守護公爵とクズ王子
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カイル公爵との甘く危険な火花が散る中 無作法にその空間を割って入る影があった。
エセルの異母兄にあたる第一王子ゼノスとその取り巻きの貴族たちだ。
「おいおい、カイル公爵!そんな薄汚れた 出来損ないを相手にするのはよせ。 エセルお前のような不吉な赤髪が公爵閣下の隣に立つなど笑い草だぞ」
ゼノスは酒の入ったグラスを片手に下品な笑いを浮かべて近づいてきた。
かつての私ならこんな出来損ないの孫は即座に処分を命じていたところだが。
「あらお兄様 、相変わらずお口が悪くていらっしゃるのね。 淑女の髪を汚らわしいと仰るならその濁った瞳を先に洗浄して差し上げましょうか ?」
私が扇を 口元に当てて冷ややかに微笑むと 、ゼノスは顔を真っ赤にして激昂した。
「黙れ !出来損ないの分際で!お前のような女、アルド侯爵に売り飛ばしてやる」
ゼノスが私の腕を掴もうと油切った手を伸ばした。その瞬間 。
「…その汚い手を引け!さもなくば今ここで その腕を叩き切る!」
地を這うような低い声。
カイル公爵の放った凄まじい 殺気が 広間の空気を一瞬で凍らせた。
彼は私の肩を抱き寄せ盾になるように前に出ると腰に帯びた儀礼用の剣の鞘に手をかけた。
「カ、カイル公爵…!何の冗談を。 これは我が王家の家族の問題で…」
「家族だと?それが家族に言う言葉なのか?貴殿が今侮辱したのは私の唯一の守るべき淑女だ。
王族であろうと我がディートリッヒ家の名誉にかけてこの無礼を看過することはできない」
カイルの一歩 、それだけで 取り巻きの貴族たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。 戦場を支配する守護王の圧迫感。彼は冷徹な瞳で ゼノスを射抜き 一言ずつ死刑宣告のように告げる 。
「ゼノス 殿下 今後 エセル王女の髪に一筋でも触れてみろ。 貴殿の立場は明日にでも灰になっていると思え。これは警告ではない。 決定事項だ」
「ひっ…あ、ああ…」
ゼノスは腰を抜かし 尻餅をついた。 その情けない姿を私はカイルの腕の中から 優雅に見下ろした。
「カイル、あまり怖がらせては可哀想よ。 この子これでも私の可愛い孫のようなものだから」
私はわざと孫を強調しカイルの背中にそっと手を添えた。 カイルは一瞬 戸惑うように私を振り返ったが 、その瞳には 熱いものが混じっていた。
「エセル 、あなたが 甘やかす必要はない。 あなたを害するものは全て私が排除する」
彼は大勢の貴族が見守る中私の肩を抱いたまま堂々と会場を後にした。
「エセル …さっきのご褒美 詳しく聞かせてもらおうか。 私の執務室なら誰にも聞かれず 話ができる」
カイルの少し強引な誘いに私は心の中で苦笑した。
全くこの孫娘の体 、カイルに抱きしめられるたびにうるさくて困るわ。
重厚な オークの扉が閉まり、カイル公爵の執務室に二人きりになった瞬間彼は私を壁際 へ追い詰めた。 月明かりだけが差し込む 室内で彼の銀髪が冷ややかに光る。
「さて 、会場であれほど私を煽ったご褒美 用意はできているんだろうな」
カイルの声は低く熱を帯びていた。 彼は私の腰を引き寄せ逃げ場を奪うように両手を壁についた。
「あら 性急ね。 ご褒美は…これかしら」
私はエセルの可憐な指先でカイルの軍服の首元をゆらりと解いた。
彼の心臓の鼓動が 指先を通して伝わってくる。 猛獣のような彼が指一つで呼吸を乱している。
「…それだけか ?」
「いいえ… これよ」
私は背伸びをして彼の耳元で前世のお祖父様 戦友しか知らなかったデート リッ家の秘匿された真の家訓を囁いた。
「鉄は熱いうちに打て。愛は密やかに。…そうでしょう 、カイル」
カイルの体が雷に打たれたように硬直した。 その言葉は一族の当主しか知らない 墓場まで持っていく言葉 。
「な…なぜそれを…?」
「ふふ 驚いた ?これが私からの最大の信頼 (ご褒美 )よ」
私は動揺する彼の頬に羽毛が触れるような軽いくちづけを落とし、するりと腕をすり抜けた。
「さあ 甘い時間はここまで。 次は私の逆襲を手伝ってくださるかしら。 カイル公爵(マイ、ナイト)」
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