


 


 


 青いクラゲが、ゆっくり漂っている。


 


 


 そして。


 


 


 静かに言った。


 


 


 「俺も、好きだよ」


 


 


 その瞬間。


 


 


 世界が少し静かになった気がした。


 


 


 美月は、何も言わない。


 


 


 ただ。


 


 


 唇を噛みながら、涙を堪えていた。


 


 


 レンの胸も、苦しかった。


 


 


 嬉しい。


 


 


 でも同時に。


 


 


 簡単に喜んではいけない感情だとも分かっている。


 


 


 だから。


 


 


 余計に痛かった。


 


 


 その時。


 


 


 美月が、小さな声で言う。


 


 


 「……なんで今なんだろうね」


 


 


 レンは答えられない。


 


 


 タイミング。


 


 


 人生。


 


 


 選択。


 


 


 全部が少しずつズレたまま、ここまで来てしまった。


 


 


 美月は涙を拭きながら笑う。


 


 


 「高校生みたい」


 


 


 レンも少し笑った。


 


 


 「だな」


 


 


 でも。


 


 


 高校生みたいに簡単じゃない。


 


 


 好きだと言った瞬間。


 


 


 もう、“なかったこと”にはできなくなった。


 


 


 その時。


 


 


 美月のスマホが震える。


 


 


 画面を見る。


 


 


 一瞬だけ、表情が止まる。


 


 


 旦那からだった。


 


 


 レンの胸が、静かに痛む。


 


 


 現実は、ちゃんと存在している。


 


 


 美月は、しばらく画面を見つめていた。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく息を吐く。


 


 


 そして。


 


 


 レンへ、少しだけ寂しそうに笑った。


 


 


 「帰らなきゃ」


 


 


 その言葉が、胸へ深く落ちる。


 


 


 好きだと言い合った直後なのに。


 


 


 それでも。


 


 


 帰る場所は別にある。


 


 


 それが今の二人だった。


 


 


 レンは、小さく頷く。


 


 


 「……うん」


 


 


 美月は、少しだけ迷う。


 


 


 そして。


 


 


 そっとレンの袖を握った。


 


 


 一瞬だけ。


 


 


 本当に、一瞬だけ。


 


 


 それから。


 


 


 静かに手を離した。


 


 


 クラゲの光が、二人を青く照らしている。


 


 


 好きだと言えた夜。


 


 


 でも。


 


 


 その幸福は、少し苦しすぎた。

読んでいただきありがとうございます!


今回は、ついに二人が“好き”を言葉にしました。

でもこの物語は、“想いが通じたら終わり”ではありません。

むしろここからが、本当の苦しさなのかもしれません。

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