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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
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第12話 筆記試験

 受験者たちは試験官に導かれ、石造りの回廊を抜け、広い試験室へと足を踏み入れた。

 整然と並ぶ机と椅子。壁や床に刻まれた魔法陣が淡い光を放ち、場の空気はひりつくほど張り詰めている。


「着席せよ」

 壇上に立つのは、深緑のローブをまとった初老の学者風の男だった。痩せた体躯に似合わぬ鋭い眼差しを受験者たちに走らせると、会場は一気に静まり返った。


「これより第一試験――筆記を行う。範囲は魔法理論、歴史、そして応用知識だ」


 男が壇上の魔晶器に軽く触れると、部屋全体に淡い光が走る。

 各机の上に羊皮紙とペンが音もなく現れ、紙面には次々と文字が浮かび上がり、問題が並び始めた。

 ざわ、と空気が揺れる。目を見開き、慌てて羊皮紙を掴む者。真剣な眼差しで問題を追う者。すでに余裕の笑みを浮かべ、筆を走らせ始める者もいる。


 ウィンの目にも設問が飛び込んできた。


 ――「大陸暦六百五十年に制定された『禁術法』で、空間系魔法が規制された理由を述べよ」


『回答を提示します。大陸暦六百五十年、王都北方にて転移魔法が暴走。街区が丸ごと消失する事態が発生しました。因果律への干渉が確認され、空間系魔法は禁術に指定されています』


 耳元に響いたステラの声は冷静で揺らぎがない。

 ウィンはわずかに息を整え、迷いなくペンを走らせた。


 続いて、新たな設問が浮かび上がる。


 ――「魔晶器の特徴を述べよ。また、魔法行使における利点と制約をそれぞれ一つ挙げよ」


『回答を提示します。魔晶器は属性ごとに一つの術式を内包する魔法具です。利点は、術者の資質に関わらず誰でも同じ魔法を行使できること。制約は、一つの魔晶器で使用できる魔法は一種類に限られることです』


 ウィンは小さく頷き、ペンを滑らせた。

 紙面に整然と記された文字は、まるで自分自身の知識であるかのように自然だった。


 問題は次々と現れ、羊皮紙は埋め尽くされていく。

 時間の感覚は薄れ、ただステラの提示する解答と筆の動きだけが確かなものとして残った。


 やがて最後の設問が消え、静寂が訪れる。


「そこまで」

 試験官の低い声と同時に、答案は光に包まれて宙に浮かび、ふっと消え去った。


 一瞬の静寂のあと、あちこちで椅子の軋む音が響く。額に汗を浮かべてぐったりと机に突っ伏す者。

 解放感に小さく笑みを漏らす者。逆に悔しげに拳を握りしめる者……様々な反応が場を満たしていった。


 第一試験は、こうして幕を閉じた。


 **


 試験室を後にし、大講堂へと戻る道すがら。

 ミレイユは胸の前で小さく手を組み、ほっとしたように息をついた。


「……なんとか、書ききれました」


 隣を歩くナッシュは、涼しい顔だ。

「俺もとりあえず埋めたって感じだ。ま、あとは神頼みだな。…ウィン、お前はどうなんだ?」


 ウィンは短く息を整え、控えめに答えた。

「俺も、一応全部埋めたよ。……たぶん、大丈夫だと思う」


 ウィンの答えに、ナッシュはにやりと笑った。

「お、意外と自信ありそうだな。なら期待していいか」


 軽口を交わす間もなく、大講堂の壇上に試験官が姿を現した。

 深緑のローブをまとった初老の男は、先ほどと同じ冷徹な眼差しで受験者たちを見渡す。


「静粛に」

 低く響く声が大広間を鎮めた。

「これより第一試験――筆記の結果を発表する。まずは不合格者を掲示する。名が現れた者は、速やかに退場せよ。来年の試験に向け、研鑽を積む事を期待している。」


 試験官が魔晶器に手をかざすと、壇上の魔晶板が光を放つ。

 そこに浮かんだのは――容赦なく並べられた大量の名前。


「……そんな……」「嘘だろ……!」

 大半の受験者が絶望の声を上げ、椅子を軋ませて立ち上がる。

 やがて足音が重なり合い、半数以上が大講堂から姿を消していった。


 不合格者が退出し、広間には半分ほどの人数だけが残った。

 そこに立つ者たちの胸中には、確かな安堵が広がっていた。

 互いに小さく頷き合う者、深く息を吐き出す者――空気は先ほどまでの重苦しさを和らげていた。


 試験官は厳かに告げた。

「ここに残った者たちが、第一試験を突破した精鋭である。これより、合格者の順位を下位から順に発表する」


 再び魔晶板が光を帯び、今度は名前がひとつずつ浮かび上がっていく。


 ナッシュが身を乗り出し、自分の名を見つける。二十二位だ。

 涼しい顔で口笛を吹くように言葉を漏らす。

「お、いたいた。ま、こんなもんだな」

 飄々とした口ぶりに、ミレイユが思わず苦笑する。


 しばし間を置き、さらに上位へと目が移る。

「……あった!」

 ミレイユの名は第十五位に刻まれていた。

 彼女は胸を押さえ、安堵の息を小さく漏らす。


 次々と順位が更新され、やがて最後――最上位の名前が現れた。

 広間の空気が一瞬凍りつき、次いで大きくざわめく。

 そこに記されたのは――


 第一位 ウィン・ライトフット ー満点


 その瞬間、大講堂は爆ぜるようなどよめきに包まれた。

「ま、満点だと!?」「信じられん……!」

「全問正解なんてあり得るのか……」

 驚きと疑念の声が入り混じり、場の熱は一気に高まっていく。

 ささやきは波紋のように広がり、やがて大講堂全体を揺るがすほどの喧騒となった。


 ――その渦中を切り裂くように、鋭い叫びが広間を貫いた。


「……これは不正だ!」


 声の余韻が石壁に反響し、ざわめきはぴたりと止まった。

 振り返った受験者たちの視線の先に立っていたのは、赤みがかった髪を後ろへ流した青年。

 ウィンの目が大きく見開かれる。


「リューク?!……どうして君がここに」

 ウィンの脳裏に、村での惨劇の記憶がよみがえる。


 驚きと戸惑いをにじませた問いに、リュークは鼻で笑った。

「ふん、それはこっちのセリフだ。お前みたいな劣等種が、こんな場にいるなんてな」


 その目が魔晶板に刻まれた首位の名を鋭く射抜く。

「しかも全問正解? ありえねぇ。――カンニングでもしたんだろう」


 再び広間がざわめきに包まれ、受験者たちの視線が一斉にウィンへと注がれた。

 リュークの叫びを合図にしたかのように、広間は再びざわついた。

「不正……?」「確かに、あの難問を全問正解なんて……」

 疑念の声が次々と広がり、ウィンの背中を突き刺す。


 ウィンは一瞬だけ言葉を失った。胸の奥で脈が速くなる。

 その沈黙を破ったのは、隣にいたミレイユだった。


「そんなはずはありません!」

 澄んだ声が堂内に響き渡る。

「この会場には高度な防止策が施されていました。結界と試験官の監視下で、不正など絶対に不可能です!」


 彼女の毅然とした口調に、ざわめきがわずかに弱まった。

 続けざまに、ナッシュが肩をすくめ、飄々とした調子で言葉を重ねる。


「それにな。ここでカンニングできるってんなら、それは試験官や結界を出し抜いたってことだろ? そんな化け物じみたことができる奴なら、全問正解くらい朝飯前じゃねぇか」


 どっと小さな笑いが起こり、場の緊張がやや緩む。

 だが、リュークの顔は憤りに染まったままだった。


 彼は忌々しげにウィンを睨み据える。

「強がりを言いやがって……やっぱり魔法も使えねぇ劣等種だ。どうせ次の実技で真っ先に脱落するさ」


 その一言に、広間が再びざわめいた。

「魔法が使えない……?」「本当か……?」

 囁きが飛び交い、視線が一斉にウィンへと注がれた。

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