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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百二十四話 寂しさの行き先

寂しさは、弱さじゃない。

“誰かが必要だった”という、人間らしさそのものなのかもしれない。

 夜の透明都市は、静かだった。


 


 


 冬の風。


 


 


 ビルの灯り。


 


 


 遠くで鳴る電車の音。


 


 


 レンは、店の屋上へ一人で上がっていた。


 


 


 缶コーヒーから、白い湯気が立っている。


 


 


 スマートフォンには、美月との短いやり取り。


 


 


 【クラゲ、結局三十分くらい見てた】


 


 


 【好きじゃん】


 


 


 【かも】


 


 


 たったそれだけ。


 


 


 でも。


 


 


 その短いやり取りを、何回も見返してしまう自分がいた。


 


 


 その時。


 


 


 屋上の扉が開く。


 


 


 雪斗だった。


 


 


 「やっぱここいた」


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 「なんでわかるんだよ」


 


 


 雪斗は隣へ来る。


 


 


 そして。


 


 


 レンのスマホ画面をちらっと見た。


 


 


 「重症だねえ」


 


 


 レンが顔をしかめる。


 


 


 「うるせ」


 


 


 雪斗は笑った。


 


 


 少し沈黙。


 


 


 冬の風だけが吹いている。


 


 


 その時。


 


 


 雪斗がぽつりと言う。


 


 


 「寂しい?」


 


 


 レンは、少しだけ言葉に詰まる。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく頷いた。


 


 


 「……まあ」


 


 


 距離を取るって、多分。


 


 


 正しいだけじゃない。


 


 


 ちゃんと寂しい。


 


 


 連絡減るだけで。


 


 


 会えないだけで。


 


 


 胸に、小さい穴が空く。


 


 


 雪斗は夜景を見ながら言う。


 


 


 「でもさ」


 


 


 「寂しさって、悪い感情じゃないと思うんだよね」


 


 


 レンが顔を向ける。


 


 


 雪斗は続けた。


 


 


 「昔の透明都市って」


 


 


 「多分、“寂しさ消そうとしすぎた街”だったじゃん」


 


 


 店のネオンが、静かに光っている。


 


 


 雪斗は苦笑する。


 


 


 「でも人間って、寂しいから誰か探すんだよ」


 


 


 その言葉が、胸へ落ちる。


 


 


 レンは静かに息を吐く。


 


 


 確かにそうだった。


 


 


 孤独。


 


 


 不安。


 


 


 寂しさ。


 


 


 それは苦しい。


 


 


 でも。


 


 


 その感情があるから、人は誰かへ手を伸ばす。


 


 


 その時。


 


 


 レンがぽつりと呟く。


 


 


 「……昔の俺、多分」


 


 


 「寂しいって認めるの嫌だった」


 


 


 雪斗が笑う。


 


 


 「男あるある」


 


 


 レンも少し笑った。


 


 


 でも。


 


 


 今は違う。


 


 


 美月と距離が空いて、寂しい。


 


 


 ちゃんと。


 


 


 それを認められる。


 


 


 その時。


 


 


 スマホが震える。


 


 


 美月から。


 


 


 【今日さ】


 


 


 【旦那さん寝たあと、ちょっと泣いちゃった】


 


 


 レンの呼吸が止まる。


 


 


 続けてメッセージ。


 


 


 【理由わかんない】


 


 


 その文字を見た瞬間。


 


 


 レンの胸が、静かに痛んだ。


 


 


 わかってしまうから。


 


 


 寂しいのだ。


 


 


 簡単に会えないことも。


 


 


 選べないことも。


 


 


 全部。


 


 


 その時。


 


 


 レンは、しばらく返信できなかった。


 


 


 言葉を間違えたくなかった。


 


 


 でも。


 


 


 放っておきたくもなかった。


 


 


 やがて。


 


 


 静かに打つ。


 


 


 【ちゃんと寂しいんだと思う】


 


 


 送信。


 


 


 数秒後。


 


 


 既読がつく。


 


 


 でも。


 


 


 返信は、しばらく来なかった。


 


 


 透明都市の夜景だけが、静かに光っていた。

読んでいただきありがとうございます!

今回は、“距離を取ったあとに残る寂しさ”を描いてみました。

感情を抱えて生きるということは、きっと“苦しさを消さない”ことでもあります。

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