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からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
プロ駆け出し編

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第21話:『女王、越前へ降臨す・スエの選別』

第21話:『女王、越前へ降臨す・スエの選別』

敦賀での優勝から一夜。

健太は帰京の準備を済ませ、駅前の静かな公園でスエを散歩させていた。

「……フゴー、フゴー」

昨夜の「勝利の女神」ぶりはどこへやら、スエは道端のシロツメクサに鼻を突っ込んで、のんびりと福井の余韻を楽しんでいる。

「……あら。意外と元気そうじゃない。もっとマブイ酔いで寝込んでるかと思ったのに」

凛とした声が公園の空気を震わせた。

振り返ると、そこには場違いなほどファッショナブルな私服に身を包み、大きなサングラスをかけた霧島麗華が立っていた。

「……霧島さん? どうしてここに。東京支部で会議じゃなかったんですか?」

「……たまたまよ。たまたま福井に美味しいおろし蕎麦を食べに来たら、ついでにあなたの生存確認もしておこうと思っただけ」

麗華はツンと顔を背けたが、その手には高級ブランドの紙袋ではなく、地元の有名な「ササミジャーキー」の袋が握られていた。

休憩:おじさんと女王の休日

健太と麗華は、公園のベンチに腰を下ろした。

スエは、麗華が持ってきたジャーキーの匂いに即座に反応し、「フガフガ!」と尻尾をプロペラのように振って彼女の膝に身を乗り出している。

「ちょっと……! 服が汚れるじゃない」

口では言いながらも、麗華の表情はどこか緩んでいた。彼女は慣れない手つきでジャーキーを小さくちぎり、スエの口元へ運ぶ。

「……霧島さん。昨日のレース、見てたんですか」

「……ネット配信でね。あんな空中旋回、帳簿外もいいところよ。あんなの、一度失敗すれば大赤字(転覆)だったのに」

「……現場じゃ、予定通りの数字なんて出ませんよ。無理を通してでも『利益』を掴まなきゃならない時がある」

健太が眼鏡を拭きながら答えると、麗華はサングラスを少しずらして、健太の横顔を覗き込んだ。

「……あなたは不思議な人ね。暴走族の過去があって、経理の知識があって……それでいて、このパグの前ではただの甘い飼い主。……どの数字が、本当の『佐伯健太』なの?」

「……どれも本当ですよ。全部合わせて、俺という個体の『連結決算』です」

嵐の前:女王の宣戦布告

スエが満足げに麗華の膝の上で丸くなった。

その光景を見て、麗華は小さくため息をつき、再び「東京支部の女王」の目に戻った。

「……次は江戸川で『G1・関東地区選手権』があるわ。……私も、西も、白石も。今度はあなたの『空中旋回』をデータに入れて待ち構えているわよ」

「……望むところです。G1の舞台は、一般戦よりさらに『監査』が厳しいんでしょう?」

「ええ。……だから、それまでにそのボロボロの体を少しはメンテナンスしておきなさい。……これは、そのための『先行投資』よ」

麗華はそう言って、健太の手のひらに「高級マッサージ店の回数券」を押し付けた。

「……ついでに買っただけなんだから、変な勘違いしないでよね」

新幹線の時間が迫り、麗華は颯爽と立ち上がった。

スエが寂しそうに「クゥーン」と鳴くと、彼女は一度だけ振り返り、サングラスの奥でいたずらっぽく微笑んだ。

「……ササミのお礼、江戸川で返してもらうわよ。佐伯レーサー」

夕暮れの敦賀駅。

遠ざかる麗華の背中を見送りながら、健太はスエを抱き上げた。

「……スエ。俺たち、もっと稼がなきゃな。……女王様への返礼品は、高くつきそうだ」

「フゴッ!」

福井での束の間の休息は終わり、舞台は再び、魔境・東京へ。

G1という頂上決戦。そこには、健太を「過去」へと引き戻そうとする、さらなる闇が待ち受けていた。

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