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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
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第14話 実技試験②

 演習場に重い振動が走った。

 ゴーレムたちの眼が赤々と輝き、軋む関節を鳴らしながら前へと踏み出す。


 リュークは剣を掲げ、誇らしげに笑った。

「俺の力、目に焼きつけろ!」


 刃先に炎がまとわりつき、瞬く間に赤熱する。

 振り抜いた剣先から火球が飛び出し、正面のゴーレムを直撃した。

 轟音と閃光が広間を揺らし、巨体が爆ぜるように崩れ落ちる。


 リュークは勢いそのままに剣を振り回し、残りのゴーレムに対し、

 次々と炎弾を叩きつけた。

 轟音と閃光が立て続けに走り、爆炎が演習場を覆う。

 炎の奔流は途切れることなく放たれ、火花と煙が視界を赤く染め上げた。


 ウィンは思わず息を呑んだ。

「――すごい……。あの炎を、あんな速さで連発するなんて」


 だがすぐ横で、ナッシュが鼻を鳴らした。

「いや……見ろよ。全然当たってねぇ」


 言われて改めて目を凝らすと、確かに爆炎に包まれているようでいて、ゴーレムたちは最小限の動きで炎を避け、あまり損傷を受けていなかった。

 『――命中率二八パーセント。エーテル残量は六二パーセントまで低下しています』

 耳奥にステラの声が響く。


「はぁっ……まだまだぁ!」

 リュークは声を張り上げ、さらに魔法を連発する。

 外れた炎が床を焼き、壁を焦がし、演習場の空気は熱と煙で満ちていった。

 それでも何発かが命中し、二体、三体とようやくゴーレムが膝を折っていく。


 だが残る一体を前にしたとき――リュークの肩が大きく上下した。

 呼吸は荒れ、剣を持つ腕は震えている。

 すでにエーテルの大半を使い果たしていた。


 次の瞬間、ゴーレムの拳が容赦なく叩きつけられる。

「ぐっ……!」

 リュークは防御も間に合わず吹き飛ばされ、石床に転がった。


 巨体が追い打ちをかけようと迫る。

 リュークは血を吐きながら、必死に剣を突き上げた。

「――まだ……終わっちゃいねぇッ!」


 至近距離で迸った炎が、ゴーレムの胸核を直撃した。

 轟音と閃光。最後の一体が崩れ落ちると同時に、リュークもその場に膝をついた。


 広間に煙が漂い、ざわめきが広がる。


 女性試験官は腕を組んだまま、静かに告げた。

「威力は十分ね。――けれど無駄撃ちが多すぎる。このままでは、味方を危険に巻き込むわ。

 まずは制御を学びなさい。」


 リュークは顔をしかめ、舌打ちをひとつ残して列へ戻った。

 胸を張ろうとするが、足取りはわずかにふらついている。


 その背を隠すように、唇の奥で小さく呟いた。

「……チッ、細けぇことばっか言いやがって」


 試験官には届かない声。だが近くにいた受験者の耳にはかすかに残り、空気を冷ややかに揺らした。

 その後も数人の受験者が順に呼ばれ、それぞれが武器や魔法を振るって挑んでいく。


 ある者は豪快に力を見せつけるも、制限時間を過ぎて失格を告げられ、

 またある者は序盤で押し切られ、無念の表情で列に戻る。

 鮮やかに仕留める者は少なく、多くは緊張に呑まれ、汗に濡れながら退場していった。


 ――演習場に立つ者ごとに、空気が変わる。

 列に残された受験者たちは、それを固唾を呑んで見守っていた。


 やがて、試験官の声が響いた。

「――次。ミレイユ・フェルナー」


 名を呼ばれた瞬間、ミレイユの肩が小さく震えた。

 深く息を吸い、胸の前でぎゅっと両手を組む。

 瞳に浮かぶのは怯えではなく、固い決意。

 小さく頷くと、彼女は静かに一歩を踏み出した。


 中央に立つと、風がふっと揺らいだ。

 彼女の足元に淡い緑の光が集まり、衣の裾が舞い上がる。


 試験官が腕を下ろす。

「――始めなさい」


 ゴーレムたちが動き出す。

 一体が突進し、重い拳を振り下ろす。


 その瞬間、ミレイユの唇が小さく開いた。

風壁(ウィンド・ウォール)


 透明な風の壁が展開し、拳の衝撃を柔らかく受け流した。

 勢いを逸らされたゴーレムの体がよろめいた瞬間、ミレイユは片手を払う。

風刃(ウィンド・カッター)!」


 鋭い風の刃が走り、継ぎ目を正確に切り裂いた。

 崩れ落ちる石片が舞い、ゴーレムは沈黙する。


 ウィンは思わず息を呑んだ。

 ――すごい……。無駄がない。正確で、きれいな魔法だ。


『――無駄のない出力です。威力は最適化され、制御も高水準です』

 耳奥にステラの声が響き、冷静な分析が加わる。


 二体目、三体目が同時に襲い掛かる。

 ミレイユは恐れず、一歩下がりながら指先を走らせた。

 風が渦を巻き、二体の動きを絡め取るように逸らす。

風槍(ウィンド・ランス)!」

 矢のように収束した風の槍が胸核を射抜き、二体目を仕留める。


 三体目が横合いから拳を叩きつける。

 だがミレイユはあえて避けず、風で体を軽く跳ね上げた。

 浮遊するように空中を滑り、攻撃を掠めたその反動で逆方向に飛び出す。

 その手には再び鋭い風刃。喉元の隙間を一閃した。


 背後で、ナッシュが感嘆したように口笛を鳴らした。


 最後の二体が距離を詰めてきた。

 ミレイユは短く息を整えると、両腕を交差させる。

風嵐(ウィンド・ストーム)!」


 突風が一気に広がり、砂塵と共に二体を巻き込んだ。

 暴風に翻弄され、体勢を崩した瞬間、指先が鋭く切り裂く。

 立て続けの二閃――二体同時に胸核が砕け散った。


 砂塵が静まる頃、ミレイユは深く息を吐き、両手を下ろした。

 風が収まり、場は再び静寂に包まれる。


 彼女は一歩進み出て、試験官に向かって小さく頭を下げた。


 女性試験官はわずかに口角を上げ、頷いた。

「魔法の練度が高い。――余計な力を使わず、制御も正確だったわ。」


 列の受験者たちの間に、自然とどよめきが広がった。

 ミレイユは深く礼をし、静かに列へ戻っていく。

 その背を追うように、緊張と感嘆の入り混じった視線が注がれていた。


 試験官の声が響く。

「――次。ナッシュ・アーデン」


「お、俺か。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。」

 肩を竦めるように答え、ナッシュは片手をひらひら振りながら前へ出た。

 武器を呼び出すこともなく、力みのない足取り。まるで余興にでも臨むかのような軽さだった。


 最初に動いたゴーレムが拳を振り下ろす。

 ナッシュは体をひねり、石床すれすれに転がるように回避。

 起き上がりざま、掌でゴーレムの脛を軽く叩く。


 刹那――鈍い音が響き、巨体が膝から崩れ落ちた。


「……何が起きたんだ……?」

 列の受験者から戸惑いの声が漏れる。


 二体目が正面から突進してくる。

 ナッシュは後方の巨体に駆け上がり、肩を踏み台にして跳躍した。

 宙で一回転しながら回避――その流麗な動作の最中に、指先が一瞬だけ相手の肩に触れる。

 次の瞬間、轟音とともにゴーレムの胸核が砕け、崩れ落ちた。


 三体目、四体目も同様だった。

 壁を蹴って滑るようにかわし、背を駆け上がり、空中でくるりと体を捻る。

 そのたびに、触れた部分から黒い亀裂が走り、巨体が瓦解する。


 最後の一体を倒した時には、広間全体が沈黙に包まれていた。

 力強さも派手さもない――ただ不可解に、淡々と巨体を崩していった事実だけが残る。


 試験官は腕を組んだまま、短く頷いた。

「無駄を排し、必要な瞬間だけ力を使う。――堅実な戦い方ね」


 ナッシュは片手をひらひらと振り、肩をすくめる。


 ウィンは呆然とその姿を見送り、無意識に息を呑んだ。

「……今のは……」


『解析結果。――ゴーレムに触れた瞬間、闇属性の魔法を展開してる様です。

 ただし、発動は一瞬で、スクリプトのラーニングには至りませんでした。詳細は不明です』

 耳奥に、ステラの冷静な声が響く。


「ま、こんなとこだな」

 そう言って、飄々とした足取りで列に戻ってきた。

「ほら、次はお前の番だぜ。……派手にやってみろよ」

 軽口を叩きながら、ウィンの背を肘で小突く。

 挑発というより、気負いを和らげるような調子だった。


 その直後、試験官の声が響き渡る。

「――次。ウィン・ライトフット」


 名が告げられた瞬間、場の空気がわずかに揺らいだ。


 その隙を突くように、リュークが唇の端をつり上げ、声を漏らす。

「おいおい……劣等種の登場か。せいぜい俺たちを楽しませろよ」


 あからさまな視線がウィンに突き刺さる。

 胸の奥で鼓動が跳ね、掌がじわりと汗ばむ。

 ウィンは無言で左手の腕輪に触れ、静かに呼吸を整えた。


 ゆっくりと前へと歩み出す。

 視線のすべてが突き刺さる中、足音だけが石床に響いていた。

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