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からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
SG挑戦編

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34/56

博多逃走曲・パグの接吻、再び

「佐伯さん、急ぎましょう。ハクが嗅ぎつけた東雲グループの接触ポイントが、あと数分で……」

 松風みなみが健太の腕を引き、足早にゲートを抜けようとしたその時。背後の自動ドアが静かに開き、背筋を凍らせるような圧力が放たれた。

「……あら。佐伯さん、それに松風さん。奇遇ね。こんな夕暮れ時に、年の離れた二人きりでどこへ『特別調査』に行くのかしら?」

 霧島麗華。東京支部の女王は、湯上がりの艶やかな肌とは裏腹に、その瞳に絶対零度の殺気を宿していた。

「……え、ええと、霧島さん。これはその、地元のコース特性、特に那珂川の上げ潮に関するレクチャーを……」

 健太が額に脂汗を浮かべ、苦し紛れの言い訳を並べた瞬間、麗華の手が健太の胸ぐらを「強制執行」せんと伸びる。

(スエ! 今だ、臨時決算スクランブルだ!!)

 健太の決死のアイコンタクトを受けたスエが、昨日のサウナでの経験を凌駕する、神がかり的な跳躍を見せた。

「フガガガガッ!!(麗華さまー! 大好きーッ!!)」

 スエは助走をつけて麗華の胸元へダイブ! 驚きで体勢を崩した麗華の顔面、特にその美しい紅を引いた唇から頬にかけて、情熱的な「全力ペロペロ攻撃」を開始した。

「きゃっ!? ちょっと、スエちゃん! やめて、まつ毛エクステが……ひゃっ、耳はやめてー!!」

 麗華がスエの「愛という名の拘束」に悶絶し、視界を完全に奪われている隙に、白いペキニーズのハクが「こちらです」と言わんばかりに尻尾で健太たちを誘導する。

「……スエ、恩に着る! 麗華さんの怒りは後で俺が全身で受け止める……物理的に!」

「……佐伯さん、あなたの犬、本当に特命プロですね……」

 みなみは呆れ半分、感心半分で呟き、健太と共に博多の闇へと消えていった。

 スエの献身的な陽動により麗華の追跡を逃れた二人は、中洲の屋台街からさらに外れた、人目を忍ぶ古い倉庫街に辿り着いた。ハクが一点を睨み、喉の奥で低く唸る。

「……あそこです。私の十四号機に、正体不明の『ブラックボックス』を運び込んでいる連中がいます」

 暗がりに停まる黒塗りの大型ワゴン車。そこから運び出されているのは、不気味な紫色の放電を繰り返す**「違法外付マブイ・クラスター」**だった。これをSG優勝戦で一斉にオーバーロードさせれば、福岡競艇場はマブイの暴走による火の海と化す。その大混乱に乗じて、東雲グループが市場の利権を強奪する手筈だ。

「……なるほど。これが『不適切な支出テロ』の全貌か。一円の端数も残さず、徹底的に損金処理スクラップしてやる必要があるな」

 健太は眼鏡を外し、特命係長モードへと切り替えた。

 だが、その時。健太たちの背後で、ガチガチと金属が触れ合う音が響いた。

「……おじさん、詰めが甘いよ。……ハヤブサへの細工に気づいてから、ずっと泳がせてたんだから」

 振り返ると、そこには東雲グループに買収された「闇の整備士」たち。そして――なぜかスエを脇に抱え、怒りで髪を逆立てた霧島麗華が、凄まじいプレッシャーを放って立っていた。

「……スエちゃんを『撒き餌』に使うなんて、万死に値するわよ。佐伯健太!!」

 麗華はスエを静かに地面に降ろすと、拳を鳴らした。

「……でも、あのゴミみたいな連中(東雲)が私の走る聖域(SG)を汚そうっていうなら話は別。……佐伯、松風。ここは『東京・福岡』の合同監査といきましょうか」

 闇の整備士たちが一斉に飛びかかる。

 健太の正確無比な打撃が男たちの急所を穿ち、麗華の放つマブイの波動が闇を切り裂いて暴漢を吹き飛ばす。

「ワンッ!」「フガッ!」

 スエとハクが連携し、暴漢の足首を次々と狩り取り、松風みなみが冷静に敵の死角を指示する。

「……サラリーマンを、なめるなよ……ッ!!」

 健太の回し蹴りがリーダー格の顎を捉え、地面に沈めた。

 博多の夜。SG開催の裏側で、史上最大の「場外・合同監査」が火蓋を切った。敵の戦力はまだ残っているが、健太の瞳には、すべての不正を正すための冷徹な炎が宿っていた。

「……霧島さん、後の『お叱り』は、この不適切個体(連中)をすべて計上し終えてからでお願いします」

「……ええ、利息たっぷりで請求してあげるわ」

 パグとペキニーズ、そして三人のレーサー。彼らの本当のSGスペシャル・ゲームが、今まさに始まった。

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