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オマケ

オマケを投稿するのを忘れておりました。

ユティシアがシルフィ、アルヴィンと出会う前。騎士団初任務のお話です。

「おう、お前喜べ。初任務だ」

「はい……?」


師匠は帰って来るなり、任務内容の書かれた紙をユティシアに渡した。

依頼書に目を通していくうちに、ユティシアの顔色がどんどん変わっていく。


「あの、最強ランクの魔物討伐って…」


初任務でこの難易度はあり得ない。せめて中級くらいから始めるとか……とユティシアは思う。


「大丈夫だ、安心しろ。そんなに強くない」

「最強ランクはどれも強いですけれど」

「まあ、俺も付いて行ってやるから」


付いて来てくれるというだけで、危険な時に手を貸してくれるとはとても思えないのだが。


「とりあえず、行くぞ」






連れて行かれたのは、迷子になりそうなほど深い森の中。魔が嫌というほど充満していて、息が詰まりそうだ。魔を可視化したら、完全に視界が遮られそうなほどに嫌な空気だ。


「ほれ、シア。餞別だ」

「……………へ?」


師匠がユティシアの首の後ろに手を回し、付けてくれたのは綺麗な首飾りだった。容姿の整った師匠にこんなことをして貰った日には、女の子は泣いて喜ぶだろう。しかし、結構な値段のもので、少なくともこれから戦闘を行う者に身に着けさせる物ではない。

そうではなくて、問題は、それが呪いの首輪だったことだ。魔法を使えば一瞬で心の蔵が刺し貫かれ、死に至るという代物だ。


「魔法は禁止。剣のみで勝って見せろ。勝った暁にはそれを外してやる」

「…………………」


魔法がないと、シアは無力に等しいのだ。正直、剣で戦うにしても魔法で身体強化を行わなければ魔物の速さにもついて行けないし、力負けしてしまうことは目に見えている。魔法もなしに普通に戦っている師匠はもはや人間ではない。

だが、これ以上文句を言っても無駄だと悟ったユティシアは何も言わず、去っていく師匠を見送った。


「さてと……魔物を倒しますか」


呪いの首輪で死ぬか、魔物に食い殺されるか……どちらにしろ、死ぬ確率は果てしなく高い。だったら―――――。


「―――――全力で戦うしかない」


ユティシアは剣を握りなおした。





ぎゃあぁぁぁぁぁぁ……。

魔物の方向が森中に響き渡る。ばきばきと森の木がなぎ倒されて、魔物の位置が容易に掴める。


来る!!

ユティシアは剣を構え、目をかっと開く。魔物の動きは一瞬たりとも見逃せない。その一瞬が命取りになる。………特に、最強ランクの魔物が相手では。

しかも、今日は大剣が使えない。身体強化なしでも使える剣を握っているユティシアは、普段の感触と違うそれに眉をひそめた。


木の生えていない開けた土地で、ユティシアは魔物を迎え撃つ。


しかし―――――。


「うっ」


初撃は何とか躱したものの、それ以降は防ぎきることが出来ない。ユティシアの身体には、つぎつぎに傷が増えていく。普段日の下に晒さない白い肌は、見る見るうちに真っ赤に染まっていった。


このままでは、負けてしまう…。そう思ったユティシアは、何か利用できるものがないかと辺りを見回す。

だが、周りに見えるのは森。日の光も差さないほどに密集した木々のみ、だ。


木……もしかして……?


ユティシアの脳裏に浮かんだのは、先ほど魔物が森を移動していたときの光景だ。木々をなぎ倒して進む魔物の動きが手に取るように分かった。

これならば、きっと―――――。


ユティシアは森の奥に向かって駆け出した。

魔物もユティシアを追って来るが、木々が邪魔をしてうまく進めず攻撃を放っても簡単に避けられるものばかりだ。

ユティシアの思惑は成功した。ここの木は、深く根を張る上に普通のものより木が堅いのだ。案の定、魔物の動きは鈍くなり、魔法を使わないユティシアでも何とか対峙できる速さになっていた。


だが、このまま逃げ回っているわけにはいかない。多くの木々を破壊して森林破壊も甚だしいし、このままでは魔物を仕留めることは出来ず、体力を削るばかりだ。ユティシアの体力は周りの魔力を糧にしている魔物より先に尽きるだろうし、魔物の外殻は普通の剣では貫くことが出来ないくらい非常に硬いので、逃げ続けて力の落ちた生半可な攻撃では太刀打ちできない。


ユティシアは足を止め、迫ってくる魔物に対して正面を向く。


そして―――――鋭い牙がのぞくその口内に飛び込んだ。


次の瞬間、魔物は悲鳴を上げる間もなく倒れた。首と胴がずれ、身の柔らかい内側から切られたのだということが分かる。


「終わった……」


ユティシアは魔物の体を切り裂いて姿を現した。


師匠は、ユティシアを追い詰めているように見えて、勝てる条件を最低限用意してくれていた。まあ、最低限……だが。


「おう、よくやったな」


師匠が姿を現し、ユティシアの頭をわしわしと撫でる。その手は乱暴だったが、温かいものだった。


「ほれ、今度こそちゃんとした餞別だ」


師匠はユティシアに“光の盾”の騎士団認定証を渡す。それは、ユティシアがずっと望んでいたものだった。ユティシアは、それを大事そうに胸に抱き込む。


だが、ユティシアは知らなかった。

“狩人”の称号を唯一持つ師匠は最強ランクの魔物の依頼全てを受けなければならない。それが面倒くさくなった師匠は、後々ほとんどの仕事をユティシアに押し付けるつもりで彼女に“狩人”の称号を与えたのだとは。



ユティシアが仕事をこなすのに問題ない力量を身につけると、師匠はユティシアの前からあっけなく姿を消したのだった。






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