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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百二十話 壊れなかった理由

人は、“完全に治る”から救われるわけじゃない。

壊れかけたままでも、生きていていいと思える場所で救われることがある。

 翌日の透明都市は、綺麗に晴れていた。


 


 


 冬の青空。


 


 


 冷たい風。


 


 


 街路樹の葉は、ほとんど落ちている。


 


 


 レンは、黒い店の前で缶コーヒーを飲んでいた。


 


 


 昨日のアカネの言葉が、まだ頭に残っている。


 


 


 “弱いまま居てもいい場所”。


 


 


 昔の自分には、なかったものだ。


 


 


 その時。


 


 


 店の扉が開く。


 


 


 雪斗だった。


 


 


 眠そうな顔。


 


 


 煙草。


 


 


 相変わらず、やる気があるのかないのかわからない。


 


 


 雪斗はレンを見る。


 


 


 「珍しいじゃん、外いるの」


 


 


 レンは肩をすくめた。


 


 


 「なんとなく」


 


 


 雪斗も隣へ立つ。


 


 


 少し沈黙。


 


 


 街の音だけが流れている。


 


 


 その時。


 


 


 レンがぽつりと聞いた。


 


 


 「雪斗ってさ」


 


 


 「なんでこの店いるの」


 


 


 雪斗が目を瞬かせる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「アカネもそうだけど」


 


 


 「普通、もっと離れたくならない?」


 


 


 感情ばかり扱う場所。


 


 


 壊れた人が来る場所。


 


 


 しんどいはずだった。


 


 


 雪斗は少し考える。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく笑った。


 


 


 「……壊れなかったからかな」


 


 


 レンが眉をひそめる。


 


 


 雪斗は空を見ながら続けた。


 


 


 「俺、昔けっこう危なかったんだよ」


 


 


 レンは黙って聞いている。


 


 


 雪斗は珍しく、自分から話し始めた。


 


 


 「なんも感じない時期あって」


 


 


 「誰といても楽しくないし」


 


 


 「恋愛も全部薄いし」


 


 


 「このまま誰にも本気になれないんだろうなって思ってた」


 


 


 風が吹く。


 


 


 雪斗は苦笑した。


 


 


 「まあ、簡単に言うと空っぽだった」


 


 


 レンは、少しだけ昔の自分を重ねる。


 


 


 雪斗は続ける。


 


 


 「で、その時アカネに会った」


 


 


 店の扉を見る。


 


 


 「最初、めちゃくちゃ嫌いだった」


 


 


 レンが吹き出す。


 


 


 「なんで」


 


 


 雪斗は即答した。


 


 


 「感情見透かしてくるから」


 


 


 その答えに、レンは苦笑する。


 


 


 確かにアカネは、人の“隠してる感情”を見る。


 


 


 雪斗は続けた。


 


 


 「でも」


 


 


 少し間。


 


 


 「この店だけは、“何も感じない俺”を異常扱いしなかった」


 


 


 その言葉が、静かに落ちる。


 


 


 雪斗は、煙草へ火をつけた。


 


 


 「治そうともされなかったし」


 


 


 「説教もされなかったし」


 


 


 煙が空へ溶けていく。


 


 


 「ただ、“そういう時もある”って感じだった」


 


 


 レンは黙って聞いている。


 


 


 雪斗は小さく笑う。


 


 


 「多分それで、壊れなかった」


 


 


 その瞬間。


 


 


 レンは気づく。


 


 


 この店は、“感情を正しくする場所”じゃない。


 


 


 泣けない人。


 


 


 怒れない人。


 


 


 空っぽな人。


 


 


 そういう人間を、“そのまま存在させる場所”なのだ。


 


 


 その時。


 


 


 店の扉が勢いよく開く。


 


 


 アカネだった。


 


 


 「寒いんだけど、なに青春してんの」


 


 


 雪斗が笑う。


 


 


 「別に」


 


 


 アカネは呆れながら缶コーヒーを奪う。


 


 


 そして。


 


 


 ぽつりと言った。


 


 


 「でもまあ」


 


 


 二人を見る。


 


 


 「壊れなかったなら、それで充分じゃない」


 


 


 冬の空は、青く澄んでいた。


 


 


 透明都市。


 


 


 感情を失いかけた街。


 


 


 でも今は。


 


 


 壊れかけた人たちが、少しずつ呼吸を取り戻し始めていた。

読んでいただきありがとうございます!


第百二十話です。

今回は、“黒い店”そのものの意味へ少し踏み込んでみました。

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