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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
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第19話 試験終了、そして

 広間の中央に立つ試験官が、掌をかざした。

 宙に光が走り、淡い板状の光面が浮かび上がる。名簿が映し出され、受験者全員の目に晒される。


「――これが最終結果だ。上からA、B、Cの3クラスになってる。自分のクラスを確認しろ。だが、定期的にクラス替え試験があるからな。上位クラスでも気を抜けばすぐに落ちるし、逆に下位クラスでも、努力次第で上がれる。気を抜かない様、肝に銘じておけ」


 光の板に浮かぶ名簿を、各自が食い入るように見つめていた。

 自分の名を見つけた瞬間、三人は息を呑み、互いに視線を交わす。


「ウィン、お前もAか」

 ナッシュが口の端をつり上げ、飄々とした調子で言葉を投げる。

「…あれだけのもん見せつけたんだから当然か。ま、これからもよろしくな」


「わ、私も……Aでした」

 ミレイユは胸の前で両手をきゅっと組み、安堵の吐息を漏らす。

「信じられないですけど……でも、ウィンさんと同じクラスで、よかった」


「……ああ。2人とも同じクラスで心強いよ。」

 ウィンは頷き、肩の力を少し抜いた。

 胸に張り詰めていたものが、ようやく和らいでいく。


 周囲では名簿を確認した受験者たちがざわつき、あちこちで声が飛び交っていた。

 そのざわめきを突き破るように――


「ウィーンっ!」


 広間いっぱいに元気な声が響いた。

 長い髪を跳ねさせながら駆け寄ってきたのはアリエスだ。

 勢いのままウィンに飛びつく。

 突然の抱擁に、ウィンは思わず体を後ろへよろめかせ、周囲の視線が一斉に集まった。


「やったじゃない! Aクラス入り、おめでとう!」


 広間のあちこちから視線が集まり、空気が一瞬だけ凍りついた。


「……おっと、こりゃずいぶん仲がいいことで」

 ナッシュがにやついた顔で腕を組み、わざとらしく咳払いをする。


 ミレイユは唇を強く噛みしめた。

 胸の奥に押し寄せる感情を言葉にできず、ただ視線を逸らす事しかできなかった。


 **


 ――その一方、広間の端。

 人目の少ない場所に立つリュークは、光の板をにらみつけていた。


 Bクラスの欄に並ぶ自分の名。

 唇の端をひきつらせ、拳を握り締める。


(俺が……Bで……あいつがAだと?)


 胸の奥を焼くのは悔しさではなく、煮えたぎる憎悪だった。

 かつて落ちこぼれと蔑んだ相手に追い抜かれ、差をつけられた現実。

 飲み込めば飲み込むほど喉を焼き、息が詰まりそうになる。


 爪が皮膚を破り、掌にじわりと赤い血がにじんだ。

 その痛みさえ、怒りを押さえるには足りなかった。


 **


 石造りの回廊に、重みのある靴音が規則正しく響いていた。

 歩むたびに金具のきしむ音と共に、光を受けて肩飾りや胸の装飾が鈍く反射する。

 深紅の外套が揺れ、その存在がただ者ではないことを周囲に知らしめていた。


 列の先頭を進む男の姿に、傍らを歩く部下は小走りで歩調を合わせる。

 その背中には、王国の重きを担う者だけが放つ威厳があった。


「周辺の魔物の動向はどうだ」

 低くもよく通る声が回廊に響く。


「はい。森の北側に群れが散見されます。放置すれば集落へ被害が及ぶ恐れが」


「ふむ……。群れの規模が広がる前に、討伐隊を編成する必要があるな」


「すでに調査隊を派遣済みです。報告を待っております」


 男は短く頷き、外套の裾を揺らして歩を進めた。

 会話を交わすその途中、視線の先に広間が広がる。

 そこでは光の板が浮かび、若者たちが名簿を見上げてざわめいていた。


「あれは……何をしている」


「アカデミーの入学試験にございます。わが騎士団にも、ここを経て入った者が多うございます」


「なるほど……」

 男は欄干に手をかけ、整列する若者たちをしばし無言で見下ろした。

 やがて歩を進め、回廊を抜けて広間へと姿を現す。

 赤い外套が揺れ、光を受けた装飾が鈍く反射する。

 その姿が見えた瞬間、広間がざわめきに包まれた。


「……っ!」「あれは……!」

「まさか本人!?」

「聖騎士団長様だわ!」


 受験者たちが息を呑み、色めき立つ。

 ざわめきが広がる中、ただ一人、ウィンだけが状況が呑み込めず、戸惑いを覚えていた。


 試験官が進み出て深く頭を下げると、男は軽く言葉を交わし、

 それから合格者たちへと向き直った。


 ざわついていた場が、その瞬間ぴたりと静まり返る。

 ただ一人の存在が、広間全体の空気を支配していた。


 柔らかな笑みを浮かべ、落ち着いた声で告げる。

「――まずは合格おめでとう。私は王国騎士団を預かるカイン・ナイトフェード。ここに立つまでの努力に、心から敬意を表したい。そして、この中から、いずれ我々と生死を共にする仲間が生まれるかもしれない。その時に備え、この学園で力を磨き続けてほしい」


 受験者たちの表情が一瞬和らぐ。彼の声には不思議な温かさがあった。


「本来なら、しばらくは学びに専念してもらいたいところだ。だが……入学したばかりで申し訳ないが、君たちに力を貸してほしい。」


 カインは言葉を続けた。


「王都の北方に広がる森で、魔物の群れが確認されている。個体は小型だが数が多く、このまま放置すれば農村や街道を行き交う人々に被害が及ぶだろう。すでに商人や旅人の間では不安が広がり始めている」


 合格者たちの間にざわめきが走る。

 それを受け止めながら、カインは続けた。


「周辺の村や旅人に被害が及ぶ前に、討伐に動かねばならない。本来なら我々だけで片をつけるべきだが、人手が足りないんだ」


 カインはわずかに目を伏せ、それから再び顔を上げた。


「だからこそ、君たちの力を借りたい。明後日、我々の討伐に同行してもらう。もちろん前線は我らが担う。だが、君たちにも実際に剣を振るい、魔法を放ち、この現実を体で学んでもらうつもりだ」


 広間に緊張が走る。

 その声は決して脅しではなく、真摯な信頼を含んでいた。


「どうか、この国の人々を守るために――共に戦ってほしい」


 その言葉が広間に落ちた瞬間、しんとした沈黙が訪れた。

 誰もが胸の奥を強く揺さぶられ、息を飲む音さえはっきりと響く。

 しばしの静寂の後、どっと大きなざわめきが広がった。


「明後日から討伐って、俺たちが?」

「でも……聖騎士団と一緒なんてチャンスじゃないか!」


 高揚と不安が入り混じった声が飛び交う。

 光の板が消え、合格者たちは三々五々に散っていった。


 ウィンの隣にはナッシュとミレイユが並んでいた。

 三人とも言葉少なに、今しがた聞いた現実の重さを胸に刻んでいた。


 そんな中――


 背の側で、袖口がそっと引かれた。

 振り向くと、アリエスが人差し指を唇に当てる。

 耳元で小さく囁いた。

「……お父さんの仇について、後で話せる?」


 不意に耳へ落ちた囁きに、ウィンは思わず瞬きをした。

 緊張の残る胸の奥が、別の意味でざわつく。


「……わかった」

 小さく返す声は、自分でも驚くほど硬かった。


 アリエスは満足げに微笑むと、今度は皆に聞こえる声で元気よく言い放った。

「じゃあ、あとで私の部屋に来てね!」


 その言葉に、周囲の視線が一斉にウィンへ集まる。

 ミレイユはぴくりと眉を動かし、唇をきゅっと結ぶ。

 ナッシュは「おっと」と肩を揺らし、面白そうに口元をゆがめた。


 広間の緊張は次第に解けつつあったが、その一角には別の火種が生まれつつあった。

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