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からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
プロ駆け出し編

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20/42

敦賀の決算・総帥vs狂犬


敦賀競艇場、優勝戦。

水面は夜の冷気に包まれ、カクテル光線が淡水の硬い表面を冷たく反射している。

1コースには、節間全勝の怪物・中島和樹。

3コースに、平和島の奇跡を再び起こそうとする佐伯健太。

「佐伯……お前とハヤブサの走りは、確かに理に適っている。だが、それはまだ『操作』の域だ」

ピット離れ直前、中島が静かに告げる。

「俺と01号機は、既に一つの生命体だ。淡水の反発も、夜の湿気も、すべてが俺の血肉。……『おじさんの頑張り』で届く場所じゃない」

健太は眼鏡を外し、スエを一度だけ抱きしめてから、ヘルメットを被った。

「……効率化の果てにあるのは、無機質な数字だけじゃない。……泥臭い執念の先にしか見えない『答え』があるんですよ、総帥」

スタート:職人の領域

「……スタート!!」

大時計がゼロを指すと同時に、中島の01号機が滑らかに、しかし恐ろしいほどのトルクで加速した。

中島のマブイ値・合計97,000。

健太の18,000とは、資本金が違いすぎる。

中島は1マークに到達する前に、既に他艇を「引き波」すら立てさせない圧倒的な気流で支配した。

(……速い。これが『若狭の総帥』の、本当の現場力か……!)

健太のハヤブサが、中島の放つ強大なマブイの重圧プレッシャーに煽られ、艇体が激しくバウンドする。硬い淡水面が、健太の膝を砕かんばかりに突き上げる。

1マーク:ハヤブサの「無理心中」

中島が完璧な「逃げ」の体勢に入る。

0.1ミリの狂いもない、最短・最速の旋回。

誰もが中島の優勝を確信したその時、ピットからスエの咆哮が響いた。

「ワンッ! ワンワンッ!!(今だ! 飛び込めッ!)」

「……ああ、わかってるよ、スエ……!!」

健太は、機体の限界を無視し、全マブイをエンジンの燃焼室ではなく「艇底」へと一気に放出した。

奥義:『減価償却スクラップ・ダイブ』。

あえてハヤブサを水面から浮かせ、中島の引き波という「段差」をジャンプ台にして飛び越える。

プロの世界では自殺行為と言われる「空中旋回」。

ハヤブサの翼が夜空を舞い、中島の01号機の真上を掠めた。

「な……ッ!? 飛んだ……だと!?」

中島が初めて目を見開いた。

着水の衝撃で健太の肋骨が悲鳴を上げるが、健太はそのまま、ハヤブサを中島の内側へ強引にねじ込んだ。

直線:0.01秒の帳尻合わせ

バックストレッチ。中島のパワーが再び健太を捉えにかかる。

「……無茶をしたな、佐伯。だが、着水のロスでスピードは落ちている!」

中島が外側から被せ、健太をコース外へ押し出そうとする。

だが、健太はそこで、かつての経理部で鍛えた「完璧な時間管理」を発揮した。

ハヤブサのスクリューの回転数を、中島の引き波の「周期」に完全に同期させたのだ。

抵抗をゼロにする。

パワーの差を、物理法則の「帳尻合わせ」で無効化する。

「サラリーマンを……、なめるなよ……ッ!!」

第2マーク。

健太は、中島が唯一「機体との対話」に集中しすぎて見落とした、コンクリート護岸の跳ね返り波を利用。

鋭角に。

そして無慈悲に。

ハヤブサが01号機の鼻先を、1ミリの差で切り裂いた。

結末:若狭の夜明け

ゴールイン。

優勝、佐伯健太。

静まり返る敦賀のスタンド。

そして次の瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。

ピットに戻ると、中島和樹が真っ先に健太の元へ歩み寄った。

彼は無言で右手を差し出し、健太のボロボロになったハヤブサを見つめた。

「……負けたよ。……『対話』を超えた、『狂気』の計算だった」

「……いえ。……ただ、どうしてもスエに特上のササミを食べさせたかっただけです」

健太はふらつきながらも中島の手を握り返し、駆け寄ってきたスエを抱き上げた。

スエは「勝って当然」と言わなげな顔で、中島のズボンの裾に鼻を押し付けている。

こうして、福井・敦賀の一般戦も、おじさんの大逆転劇で幕を閉じた。

だが、健太の次なる現場は――「東京支部」への帰還。

そこには、健太の快進撃を止めるべく、さらに狡猾な罠を仕掛ける西貴斗や、新たな「刺客」が待ち構えていた。

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