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からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
プロ駆け出し編

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27/42

第27話:深夜の特命・女子アナ救出決算


江戸川の祝勝会が終わり、東京支部の面々と別れた帰り道。

夜の帳が下りた葛西の静かな路地裏。健太はスエを連れ、酔い冷ましに歩いていた。

「フゴー、フゴー」と満足げに鼻を鳴らすスエ。だが、突如としてスエが足を止め、路地の暗がりに向かって低く唸った。

「……スエ、どうした」

視線の先、街灯の切れたゴミ置き場の近くで、数人の男たちが一人の女性を囲んでいた。

「いいじゃねえか、古閑さんよ。テレビじゃ見せない裏の顔、俺たちにだけ見せてくれよ」

「やめて……! 離して!」

悲鳴。そこには、競馬や競艇の中継で絶大な人気を誇る、古閑まきこアナウンサーがいた。仕事帰りか、華やかな衣装が乱れ、恐怖に顔を歪めている。

「……おい。深夜の強制連行は、労働基準法違反だぞ」

健太が静かに、しかし地を這うような声で闇から現れた。

黒縁眼鏡を外し、懐にしまう。その瞬間、穏やかな「おじさんレーサー」の面影は消え、特命係長のオーラが辺りを支配した。

「あぁ? なんだお前、ただのおっさんじゃねえか。失せろよ!」

一人の男がナイフを取り出し、健太に突進する。

だが、健太は微動だにしない。

ナイフが届く直前、健太は電光石火の速さで男の手首を掴み、その関節を冷徹に極めた。

「ぐわぁぁっ!?」

「……入力ミスだ。攻撃のベクトルが甘すぎる」

健太の体術は、相手の力を最小限の動きで無効化する。特命時代に幾多の修羅場を潜り抜けた、実戦格闘術。

二人目が背後から襲いかかるが、健太は振り向きざまに、重い一撃を男の鳩尾に沈めた。

「スエ、あっちだ!」

「ワンッ!」

スエが最後の一人の足首に噛みつき、注意を逸らす。その隙に、健太は流れるような動作で最後の一人を壁に叩きつけ、制圧した。

わずか数十秒の「特別監査」。

「……大丈夫ですか、古閑さん」

健太が倒れた男たちから視線を外し、古閑まきこに手を差し伸べた。

彼女は震える手で健太の手を握り、その鋭い、けれど深い優しさを湛えた瞳を見つめた。

「あ……ありがとうございます。……あなた、もしかして、今日の優勝者の……佐伯さん?」

「……ただの通りすがりのサラリーマンですよ。……今は、ボートに乗っているだけの」

健太は、落ちていた彼女のバッグを拾い上げ、埃を払って手渡した。

そこへ、騒ぎを聞きつけた警察のサイレンが近づいてくる。

「……名前を出すと、明日の番組の台本が書き換わってしまう。……ここは、私が処理しておきます」

健太はそう言い残すと、スエを抱き上げ、再び闇の中に消えていった。

翌朝:テレビの向こう側

健太が事務所でスエとササミを食べていると、テレビから古閑まきこのニュース番組が流れてきた。

そこには、昨夜の恐怖を感じさせないプロの笑顔で、江戸川のG1結果を伝える彼女の姿があった。

『……そして、今回の優勝者、佐伯健太選手。彼はまさに、水上のヒーローであるだけでなく、私たちの日常を陰で支える騎士ナイトのような方なのかもしれません』

カメラ目線で、彼女がほんの一瞬だけ、画面越しの健太にウインクをしたような気がした。

「……フゴッ?」

「……スエ、気のせいだ。……俺たちは、地味に生きるのが一番だからな」

だが、この救出劇がきっかけで、古閑まきこは「佐伯健太」という男に異常な興味を抱き始める。

そしてそれは、東京支部の女王・霧島麗華との、新たなる「女の戦い」の火種となるのであった。

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