第百十九話 強い人のふり
“強い人”ほど、本当は誰かに寄りかかるのが下手だったりする。
だから人は、“弱くても居ていい場所”を探してしまう。
雨は、夜更けになるほど静かになっていった。
黒い店の中。
薄暗い照明。
珈琲の匂い。
アカネはカウンターへ頬杖をついたまま、窓の外を見ている。
レンは、その横顔をぼんやり眺めていた。
アカネが“感情を重いと思われたくなかった”と言った時。
なぜか胸が少し痛んだ。
多分。
レン自身も、似たことをしていたからだ。
その時。
アカネが小さく笑う。
「なによ」
レンが目を逸らす。
「別に」
アカネは苦笑した。
「嘘下手ねえ」
少し沈黙。
そして。
レンがぽつりと聞く。
「……なんで、“平気なふり”してたの」
アカネは少し考える。
やがて。
静かに答えた。
「壊れたら、終わると思ってたから」
その言葉が、静かに落ちる。
アカネは続ける。
「昔から、“しっかりしてるね”って言われること多かったの」
「頼られるし」
「相談されるし」
「泣かなそうって言われるし」
苦笑する。
「だから、途中からほんとに泣けなくなった」
レンは黙って聞いている。
アカネは続けた。
「だって、“強い人”って思われてる方が楽なのよ」
「弱音吐いた時、ガッカリされないから」
その言葉で。
レンは、胸の奥が少し痛くなる。
“強い人”。
その言葉って、多分。
時々、人を孤独にする。
誰も、“助けが必要な人”として見なくなるから。
その時。
店の奥から雪斗が出てくる。
コンビニのプリンを持っていた。
アカネが呆れる。
「また人の店の冷蔵庫漁ってる」
雪斗は気にしない。
スプーンを咥えながら言う。
「強い人のふりって、依存よりバレにくいから厄介なんだよね」
レンが顔を向ける。
雪斗は続けた。
「依存って、苦しそうだから周りも気づくじゃん」
「でも、“ちゃんとしてる人”って」
プリンを一口食べる。
「壊れるまで誰も気づかない」
店内が静まる。
アカネは苦笑した。
「やめてよ、説得力あるから」
雪斗は肩をすくめる。
「実際、アカネ一回壊れかけてたし」
レンが目を瞬かせる。
アカネは即座に睨む。
「余計なこと言わなくていい」
でも。
否定はしなかった。
その瞬間。
レンは初めて理解する。
この店は。
“感情を扱う場所”である前に。
“壊れかけた人たち”が、なんとか立っている場所なのだ。
その時。
アカネが、小さく息を吐く。
そして。
少しだけ笑った。
「でもまあ」
レンと雪斗を見る。
「最近は、前よりマシ」
レンが聞く。
「なんで」
アカネは少し考える。
やがて。
静かに答えた。
「“弱いまま居てもいい場所”があるからかもね」
その言葉で。
店の空気が、少しだけ柔らかくなった。
外では、雨が止み始めていた。
読んでいただきありがとうございます!
今回は、“強い人のふり”について描いてみました。
感情を隠すのが上手い人ほど、実は一番壊れやすいのかもしれません。




