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からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
SG挑戦編

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33/42

第33話:『博多の妖精・大原紫乃と白い導き手』


翌朝のピット。昨日、白いペキニーズ・ハクが健太に届けたチップには、福岡の複雑な「うねり」を解析した極秘のアルゴリズムが記録されていた。

「……おはようございます、佐伯さん」

背後からかけられた声は、鈴を転がすように澄んでいた。

そこにいたのは、福岡支部の期待を一身に背負う弱冠18歳のエース、大原紫乃。

モデルのような愛らしい容姿とは裏腹に、彼女が纏う14号機のマブイは、静かだが密度が異常に高い。

「……大原さん。昨日はどうも。ハクくんがくれたこれ、君の仕業かな?」

健太がチップを指先で弄ぶと、紫乃は小さく微笑み、周囲に誰もいないことを確認してから口を開いた。

「……私の14号機は、スタートの瞬間にマブイを『圧縮』して放つ特殊な仕様なんです。でも、最近その回路に『東雲グループ』の息がかかったパーツが混じっていることに気づきました」

「……それで、特命……いや、経理もとプロの俺に、監査を頼みたいってことか」

紫乃は頷き、足元にちょこんと座るハクを見つめた。

「ハクは、不純なマブイを嗅ぎ分けます。ハクが佐伯さんのスエちゃんを選んだのは、あなたたちがこの福岡で唯一『汚れていない』から」

第5レース:新旧エース対決

予選第5レース。1コースに佐伯健太。4コースにカドから攻める大原紫乃。

大原紫乃の真骨頂は、その驚異的なスタート勘にある。

「……全速フル・スロットル!」

大時計がゼロを刻む瞬間、紫乃の14号機が「コンマ02」の神がかり的なタイミングでスリットを通過した。3500のコアマブイが、18800の外付ユニットを通じて瞬時に爆発する。

「速い……! まさか、あの若さで『うねり』の隙間を全速で駆け抜ける気か!」

2コースの西貴斗が驚愕する。

だが、健太は紫乃から受け取ったチップのデータをハヤブサに同期させていた。

那珂川から流れ込む上げ潮が作る「死の反転流」。その唯一の安息点(安全地帯)を、健太は見切った。

「……大原さん。君の覚悟、この『ハヤブサ』が受け取った!」

決着:1マークの共鳴

紫乃が「まくり」を仕掛け、健太がインから「応戦」する。普通なら激突するライン。

しかし、二人のマブイが水面で交錯した瞬間、反発するのではなく、うねりを打ち消す「干渉波」を生み出した。

二艇はまるでダンスを踊るように、他艇を置き去りにして1マークを旋回。

結果は、内を死守した健太が1着。わずかに届かなかった紫乃が2着。

レース後:ピットの誓い

「……負けました。でも、これで確信しました。佐伯さんなら、ハヤブサなら、私の14号機に仕掛けられた『時限式マブイ・ロック』を外せるって」

紫乃はヘルメットを脱ぎ、汗に濡れた前髪を払いながら健太を見つめた。

東雲グループは、紫乃のスタート能力を逆手に取り、SG優勝戦のスタート時に彼女のエンジンを暴走させ、全艇を巻き込む大事故を起こそうと画策しているのだ。

「フガッ! ワンッ!」

ピットの片隅で、スエとハクが並んでこちらを見ている。

パグとペキニーズ。おじさんと美少女。

異色のコンビが、福岡SGの闇を照らすために動き出した。

「……よし。スエ、ハク。……最終決算レースまでに、その『不適切なパーツ』、全部叩き壊してやるよ」

健太は眼鏡の奥の目を、「特命係長」の冷徹な光へと変えた。

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