表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
PR
18/26

第18話 模擬戦闘③

 試験官の声が広間に響いた。

「――ウィン・ライトフット、リューク・カーヴェル。前へ」


 静まり返った空気の中、二人が中央へ進み出る。

 観客席から注がれる視線は、もはや好奇や冷やかしではない。

 いまや誰もが、ウィンの実力を見極めようとしていた。


 列を抜けた瞬間、ステラの声が脳裏に響く。

『ウィン様――新たなモジュールを学習済みです。使用いたしますか?』


 ウィンは短く答えた。

「……いや。あまり目立ちたくない。光と火、それに剣術だけでいこう。」

『セルト。承知しました。ラディアントおよびイグニスのモジュールのみ使用します』


 そのやり取りの間にも、リュークは両腕に炎をまとい、ぎらついた目でウィンを射抜いていた。

 赤毛が熱風に揺れ、指先に炎が集まっては弾ける。


「いい気になるなよ。……ここで叩き潰してやる」

 低く吐き捨てるような声と同時に、炎が掌で爆ぜ、広間の空気がさらに熱を帯びる。


 ウィンは挑発に答えず、静かに左腕の天晶器へ触れた。

「……行こう、ステラ」

『セルト』


 試験官の手が振り下ろされる。

「――始め!」


 号令と同時に、リュークが炎弾を連射した。

 轟音とともに火球が次々と迫り、広間全体が赤く染まる。


『《ラディアント・ウォール》展開。』

 ステラの宣言と同時に白光の障壁が立ち上がる。

 炎弾が連続して直撃し、爆ぜるたびに閃光と熱風が広間を揺るがす。

 それでも障壁は揺るがず、観客席からどよめきが広がった。


 連射される炎弾が白光の障壁にぶつかり、爆ぜるたびに轟音と熱風が広間を揺らす。

 やがて火球の勢いがわずかに鈍り、壁を揺らす衝撃が軽くなった。


『――対象のエーテル出力、初撃比でおよそ23パーセント低下しています。今が攻勢に転じる最適なタイミングです』


 ステラの声に、ウィンは目を細めて頷く。

「……よし。」


 彼は一歩踏み出し、左手を突き出した。

 低く息を吸い込み、言霊を紡ぐ。


炎弾(イグニス・フラム)!」


 瞬間、紅蓮の炎が奔流となって迸る。

 リュークが放った火弾を正面から呑み込み、その熱を凌駕する勢いで押し返していく。

 爆炎が爆ぜ、赤い閃光が広間を覆った。


「なっ……!」

 リュークの顔に驚愕の色が浮かぶ。

 自身の炎が、同じ炎で圧倒されるという現実。


 炎の壁を突き破りながら、ウィンはさらに踏み込む。

 腰の剣を抜き放ち、閃光を帯びた刃が紅蓮を裂いた。

 爆炎の余熱を切り裂きながら、ウィンの影が炎の中から浮かび上がる。


「くそっ……これならどうだっ――!」

 リュークが全身のエーテルを燃え上がらせる。

 周囲の空気が震え、烈火の渦が広間を覆った。


灼炎嵐(イグニス・ストーム)!」


 轟音とともに炎の竜巻が巻き起こり、床石を抉りながら迫り来る。

 観客席から悲鳴が漏れ、試験官すら身を乗り出した。


『危険度高。右前方に回避してください』


 ウィンはステラの指示に従い、炎の渦の縁を駆け抜けた。

 灼炎嵐の熱風が背後で爆ぜ、床石を抉りながら広間を赤く染める。

 観客の視線が追いつくよりも早く、彼の影はすでにリュークの間合いに踏み込んでいた。


 火花。

 炎を纏った剣と、光を帯びた刃が正面から激突する。

 甲高い金属音と爆ぜる炎の轟きが重なり、広間に衝撃が走った。


 両者は一歩も譲らず、幾度も刃を交える。

 リュークの剣は荒々しく重い。

 振り下ろすたびに炎が爆ぜ、焦げた風が観客席に吹きつける。

 だがその一撃は直線的で、力任せの色が強かった。


 対するウィンの剣は、正確で無駄がない。

 火花を散らしながら軌道をいなし、受け流し、次の刃を繋ぐ。

 観客席からは、熱気と緊張に息を詰める音が広がった。


「うおおおっ!」

 リュークが吠え、炎剣を叩きつける。

 床石が砕け、熱が爆ぜる。

 その瞬間――眩い光が迸った。


 白光の障壁が、リュークの踏み込みを正面から弾き返す。

 押し込もうとした力が逆流し、リュークの体は支え切れず崩れた。

 片膝が床に沈み、炎剣の軌道が大きく逸れる。


「なっ……!」

 驚愕に揺らぐ瞳。

 決定的な隙が生まれる。


 ウィンは一気に踏み込み、剣先をリュークの首筋すれすれで止めた。

 残光の余韻が空気を震わせ、広間に静寂が訪れる。


 荒い呼吸を繰り返すリューク。

 額を汗が伝い落ち、炎はすでに消え去っていた。


「――そこまで!勝者、ウィン・ライトフット!」

 試験官の声が広間に響いた瞬間、張り詰めていた緊張が解けた。

 直後、観客席から歓声とどよめきが爆発する。


「……っ!」

「すげぇ……!」


 言葉にならない感嘆が飛び交い、熱気をさらに押し上げた。


 その中で、一人だけ別の熱に苛まれている者がいた。

 リュークだ。

 膝をついたまま、握りしめた拳が震えている。


「くそっ……!」


 歯を食いしばり、床を叩く。

 ――魔法も満足に使えないはずの落ちこぼれ、

 劣等種のはずの相手に敗れたという事実。

 それが、リュークの誇りを深く抉っていた。


 歓声の中で、彼の唇からはそれ以上の言葉は漏れなかった。

 ただ悔しさと屈辱だけが、燃え残る炎のように胸を焦がしていた。


 一方で、ウィンは剣を収め、深く息を吐いた。

 歓声にも、相手の悔しさにも目を向けず、ただ静かに次を待つ。


 その後も模擬戦は続き、残りの受験者たちが次々と戦場に立った。

 歓声とため息が交互に広間を満たし、やがて全ての戦いが終わりを告げる。


 試験官が前へと進み出る。

 場の空気が引き締まり、受験者たちの視線が一斉に集まった。


「――これより、成績に基づきクラス分けを発表する」


 広間に新たな緊張が走り、誰もが固唾を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ