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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
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第13話 実技試験①

 広間には、まださざめきが残っていた。


「魔法、使えないって……本当かな…」

「本当にそうなら、次で落ちるさ」


 ――そんな囁きが、波紋のように広がっていき、隙間ごとに視線が交錯した。


 壇上の試験官が場を断ち切った。

「ここからは受験クラスごとに会場が分かれる。――各自、間違えるなよ」


 踵を返すその姿を合図に、受験者たちがぞろぞろと動き出す。

 それぞれに緊張を抱えたまま、進路を確かめ合いながら回廊へと歩を進めていく。


 次々と回廊へ吸い込まれていく背中を見送りながら、ウィンの瞳は一点に結ばれたままだった。

 指先が無意識に左手の腕輪に触れる。


 そのとき、ナッシュが肩を寄せてくる。

「なぁ、ウィン。お前、どの課程だっけ?」

「……実戦課程だ。」


 ナッシュは片眉をわずかに上げ、楽しげに笑った。

「やっぱりな。お前とは縁がありそうだ。俺も実戦課程だ。――会場は、あっちか」


 軽く顎をしゃくって前方を示す。

 ミレイユが小さくうなずき、三人は列の後ろへと歩みを合わせた。


 石造りの回廊へ足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。

 高い天井には靴音が反響し、受験者たちの列は緊張を帯びたまま進んでいく。

 先頭にはリュークの背が見え、振り返りはしなかったが、横目で鋭い光だけを投げて姿を消した。


 沈黙を破ったのは、隣のナッシュだった。声を潜めて囁く。

「で――さっきの噂。ほんとに魔法、使えなかったのか?」


 ミレイユが不安げに視線を寄せる。

 ウィンは短く息を整え、左手の腕輪にそっと指を触れた。

「……最近までは確かにそうだった。でも、この魔晶器を手にして――目覚めたんだ」


 前夜、フェルナー家で受けた助言が脳裏に過る。

 複数の魔法を行使できる魔晶器など存在しない。

 だから、あくまで“魔晶器はきっかけ”に過ぎないと――。


 ナッシュは目を細め、少し考えるように歩みを続ける。

「……なるほどな。そういうの、聞いたことあるぜ。才能がねぇって言われてた奴が、何かの拍子で急に目覚めるってやつだ」


 それだけ言うと、彼は肩をすくめ、前を向いた。

 ミレイユは安堵の息を漏らし、ウィンは小さくうなずいた。

 ウィンは黙ってうなずき、正面に見えてきた重厚な扉へと歩を進めた。


 **


 重厚な扉がゆっくりと開かれると、眼前に広がったのは広大な演習場だった。

 床と壁には幾重もの魔法陣が刻まれ、淡い光を帯びて脈動している。

 人の背丈を超える訓練用ゴーレムが数体、無機質な眼光を宿して整列していた。

 空気は張り詰め、石の匂いに鉄の冷たさが混じっている。


 その中央に、紅の外套をまとった女性の試験官が立っていた。

 背筋をすっと伸ばし、鋭い眼差しで受験者たちを見渡す。

「全員、よく来たわね。ここからは実戦課程の試験を行います」


 透き通るような声が、広間に響いた。

「課題は――ゴーレムの破壊。制限時間は一人五分。評価基準は、威力・精度・制御・応用力の四つです。やり方は問いません。魔法でも武器でも、好きに挑みなさい」


 淡々とした口調の裏に、鋭い緊張感が漂う。

「ただし――油断すれば普通に怪我を負うわよ。全力で臨みなさい」


 その言葉に応じるように、並んだゴーレム達の眼がぎらりと輝きを増す。

 関節が軋み、重い足音が石床を揺らした。


 試験官は片手を上げる。

「――最初の受験者、リィナ・ヴァレンシュタイン。前へ」


 列から一人の少女が無言で歩み出る。

 黒髪を高く束ね、背筋をぴんと伸ばした姿。指の魔晶器が淡く輝くと、そこから長槍が形を成して現れた。

 鋼の穂先が光を弾き、彼女の手にしっくりと収まる。


 最初に動いたのは正面のゴーレムだった。重い足音を響かせながら拳を振り下ろす。

 リィナは一歩も退かず、身体をすっと傾けて拳を紙一重で避けた。

 刹那、槍尖が閃き、継ぎ目を正確に突き抜く。鈍い衝撃音とともに石片が飛び散り、巨体が崩れ落ちた。


「……早ぇ」

 列の後方から誰かの驚きの声が漏れる。


 二体目が間髪入れず迫る。

 リィナは滑るように足を運び、槍を払って軌道を逸らす。すれ違いざま、槍尻を使って膝関節を砕き、体勢を崩した相手の胸核を突き貫いた。

 彼女の動きには迷いがなく、まるで狩り慣れた獣のように確実だった。


「……ほう。」

 試験官の目がわずかに細められる。


 三体目が背後から迫る。重い拳がうなるが、リィナは振り向きもせず半歩沈み込む。

 拳は髪を掠めるだけで空を切り、その瞬間、振り返った槍尖が喉の隙間を射抜いた。

 石を砕く鋭音が響き、三体目もまた膝を折る。


 ――会場の空気が変わった。

 誰もが、彼女がただの受験者ではないと悟り始めていた。


 だが四体目と五体目は同時に動いた。

 一体が正面から突進し、もう一体が側面から挟み込む。

 リィナは槍を構え直し、正面を迎え撃とうとした――その瞬間、横から迫る腕が死角を覆った。


 ――回避が間に合わない。


 リィナは石突きを床に叩きつける。

土壁(アース・ウォール)


 地面が隆起し、厚い壁が側面の一撃を受け止めた。砕け散る土砂の中、リィナは前へ踏み込み、突進してきたゴーレムの胸を一閃で貫いた。

 残る一体も、崩れかけた壁を逆に利用して跳ね上がり、槍を振り抜く。土砂が散り、巨体の首部に穂先が突き刺さった。


「おおっ……!」

 列の後方で思わず声が上がり、緊張した空気がざわめきに揺れる。


 石屑と土煙が舞い、最後の二体が音を立てて倒れる。



 リィナは静かに槍を翻し、魔晶器へと収めた。 

 一歩前に出て、試験官へ向き直る。

「……終わりました。これでよろしいでしょうか」


 試験官は腕を組み、わずかに口角を上げた。

「無駄がないわね。攻守の切り替えも的確です。――良いお手本ね。」


 受験者達にざわめきが走る。ナッシュが小さく口笛を鳴らした。

「いやぁ……。あれは相手にしたくねぇな」


 ミレイユは胸に手を当て、目を丸くする。

「……すごいです」


 ウィンは無言でその戦いを目に焼き付けていた。

 ――防御は最小限、武器で仕留める。

 その無駄のない動きがウィンの心を捉えて離さなかった。

 胸の奥に熱が灯り、掌にじわりと汗がにじむ。


「――次。リューク・カーヴェル」

 試験官が声を張った。


 呼ばれた名に、列がざわりと揺れる。

 リュークは胸を反らせるようにして一歩前に出た。

 靴音を強調するかのように石床を踏み鳴らし、わざとらしく肩を揺らす。


 リュークは腰の剣に手をかけると、ゆっくりと抜き放った。

 銀の刃が光を弾き、彼は誇らしげに構えを取る。


「――俺の番か。見てろよ、劣等種との格の違いをな」


 言葉とともに、ちらりとウィンへ視線を送る。

 あからさまな挑発の色を宿していた。


 唇の端にわずかな笑みを浮かべ、視線を真正面のゴーレムへ突き刺した。


 試験官は小さく頷き、静かに腕を下ろす。

「――始めなさい」


 その瞬間、演習場に並んだゴーレムの眼がぎらりと輝きを増す。

 重い関節が軋み、石床を震わせながら巨体が一斉に動き出した。

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