表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
PR
20/26

第20話 学園生活の始まり

 夜の静けさが学園を包んでいた。

 ウィンは指定された扉を軽く叩くと、すぐに内側から「入って」と声が返ってきた。


 アリエスの部屋は整然としていて、無駄な装飾はほとんどない。机の上には資料や羊皮紙がきれいに積まれており、彼女の几帳面さがそのまま映し出されていた。


「来てくれてありがとう。改めて、入学おめでとう。さっそくだけど……」

 アリエスは椅子を引き、向かいに座るよう促した。


「父さんを討った“男”のこと。情報を一度整理しておきたいの」


 ウィンは短く息を吐き、言葉を探す。

「若い男だった。フードで顔は隠れてたけど……外套に“紋章”があった」


「紋章?」アリエスが眉を寄せる。


「俺には見覚えのない印だった。でも、あの時おじさんが――“騎士団の紋章だ”って言ったんだ」

 その声を思い出し、ウィンは無意識に拳を握る。


「なるほど……父さんは王都にいた事もあるって言ってたし、それで見覚えがあったのかな…」

 アリエスは呟くように言いながら、羊皮紙の端に炭筆で〈紋章〉と大きく書き込む。


「でも……」

 彼女は視線を上げ、まっすぐウィンを見た。

「正規の任務で動いていたとは思えないわ。」


 ウィンは小さく眉を寄せる。

「どうしてそう思うの?」


「騎士団の規律は厳しいの。まず、彼らは基本的に“部隊”で動く。単独で外へ出るなんてありえない。

 それに、王都を離れる場合は必ず申請する決まりがあるの。たとえ休暇でもね。」


 アリエスは炭筆を止め、机を指先で軽く叩いた。

「仮に申請をすり抜けて外に出たとしたら、規律を破ってるって事になるわ。つまり、騎士団の“正式な行動”じゃなかったはず」


 ウィンはその言葉を噛みしめるように頷く。

「……確かに、あの時あいつは一人だった」

 思い出すと、胸の奥に冷たいものが広がる。

 フードの影に隠れた横顔、そして静かに歩み出る姿。

 仲間の影はどこにもなかった。


「一人で、紋章を掲げて現れる……それ自体が異常なのよ」

 アリエスは羊皮紙の余白に〈規律違反の可能性〉と書き加え、炭筆を握った手を軽く震わせた。


「もし本物の騎士団員なら、なぜそんな行動に出たのか。これ見よがしに紋章を見せていたとすれば、偽物の可能性もあるわね。」


 ウィンは唇を噛む。

「……偽物か、本物か。俺にはわからない。ただ、今はそれしか手がかりがないんだ。」


 アリエスは静かに頷いた。

「そうね。偽物だったとしても、騎士団の装備を付けていたのなら、そこから探るしかないわね。」

 彼女はしばし沈黙し、考えを組み立てるように羊皮紙に視線を落とした。


「わたしの方で、当時の外出記録を探ってみる。仮に本物の騎士団員だとすれば、何かしらの痕跡が残っているはずよ。逆にもし記録がなければ、騎士団員である可能性は限りなく低くなるわね。」


 ウィンは驚いたように顔を上げる。

「そんなこと、できるのか?」


「簡単じゃない。でも、学園には騎士団とつながりのある先生や上級生もいるし、……直接じゃなくても、何か掴めるはず」

 その声には確信と覚悟があった。


 ウィンはしばらく黙り込み、それから力を込めて言った。

「じゃあ、俺は……二日後の演習でできるだけ情報を集めてみるよ。騎士団員と行動できるまたとないチャンスだからね。」


 アリエスは短く息を吐き、即座に釘を刺す。

「わかって。でも無理はしないこと。少しでも怪しまれたら、それで終わりよ」


「……ああ、わかったよ。」ウィンは静かに応じた。


 二人の間に沈黙が落ちる。

 蝋燭の炎が小さくはぜ、壁に伸びた影がゆらりと揺れる。


 互いの決意を確かめるように視線を交わしたその瞬間、部屋の空気は重さよりもむしろ静かな熱を帯びていた。


 **


 翌日、大講堂に新入生たちが集められた。

 張り詰めた空気の中、壇上に立ったのは実技試験を担当していた女性教官だ。

 鋭い視線を一巡させただけで、ざわめきが止む。


「昨日の試験、皆よく頑張ったわ。今年は中々レベルが高いわね。」

 教官は腕を組み、わずかに口元を緩めた。だがその視線は厳しさを失わない。


「まずは、この学園について簡単に説明しておくわ。ここは王国で唯一、正式に魔導士と騎士を育成する場です。3年間の課程を経て、卒業した者は王都や騎士団、あるいは地方の守備隊や研究機関へと進むことになるわ。――そのための基礎を、ここで徹底的に叩き込んであげます」


 広間のあちこちで生徒たちが緊張の面持ちを引き締める。


「在学中は、魔法の実技や剣術だけでなく、学術や戦略、歴史や法律まで学んでもらいます。力を持つ者ほど、責任を負わなければならない。だから“学問を軽んじた戦士”も、“戦えない学者”も、ここには必要ないわ。肝に銘じておくことね。」


 一つ一つの言葉には鋼のような硬さがあった。


「そして、この学園の生徒は皆、王国にとっての未来の力であり、人々に見られる立場。軽率な振る舞いは、己の名だけでなく学園全体の名を汚すと思いなさい」


 背筋を伸ばす者、唾を飲み込む者――生徒たちの反応が空気をさらに引き締めていく。


「――さて、本来なら、こうした学びを重ねながら、まずは基礎を固めるところなのだけれど」


 教官は視線を巡らせ、声を落ち着かせながらも力を込めた。

「今回は事情が違うわ。皆も既に聞いての通り、聖騎士長からの依頼で、二日後の討伐演習に参加してもらうことになります。」


 ざわめきが広間を走った。教官は軽く手を上げ、それを制する。


「相手は北方の森に現れた魔物の群れ。一体一体は強力じゃないけど、数が多いと聞いているわ。隊列を保ち、判断を誤らないことが大事になります。」


 彼女の視線が、生徒一人ひとりを射抜くように巡る。


「でも、安心しなさい。指示は騎士団が務めます。指示に従っていれば、そうそう危険なことにはならないわ。」


 言葉の端に、わずかな柔らかさが宿る。

 教官は一呼吸置き、手元の羊皮紙を広げた。


「討伐演習は、騎士団員一名と生徒二名の、三人一組で行動してもらいます。今後も、実戦や演習ではこの形が基本になると思っておきなさい」


 広間に再びざわめきが広がる。隣り合う者と顔を見合わせる生徒、思わず拳を握る者――緊張と期待が入り混じった空気が渦巻いた。


 教官はそれをひと通り見渡し、口元にかすかな笑みを浮かべた。

「……以上です。あとの詳細は明日、現地で伝えます。心して準備しておきなさい」


 彼女の言葉が締めくくられると同時に、講堂はざわめきに包まれた。

 二日後に控える初めての討伐演習。

 ――胸の奥で高鳴る鼓動を抑えられる者は、誰一人としていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ