表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
PR
25/26

第25話 謁見に向けて

 ステラはベッド脇に立ったまま、薄い光粒を肩先に散らしている。

 さっきアリエスを固まらせた衝撃はひと呼吸でほどけ、今は真剣な目だ。


「……えっと。ステラ、でいいのよね?」

はい(セルト)。ステラとお呼びください」

 アリエスはうなずき、視線をウィンの左手へ滑らせてから、ステラへ戻す。


「あなたは、その…魔晶器なの?」

はい(セルト)。私の実体はウィン様が持つA.I.M.S.(エイムス)、現代でいう魔晶器に相当します。今は光と風のモジュールを応用し、映像と音声を出力しています。 」


「…よくわからないけど、すごいわね…ベイスの禁足地にいたって話だけど、ずっとそこにいたの?」

はい(セルト)。ただし、制作時期や制作者のデータは保持しておりません。」

 アリエスの眉が一度だけ寄り、すぐ解ける。


「そっか…ま、いいわ。あなたのお陰でウィンは今もこうして生きてるし、魔法も使えるようになったんだもの。ありがと。」

「ところで、ステラ。あなたも父さんの仇見ているわけ? なにか気づいた事はない?」


ネガト(いいえ)。該当人物については視認しておりません。ーただし、エーテル残滓の解析は完了しています。昨日のノクスベアから該当人物と酷似するエーテル残滓を確認しています。」

 ステラは指先で空間に小さな波形を描くように示し、揺らぎの癖をなぞってみせる。


「…まさか、あいつが近くにいたのか…?」

 ウィンの拳に力がこもる。

はい(セルト)。その可能性は高いと推定します。」


「何が目的なのかしら……たとえば騎士団が狙い、とか。」


ウィンはしばし黙って、グラスの縁を親指で軽くはじいた。

「——そうだ。おじさんは“特別な魔晶器が狙い”って言ってたよな。騎士団やアカデミーには相当な実力者が集まる。ステラみたいな特別な魔晶器を炙り出すために、強い魔物をぶつけた……って線、ないかな」


アリエスがメモの端を折り、息をついた。

「……推測の域は出ないけど、筋は通るわね」


ウィンははっとして顔を上げる。

「そういえば、アリエスの魔晶器——使えるようになったの?」


「ああ、これ?」

アリエスはペンダント型の魔晶器を引き出す。

「全然反応しないんだよねぇ……」

金具がかすかに鳴るだけで、光も脈もない。


ステラが首を傾ける

『解析致しましょうか?』

アリエスが目を丸くする。

「解析?できるの? …お願い!これ父さんから貰った大切なものなの!」


『セルト。では、その端末に少量のエーテルを通してください』

「わかったわ。」

アリエスはペンダントを握り、静かに息を整えて意識を流し込む。

——だが、魔晶器(ペンダント)は冷たく重いだけで、沈黙を貫いた。


「…だめ。やっぱり何も反応しない。」

『所見を報告します。こちらは通称A.R.M.S.(アームズ)と呼称される端末です。使用者のエーテルを増幅し、設定モジュールへ変調出力する機構。現在はユーザー認証が未確立のため使用不可。壊れてはいません。認証方法は端末ごとに異なるため、現時点では不明です』


 アリエスはペンダントを見下ろし、肩を落とした。

 ウィンは声だけを柔らかくする。

「……壊れてないって分かっただけで、十分だよ。そのうち、ちゃんと動くよ。」


「……うん。ありがと」

 アリエスは息を整え、ペンダントを胸元へ戻した。


「…で、夕方の謁見だけどさ。」

 ウィンがグラスを端に寄せる。

「聖騎士長のカイン様に、あの男の話をしてみようと思う。ベイス村で魔物を操っていた男がいたこと、今回のノクスベアも同じ可能性があること。——何か手がかりが見つかるかもしれない」


「そうね。今のところ現役の騎士団関係者の線は薄いし、とにかく情報を集めないとね。」

 アリエスはうなずき、視線でステラを示す。

「念のため、ステラの事は黙っておきましょう。」


 ステラがわずかに首を傾げた。

『ウィン様。セラ・アルディナのエーテル反応が接近しています。』


 ウィンは短くうなずく。

「セラ?…わかった。ステラ。一旦戻ってくれ。」

 『セルト。映像・音声出力を停止します。アリエス、またお会いしましょう。』

 像の光がふっと細り、輪郭が静かにほどけていく。


 …コン、コン。

 ステラが消えると同時に、板戸が二度、小さく鳴った。

 

 「戸越しにセラの声が届く。

 「ウィンさん~。お時間です~。カイン様、もうお着きですよ~」


 緊張がひとしずく落ちる。ウィンは深く息を吸って、吐いた。

 「わかった。行こう。」


 「あらあら~お客様ですか~?初めまして。セラ・アルディナです~」

 「初めまして。アリエス・ライトフットよ。」

 アリエスも立ち上がって礼を返す。


 「ライトフット…ウィンさんのお身内ですか~?」

 「…まあそんなものね。よろしく。」

 すぐにウィンへ視線を戻し、静かに言う。

 「じゃ、私は帰るわ。また相談しましょ。」

「うん。終わったら報告するよ。」


 セラが扉を支え、半歩先へ身を引く。

 「では、参りましょう~」


  **


 窓の光はすでに傾き、床の影が長い。

 廊下の空気はひんやりとして、靴音が一定に重なる。

 セラが振り返り、小声でささやく。

 「緊張してます~?」

 「少しだけ」


 ウィンは歩調を崩さずに尋ねた。

 「そういえば、ピコは?」

 「いまお昼寝中なんです~。さっきまで元気いっぱいでしたから。起こしますか~?」

 「…いや、起こさなくていい。寝かせてやって」

 『セルト。あの従魔は話し合いの場にふさわしくありません。』と耳の内側でステラ。


 セラはくすっと笑ってうなずく。

 「お優しいんですね~」


 曲がり角を抜けると、応接室の手前に団員が一人立哨していた。

 腕を組み、目だけが動く。


 「——止まれ。何者だ。」

 声は低く、余計な愛想がない。

 「グラン・セレスタ1年のウィン・ライトフットです」

 「同じく1年、セラ・アルディナです~」

 団員は瞬きもせず二人を測り、顎だけで扉を示した。


 「話は聞いている。くれぐれも失礼の無い様にな。……ついて来い」

 短い踵音。団員は扉に手をかけ、コン、コンと二度ノックする。

 「ウィン・アルトベルト、セラ・アルディナ——入室します」


 取っ手が静かに回り、扉が開いた。

 室内は簡素で静かだ。

 カインはゆっくりと腰を上げ、こちらに向き直った。

 鎧金具が触れ合う音だけが鳴り、目が合うと目尻がやわらぐ。


 胸の前で軽く手を添え、歩を半拍だけ緩める。

 「視線の端がやわらぎ、室内に陽だまりが差すみたいに空気が和らいだ

 ウィンの緊張が静かにほどけていく。


 「——来てくれてありがとう。まずは無事でよかった。少し話を聞かせてくれないか?」

 雨上がりの空気みたいな声が、心のざわめきを撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ