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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百八話 優しい人ほど壊れる

優しさは、美しい。

でも、“自分を削り続ける優しさ”は、いつか人を壊してしまう。

 雨は、まだ降り続いていた。


 


 


 黒い店の窓を、水滴がゆっくり流れていく。


 


 


 女性は、静かに涙を流していた。


 


 


 怒れなかった人。


 


 


 ずっと、“いい人”で生きてきた人。


 


 


 その涙は。


 


 


 悲しみというより、“やっと自分に気づいた涙”みたいだった。


 


 


 レンは、その姿を静かに見ている。


 


 


 女性は涙を拭いながら、小さく笑った。


 


 


 「変ですよね」


 


 


 「怒ってるのに、泣いてる」


 


 


 アカネが苦笑する。


 


 


 「感情って、大体ぐちゃぐちゃだから」


 


 


 女性は少しだけ吹き出した。


 


 


 その時。


 


 


 レンがぽつりと聞く。


 


 


 「ずっと、我慢してきたんですか」


 


 


 女性は少し黙る。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく頷いた。


 


 


 「……多分」


 


 


 窓の外を見る。


 


 


 「嫌われるの、怖かったんです」


 


 


 その言葉が、静かに店へ落ちる。


 


 


 女性は続けた。


 


 


 「だから、“いい人”でいれば大丈夫だと思ってた」


 


 


 「怒らないで」


 


 


 「合わせて」


 


 


 「笑ってれば」


 


 


 少し笑う。


 


 


 でも。


 


 


 その笑顔はひどく疲れていた。


 


 


 「誰かに必要としてもらえるかなって」


 


 


 レンの胸が、少し痛む。


 


 


 わかってしまった。


 


 


 この人は、“優しい”んじゃない。


 


 


 “嫌われないために優しくし続けた”。


 


 


 だから。


 


 


 ずっと、自分が削れていた。


 


 


 その時。


 


 


 雪斗が静かに言う。


 


 


 「優しい人ほど壊れるんだよね」


 


 


 女性が顔を上げる。


 


 


 雪斗は珈琲を見つめたまま続けた。


 


 


 「他人優先できる人って」


 


 


 「限界来ても、“まだ大丈夫”って顔するから」


 


 


 店内が静まる。


 


 


 雨音だけが響いている。


 


 


 雪斗は少し苦笑する。


 


 


 「で、ある日突然壊れる」


 


 


 その言葉に。


 


 


 レンは、アカネを見る。


 


 


 アカネもまた。


 


 


 ずっと人の感情を受け止め続けてきた人だった。


 


 


 アカネは視線に気づく。


 


 


 そして。


 


 


 少しだけ眉をひそめた。


 


 


 「なによ」


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 「いや、説得力あるなって」


 


 


 アカネは小さく舌打ちした。


 


 


 でも。


 


 


 少しだけ笑っていた。


 


 


 その時。


 


 


 女性がぽつりと呟く。


 


 


 「……じゃあ、どうしたら壊れないんですかね」


 


 


 その質問に。


 


 


 誰もすぐ答えられなかった。


 


 


 多分。


 


 


 簡単な答えがないから。


 


 


 しばらく沈黙が流れる。


 


 


 やがて。


 


 


 レンが静かに言った。


 


 


 「ちゃんと、“嫌だ”って言うことじゃないですかね」


 


 


 女性が目を瞬かせる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「多分、自分守るの下手だと」


 


 


 「優しさって、どんどん“自己犠牲”になるから」


 


 


 胸の奥が、少し熱い。


 


 


 昔の自分も。


 


 


 “愛されたい”が、“自分をなくすこと”へ変わっていた。


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 「俺、それで一回壊れたし」


 


 


 女性は、小さく笑った。


 


 


 涙の跡が残る顔で。


 


 


 でも。


 


 


 その笑顔は、最初より少しだけ自然だった。


 


 


 その時。


 


 


 窓の外で、雨が少し弱くなる。


 


 


 透明都市の夜。


 


 


 感情を取り戻した街は。


 


 


 今日も、不器用に息をしていた。

読んでいただきありがとうございます!

今回は、“怒れなかった人”の続きとして、

“優しさと自己犠牲の境界線”へ触れてみました!

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