表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/151

第百二十二話 帰れなくなる前に

人は時々、“会わない優しさ”を選ばなければいけない。

それでも消えない感情が、本物だったりする。

 夜の透明都市は、少し冷えていた。


 


 


 レンは、美月から送られてきたメッセージをぼんやり見ている。


 


 


 【今日、旦那帰り遅いみたい】


 


 


 短い文章。


 


 


 でも。


 


 


 その言葉の奥にある“寂しさ”を、レンは感じ取ってしまった。


 


 


 数秒後。


 


 


 もう一件届く。


 


 


 【なんか急に話したくなった】


 


 


 レンはスマホを握ったまま、少し黙る。


 


 


 胸が静かに揺れる。


 


 


 会いたい。


 


 


 その感情は、確かにある。


 


 


 でも同時に。


 


 


 どこかで警鐘みたいなものも鳴っていた。


 


 


 その時。


 


 


 カウンターの向こうで、アカネがぽつりと言った。


 


 


 「顔、やばいわよ」


 


 


 レンが顔を上げる。


 


 


 アカネは珈琲を飲みながら続けた。


 


 


 「恋愛で人生壊す五秒前みたいな顔してる」


 


 


 レンが顔をしかめる。


 


 


 「言い方」


 


 


 雪斗が奥から笑う。


 


 


 「否定しないんだ」


 


 


 レンは深く息を吐いた。


 


 


 スマホを伏せる。


 


 


 そして。


 


 


 ぽつりと呟く。


 


 


 「……会いたいんだよ」


 


 


 店内が静まる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「でも、多分」


 


 


 「今のタイミングで会い続けたら」


 


 


 「戻れなくなる気がする」


 


 


 その言葉は。


 


 


 自分自身へ向けた確認みたいだった。


 


 


 アカネは黙って聞いている。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「昔みたいに、“感情だけで走る恋”にはしたくない」


 


 


 胸の奥が少し痛む。


 


 


 好きだ。


 


 


 ちゃんと。


 


 


 でも。


 


 


 だからこそ、壊したくなかった。


 


 


 その時。


 


 


 雪斗が静かに言う。


 


 


 「でもさ」


 


 


 レンが顔を向ける。


 


 


 雪斗は椅子へ座りながら続けた。


 


 


 「人間って、“ダメだってわかってる時”が一番感情強くなるよね」


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 否定できなかった。


 


 


 会えない。


 


 


 簡単に選べない。


 


 


 だから余計に、美月の存在が大きくなる。


 


 


 アカネがぽつりと言う。


 


 


 「恋愛って、タイミング残酷だから」


 


 


 店内が静まる。


 


 


 アカネは続けた。


 


 


 「もう少し早かったら、とか」


 


 


 「もう少し遅かったら、とか」


 


 


 「そういうので人生変わる」


 


 


 レンは、スマホを見る。


 


 


 美月とのメッセージ画面。


 


 


 今すぐ会いに行くこともできる。


 


 


 でも。


 


 


 その一歩が、多分いろんなものを変えてしまう。


 


 


 その時。


 


 


 スマホが、また震える。


 


 


 【ごめん、変なこと言った】


 


 


 【忘れて】


 


 


 レンの胸が、少し締め付けられる。


 


 


 “忘れて”。


 


 


 多分それは、本心じゃない。


 


 


 でも。


 


 


 言わなきゃいけなかった言葉だ。


 


 


 レンは、しばらく画面を見つめる。


 


 


 やがて。


 


 


 静かに返信した。


 


 


 【忘れないよ】


 


 


 送信。


 


 


 そのあと。


 


 


 少し迷ってから、続ける。


 


 


 【でも今日は帰って寝ろ】


 


 


 数秒後。


 


 


 【……うん】


 


 


 短い返信。


 


 


 でも。


 


 


 その“うん”には、いろんな感情が混ざっている気がした。


 


 


 レンはスマホを伏せる。


 


 


 胸は苦しかった。


 


 


 でも。


 


 


 この苦しさから逃げたくないとも思った。


 


 


 それがきっと。


 


 


 “感情を抱えて生きる”ということだった。

読んでいただきありがとうございます!


今回は、“戻れなくなる前に止まる感情”を描いてみました。

大人になるほど、恋愛は“好き”だけでは動けなくなっていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ