第35話:真夜中の最終監査・無人機(ゴーレム)の急襲
「……フフフ、ここまで嗅ぎ回るとはな。だが、お前たちの『決算』もここまでだ」
東雲グループの残党、黒いスーツの男が不気味なリモコンを掲げる。
その瞬間、倉庫の奥から巨大な水音と共に、怪物が姿を現した。
それは、ボートを二隻連結させたような異形の双胴船――無人からくり機『ケルベロス』。
機体全体がどす黒い違法マブイを放ち、剥き出しのスクリューがコンクリートの床を削りながら、猛然と健太たちへ突進してきた。
「な、何よこれ……ボートじゃないわ、ただの人殺し機械じゃない!」
麗華がマブイ・バリアを展開するが、ケルベロスの暴力的な出力に、その障壁がみるみるうちにひび割れていく。
「佐伯さん! ハクが言っています、あの機体のコアは三つのエンジンが連結されている……普通の攻撃じゃ止まりません!」
紫乃が叫ぶ。
健太は、懐から取り出したストップウォッチを一瞥した。
午後8時52分。
宿舎の外出門限まで、あと8分。
「……スエ、紫乃ちゃん、霧島さん。……あと5分で片付ける。……門限破りは、俺の『就業規則』に反するからな」
健太は眼鏡をポケットにねじ込み、ネクタイを右手に巻き付けた。特命係長・只野仁の、本気の戦闘モード。
「スエ! 左の排気口だ! ハク、右の同調回路を吠えろ!」
「ワンッ!」「ワンワンッ!!」
二匹の特命パグとペキニーズが、ケルベロスの死角へと飛び込む。
ハクの特殊な吠え声が電子ロックを狂わせ、スエが「お座り」の要領で配線を引きちぎる。
その一瞬の隙を突き、健太が宙を舞った。
特命奥義:『減価償却(一撃)・インパクト』。
ケルベロスの中心、三つのエンジンが交わる「連結決算点」に向けて、健太の拳が鋼鉄を貫く勢いで叩き込まれた。
マブイの火花が散り、異形の巨体が沈黙する。
「……不適切な資産は、没収だ」
健太は倒れ伏す男たちには目もくれず、息を切らした麗華と紫乃を促した。
「走るぞ! あと3分だ! 門限に遅れたら、SG失格になる!」
門限10秒前:宿舎の正門
「ハァ……ハァ……もう、私のヒールがボロボロじゃない……!」
麗華が叫び、紫乃がハクを抱えて転がるように正門へ滑り込む。
健太はスエを脇に抱え、警備員が門を閉めようとするその瞬間、スライディングで敷地内へ。
午後8時59分59秒。
「……セーフ、だな」
健太は荒い息をつきながら、再び眼鏡をかけた。
「……何よ、その涼しい顔は。……でも、助かったわ」
麗華が乱れた髪を直しながら、少しだけ顔を赤らめる。
だが、門の向こう側で、破壊された『ケルベロス』の残骸から、一つの不気味な通信音が響いていた。
『……佐伯健太。……明日、福岡SGの優勝戦。……お前の『ハヤブサ』には、我々の最後の一手が、既に入っているぞ』
東雲グループの最終宣告。
明日の優勝戦、健太は機体に潜む「最後の罠」を知らずに、博多の激流へと挑むことになる。




