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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百二十八話 冬の水槽

感情は、距離を取れば消えるわけじゃない。

むしろ会えない時間の中で、静かに育ってしまうことがある。

 数日後。


 


 


 透明都市には、静かな雪が降っていた。


 


 


 初雪だった。


 


 


 白い粒が、街灯の光へゆっくり浮かんでいる。


 


 


 レンは駅前で立ち止まる。


 


 


 コートのポケットの中、スマホが小さく震えた。


 


 


 【今日、少しだけ会えない?】


 


 


 美月からだった。


 


 


 短い文章。


 


 


 でも。


 


 


 そこに込められた迷いを、レンは感じ取ってしまう。


 


 


 しばらく画面を見る。


 


 


 胸が静かに痛む。


 


 


 会いたい。


 


 


 ちゃんと。


 


 


 でも。


 


 


 会えば会うほど、“戻れなくなる感覚”も強くなっていく。


 


 


 その時。


 


 


 もう一件届く。


 


 


 【水族館、近く通ったから】


 


 


 レンは、小さく息を吐いた。


 


 


 結局。


 


 


 返事は一つしかなかった。


 


 


 【行く】


 


 


 送信。


 


 


 雪は、静かに降り続いている。


 


 


 夜の水族館は、前より少しだけ人が多かった。


 


 


 クリスマスが近いからか。


 


 


 カップルも多い。


 


 


 青い光。


 


 


 静かな水音。


 


 


 クラゲの水槽が、ゆっくり揺れている。


 


 


 美月は、水槽の前で立っていた。


 


 


 白いマフラー。


 


 


 少し冷えた頬。


 


 


 レンを見ると、小さく笑う。


 


 


 「来てくれた」


 


 


 レンも少し笑った。


 


 


 「来るだろ、そりゃ」


 


 


 美月は安心したように息を吐く。


 


 


 でも。


 


 


 どこか少し、泣きそうな顔だった。


 


 


 二人は並んで歩き出す。


 


 


 会話は少ない。


 


 


 でも。


 


 


 沈黙が苦しいわけじゃない。


 


 


 むしろ。


 


 


 言葉にしない方が、壊れない気がした。


 


 


 その時。


 


 


 美月がぽつりと言う。


 


 


 「最近ね」


 


 


 レンが顔を向ける。


 


 


 美月はクラゲを見つめたまま続けた。


 


 


 「レンと話さないようにしてたの」


 


 


 レンの胸が、少しだけ痛む。


 


 


 美月は苦笑した。


 


 


 「会いたくなるから」


 


 


 静かな水音が響く。


 


 


 レンは何も言えなかった。


 


 


 美月は続ける。


 


 


 「でも」


 


 


 少し間。


 


 


 「会わないと、もっと会いたくなるんだよね」


 


 


 その言葉が、静かに胸へ落ちる。


 


 


 レンは目を伏せる。


 


 


 感情って、多分。


 


 


 距離を取れば消えるほど簡単じゃない。


 


 


 むしろ。


 


 


 静かな場所で、ゆっくり育ってしまうことがある。


 


 


 その時。


 


 


 クラゲの水槽が、二人を青く照らした。


 


 


 美月が、小さく笑う。


 


 


 「ほんと困る」


 


 


 レンも苦笑した。


 


 


 「だな」


 


 


 でも。


 


 


 二人とも、本当はわかっていた。


 


 


 “困る”で済まなくなり始めていることを。


 


 


 その時。


 


 


 美月の指先が、そっとレンの袖へ触れる。


 


 


 小さな動作。


 


 


 でも。


 


 


 その温度だけで、胸が痛くなる。


 


 


 美月は、少し震える声で呟いた。


 


 


 「……好きになり直しちゃったな」


 


 


 レンの呼吸が止まる。


 


 


 クラゲの光が、静かに揺れている。


 


 


 誰も、すぐには言葉を返せなかった。

読んでいただきありがとうございます!


今回は、“抑えようとしても消えない感情”を描いてみました。

静かな恋ほど、気づいた時には深くなっているのかもしれません。

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