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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
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第21話 従魔の力①

 森を抜ける街道を、三人の小隊が歩いていた。

 薄曇りの空からこぼれる光は淡く、背に負った荷の影を長く伸ばしている。

 風に揺れる木々のざわめきと、時折響く鳥の声が、行軍の緊張をわずかに和らげていた。


 その中で、ウィンは少し後ろを歩く少女に目を向けた。

 少女は青みがかったローブの裾を揺らしながら、穏やかな表情を崩さずに歩いていた。

 肩にちょこんと乗った小さな従魔が、羽をばたつかせては先へ飛び出したり戻ったりを繰り返している。


「……おいおいセラ! 足取りが遅ぇぞ! もっとしゃきっと歩け、しゃきっと!」

「えぇ~……これでも普通だと思いますけど~」

「何言ってんだ、一番最後じゃねぇか!先頭に行くぞ!先頭だ!」

 軽口のような叱咤に、セラは苦笑しながら荷を背負い直す。


 それを見たウィンが声をかけた。

「……アルディナさん、大丈夫? もし重いなら、少し荷物を持とうか?」


 小さな従魔、ピコが感心したように宙で一回転する。

「ほぉっ! 気が利くじゃねぇか、お前! 子分にしてやろう!」


 だが、セラはすぐに柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。

「ふふ、セラでいいですよ~、ウィンさん。とってもありがたいですけど、大丈夫です~。これくらいなら慣れてますから」


「おいおい! なんで断るんだよ!」

 肩の上のピコが、羽をばたつかせて抗議する。

「せっかくの申し出だろ! 気にせず持たせときゃいいんだ!」


「でも……ウィンさんに余計な負担をかけるのは悪いですし~。これも授業の一環ですから~」

 セラは苦笑しながら、静かに言葉を返す。


「子分のくせに逆らうのか!? 親分の顔に泥を塗る気か!」

 ピコがぷるぷると震えながら叫ぶ。


「泥なんて塗ってませんよ~。でも、ピコだって肩で休んでるだけじゃないですか~」

 セラは肩をすくめ、のんびりとした口調で返した。 


「な、なんだと……!? ぐぬぬ……!」

 ピコは言い返そうとして口ごもり、赤紫の瞳をぎらつかせながら宙を行ったり来たりする。


 そのやり取りを見ていたウィンの口元に、思わず笑みが浮かんだ。

「……っ!」

 ピコが振り返り、羽をばたつかせて睨みつける。

「お前!何笑ってやがる!」


「ごめん、ごめん」ウィンは手を軽く上げ、苦笑を抑えた。

「いや……本当に人間みたいだなって。言葉を操る魔物なんて、初めて見たよ」


 唐突な感想に、セラが少し頬を緩める。

「ふふ、よく言われます~。ピコはちょっと特別なんです」


「“ちょっと”じゃねぇ! オレ様は偉大なる大親分、ピコ様だ。覚えておけ! 」

 ピコが胸を張り、尻尾の光球をぱちぱちと弾ませながら誇らしげに叫んだ。


 街道を進む三人の小隊は、木々のざわめきに混じって、そのやり取りを響かせながら歩みを続けていた。

 ウィンは小さく息をつき、並んで歩くセラへ視線を向ける。


「……さっきも思ったけど、本当に不思議だな。魔物を従えるなんて…セラ以外にも、同じような力を持ってる人はいるの?」


 セラは少し目を瞬かせ、それから首を横に振った。

「今は……わたしの家だけだと思います~。アルディナ家の女性に代々現れる力なんです。母も、亡くなった祖母も同じ力を持っていました」


「そうだそうだ! オレ様が歴代当主の“親分”として、アルディナ家を面倒見てきたんだ!」

 ピコが胸を張り、羽をばたつかせながら誇らしげに叫ぶ。


 セラは苦笑しつつ、小さく肩をすくめた。

「……本人はああ言ってますけど、昔の事はあんまり覚えていないみたいです~」


 その声音は柔らかいが、続ける言葉にはわずかな影が差した。

「でも、母の時代には、アルディナ家以外にも同じ力を持つ家がいくつかあったらしいんです。親類も含めて。でも、その頃“魔影大戦”でヴァルディア帝国が魔物を操っていたでしょう? そのせいで“魔物を従える力”そのものが疑われて、迫害を受けてしまって……」


 ウィンの瞳がわずかに揺れる。

「……迫害。」


「はい。親類も他の家も、次々と衰えて……残っているのは、知る限りアルディナ家だけなんです~」

 セラは明るく言い直そうとしたが、声の奥に沈痛さが滲んでいた。


「フンッ! だが心配はいらねぇ! このピコ様がついてる限り、セラは俺様が守ってやる!」

 ピコが宙で一回転しながら胸を反らすように吠える。


 セラは小さく笑みを浮かべ、ウィンは二人を見つめながら心の中で思う。

(……魔物を従える力。あの男の力と――どこかで繋がっているのかもしれない)


 思考の底に影が差すのを自覚しながら、ウィンは無意識に拳を握った。


「……セラ、その力って、どんな従魔でも呼べるの?」

 声に出すと、セラは少し驚いたように瞬きをし、それから首をかしげた。


「なんでもってわけじゃないですけど~、小さな子から、大きい子まで、ある程度は呼べますよ~。ただ、強い子は体力をすごく持っていかれるので、あんまり長くは保たないですけど~」


「へっ、そこはオレ様がしっかり仕切ってやってんだ! どの子分を出すか、誰に睨みを利かせるか、全部オレ様が決めてんだぜ!」

 ピコが胸を張り、羽をばたつかせながら偉そうに言い放つ。


 ウィンは苦笑しつつも、ふと問いを重ねた。

「……索敵とかに使える従魔はいる? この先の森に、何が潜んでるかわからないし」


 セラはぱっと表情を明るくして頷いた。

「いますよ~。空から探せる子がいるんです~。呼んでみましょうか?」


「それは助かるな」ウィンが答えると同時に――


「……ちょうどいい。試してみろ」

 低く響く声が横から割り込んだ。

 前を歩いていた騎士団員が振り返り、鋭い眼光を二人へ向ける。


「そろそろ奴らの縄張りに近い。発見次第、先制するぞ。」


 緊張が走る中、セラは小さく息を吸い、静かに両手を組んだ。

「…わかりました。――従魔召喚ファミリア・サモン


 光の波紋が足元に広がり、そこから一羽の白い小鳥型の従魔が舞い上がる。

 羽ばたきの音が街道の静けさを切り裂き、やがて空へと舞い上がっていった。


 セラはまぶたを閉じ、意識を鳥へと重ねる。

「……北東の方。300mくらい先です。狼の様な魔物の群れが、木々の間を動いてます~。……かなり数がいます」


 同じ瞬間、ウィンの耳にステラの声が届いた。

『セルト。エーテル反応を検知。セラの報告と一致――複数、小型、数は23。』


 セラの声とステラの報告が重なったその瞬間、前を歩いていた騎士団員が足を止めた。

 顔だけを振り返り、鋭い視線で三人を射抜く。


「――北東か。よし、行くぞ」

 低い声に緊張が走る。


 騎士団員は手を軽く振り下ろし、わずかに声を潜めた。

「音を立てるなよ。気づかれる前に包囲する」


 重たい沈黙が街道に落ちる。

 鳥の鳴き声すら遠のいたように感じられ、ただ風が枝葉を揺らす音だけが耳に届いた。


 三人は息を合わせるように頷き、騎士団員の背に続いて森の奥へと歩を進めていく。


 ――初めての討伐演習、その幕が静かに上がろうとしていた。

 ウィンは頷き、目を細めて森の奥を見据えた。

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