第十一話 綺麗に壊れた人間
人は、愛を信じたい。
でも本当に傷ついた人間ほど、“永遠”を疑うようになる。
『失った人間は、綺麗でしょう?』
藤堂アカネの声が、静かに耳へ残る。
レンは窓の外を見た。
転んで泣いていた子供は、もう泣き止んでいた。
母親に手を引かれながら、小さく笑っている。
痛い。
泣く。
抱きしめられる。
安心する。
そういう感情の流れが、当たり前みたいに存在している。
なのに。
目の前の少女は、それを失っている。
「……お前、何がしたいんだ」
レンは低く言った。
電話の向こうで、アカネが少し笑う。
『難しい質問ね』
「人の感情を集めて」
「人生を壊して」
「何になる」
アカネは少し黙った。
そして、静かに言う。
『確認したいだけ』
「何を」
『愛は、本当に存在するのか』
レンは眉をひそめた。
「は?」
アカネの声は穏やかだった。
『人って、簡単に裏切るでしょう?』
『好きだと言いながら、別の人を選ぶ』
『愛してると言いながら、傷つける』
『永遠って言いながら、終わる』
その声には、妙な冷たさがあった。
まるで。
何度も何度も、失望してきた人間みたいだった。
『だから知りたいの』
アカネは続ける。
『記憶を失っても』
『感情を消しても』
『それでも残る想いがあるなら』
少しだけ沈黙。
『それは本物だから』
レンは言葉を失った。
狂っている。
でも。
どこかで理解してしまう自分もいた。
顔も思い出せない。
名前も知らない。
なのに。
胸だけが痛い。
それは確かに、何かが残っている証拠だった。
「……それで」
レンは低く聞く。
「本物だったら、なんなんだ」
アカネは少し笑った。
『嬉しい』
「は?」
『だって、この世界にもまだ、“消えないもの”があるってことでしょう?』
その言葉は、妙に寂しかった。
レンは気づく。
この女は。
愛を信じたいんだ。
でも、信じきれない。
だから他人の感情を集めている。
確認するみたいに。
「……お前」
レンが何か言おうとした時。
ユイが小さく呟いた。
「藤堂さんって」
レンは振り返る。
ユイは静かに言った。
「多分、すごく寂しい人ですよね」
電話の向こうが、一瞬だけ静かになった。
その沈黙が。
答えみたいだった。
やがてアカネは、小さく笑う。
『鋭い子、好きよ』
ユイは何も返さない。
アカネは続ける。
『じゃあ次、会いましょうか』
「……どこで」
『私の家』
レンの眉が動く。
『あなた、自分の愛を見たくない?』
その言葉と同時に。
レンの胸の奥で、何かが強く脈打った。
読んでいただきありがとうございます!
藤堂アカネの“目的”が少しずつ見えてきました。
次回、レンはついにアカネと直接会うことになります!




