第34話:博多逃走曲・パグの接吻、再び
福岡SG、二日目の全レース終了後。
ピット裏の特別外出許可エリア。健太は、機体の闇を暴くための打ち合わせを兼ね、大原紫乃と共に宿舎の外へ出ようとしていた。
「佐伯さん、急ぎましょう。ハクが教えてくれた、東雲グループの接触ポイントが――」
紫乃が健太の腕を引き、足早に歩き出したその時。
背後の自動ドアが開き、氷点下のマブイを纏った「東京の女王」が姿を現した。
「……あら。佐伯さん、それに大原さん。奇遇ね。こんな夕暮れ時に、年の離れた二人でどこへ『特別監査』に行くのかしら?」
霧島麗華。その瞳は笑っているが、周囲の気温が5度ほど下がったかのような錯覚を覚える。
「……え、ええと、霧島さん。これはその、地元のコース特性のレクチャーを……」
健太が冷や汗を流しながら言い訳を始めた瞬間、麗華の手が健太の胸ぐらを掴もうと伸びる。
(スエ! 今だ、臨時決算だ!!)
健太のアイコンタクトを受けたスエが、昨日のサウナでの経験を活かし、さらに進化した動きを見せた。
「フガガガガッ!!(麗華さまー! 大好きーッ!!)」
スエは助走をつけて麗華の胸元へダイブ! 驚いてバランスを崩した麗華の顔面、特にその美しい紅を引いた唇から頬にかけて、情熱的な「全力ペロペロ」を開始した!
「きゃっ!? ちょっと、スエちゃん! やめて、まつ毛エクステが……ひゃっ、耳はやめてー!!」
麗華がスエの「愛という名の拘束」に悶絶し、視界を完全に奪われている。その隙に、白いペキニーズのハクが「こちらです」と言わんばかりに尻尾で健太たちを誘導した。
「……スエ、恩に着る! 麗華さんの怒りは後で俺が全身で受け止める!」
「……佐伯さん、あなたの犬、本当に特命ですね……」
紫乃は呆れ半分、感心半分で呟き、健太と共に博多の街へと消えていった。
中洲の闇:東雲グループの接触
スエのおかげで麗華の追跡を逃れた二人は、中洲の屋台街のさらに奥、人目を忍ぶ古い倉庫街に辿り着いた。
ハクが一点を睨んで低く唸る。
「……あそこです。私の14号機に、正体不明の『ブラックボックス』を運び込んでいる連中がいます」
暗がりに停まる黒塗りのワゴン車。そこから運び出されているのは、不気味な紫色の光を放つ**「違法外付マブイ・クラスター」**だった。
これをSG優勝戦で一斉にオーバーロードさせれば、福岡競艇場は火の海になり、大混乱の中で東雲グループが利権を奪い取る手筈だ。
「……なるほど。これが『不適切な支出』の全貌か」
健太は眼鏡を外し、特命係長モードへと切り替えた。
だが、その時。健太たちの背後に、ガチガチと金属が触れ合う音が響いた。
「……おじさん、詰めが甘いよ。……私のハヤブサへの細工に気づいてから、ずっと泳がせてたんだから」
振り返ると、そこには東雲グループに買収された「闇の整備士」たちと、そして――なぜかスエを抱きかかえ、怒りで髪を逆立てた霧島麗華が立っていた。
「……スエちゃんを『撒き餌』に使うなんて、万死に値するわよ。佐伯健太!!」
麗華は、スエを解放して言った。
「……でも、あのゴミみたいな連中(東雲グループ)が私のSGを汚そうっていうなら話は別。……佐伯、大原。ここは『東京・福岡』の合同監査といきましょうか」
乱闘:特命と女王の共同決算
健太の拳が唸り、麗華のマブイが闇を切り裂く。
スエとハクが暴漢の足首を次々と狩り取り、紫乃が正確な指示を飛ばす。
「……サラリーマンを、なめるなよ……ッ!!」
博多の夜。SG開催の裏側で、史上最大の「場外・合同監査」が火蓋を切った。




