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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
第二章 王都アカデミー編
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第11話 交差する視線

 フェルナー邸を出て、石畳の道を試験会場へと進む。

 隣にはミレイユが並んでいた。彼女が「自分も受験する」と告げたのは昨夜のことだ。


 唐突すぎる宣言に、ウィンは思わず言葉を失った。

 リュカもまた目を見開き、信じられないものを見るような顔をしていたし、バルトは逆に何かを察していたかのように黙り込み、暖かい眼差しを向けていたのを覚えている。


 これまでミレイユは、屋敷の中で静かに過ごすことが多く、人前に出るのも得意ではなかった。それだけに、王都でも最難関とされるアカデミーを受験するという選択は、到底口にするはずがないと考えていたのだ。


 だが今、こうして自分の隣に立ち、同じ道を歩いている。背筋を伸ばし、緊張を押し隠すように真っ直ぐ前を見据えるその姿に、冗談や気まぐれではないことが伝わってくる。


「……正直、驚いたよ」

 ウィンがそう呟くと、ミレイユは少しだけ視線を逸らしながら答えた。

「これまでは……自信がなくて、一歩を踏み出せませんでした。けれど、ウィン様の御姿を見て……思ったのです。わたくしも変わらなければならない、と」

 胸の前でぎゅっと手を組み、続ける。

「わたくしも……自分の魔法をきちんと磨く必要があります。ここで立ち止まってはいけないと、思ったのです。」


 その声音には揺るぎない意志があった。

 ウィンは小さく笑みを浮かべ、頷いた。

「…そっか、じゃあ、一緒に合格できるといいな」

「ふふ……そう言っていただけると、嬉しいです。」

 ミレイユの微笑みは控えめながらも、どこか誇らしげだった。


 やがて大講堂が見えてきた。白い石造りの壮大な建物の前には、受験生たちが次々と集まっている。

 華やかな衣服を纏う貴族の子弟、粗末な服装ながら強い眼差しを宿す者、落ち着かない様子で所在なげに立つ者……さまざまな立場の人間が一堂に会し、場には重苦しい熱気が漂っていた。


 ミレイユは足を止め、わずかに肩をすくめる。

「……人が多いですね。視線が、怖いくらいです」

 その声には、彼女の内気な気質がにじみ出ていた。


 ウィンは周囲に目を向けた。

 金糸の縁取りが施された制服を着た貴族の少年は、背筋を伸ばし堂々と立っている。周囲を見下ろすその目には、合格を疑わぬ確信が宿っていた。

 ある青年は長身で、肩から下げた剣の柄に軽く手を添えながら、静かに目を閉じている。その姿は戦場を知る兵士のようで、余裕すら感じさせた。

 さらに、炎を操るのだろうか、掌に淡い赤い光を灯した少女がいた。薄く笑みを浮かべ、挑むような視線を周囲に投げている。


 同じ「受験者」であるはずなのに、彼らの放つ気配は歴戦の戦士の様に思えた。

 ウィンは胸の奥がひやりと冷えるのを感じる。


(……すごい奴らばかりだ。本当に大丈夫なのか……?)


 自分に言い聞かせるように息を整えた、その時だった。


「…いやぁ、すごい光景だなぁ」

 場の緊張を破るように、気楽な声が不意に響いた。


 振り向けば、ぼさぼさの茶髪をした少年がにやりと笑っていた。

 その軽薄そうな笑みに反して、瞳の奥には妙な光が潜んでいる。


「この中で、いったい何割が残るんだろうね。ま、俺はなんとかなると思ってるけど。君もそうだろ?」


 場の空気にそぐわぬ気楽さに、ウィンは目を瞬いた。

「……誰だ?」

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はナッシュ・アーデン。ナッシュでいいぜ。よろしく」

 気安く手を挙げる彼に、ウィンは名を返す。


「俺はウィン。こっちはミレイユ。よろしくナッシュ。」

「二人ともよろしく。いやぁ、これも何かの縁だね。同じ受験者同士、仲良くやろうぜ」


 その調子に、ミレイユが思わずくすっと笑った。

「ナッシュ様は、緊張されていないのですか?」

「ん? してるよ。心臓バックバク。でも、どうせやるなら楽しくやらないと」

 ナッシュは肩をすくめて見せた。


 その軽口に、周囲の空気がわずかに和らぐ。

 ウィンは気づかぬうちに拳を握りしめていた緊張がほぐれていくのを感じた。


「……変わってるな、お前」

「そうか?でも嫌いじゃないだろ?」

 ナッシュがにやりと笑うと、ウィンは小さく吹き出した。


 ちょうどその時、壇上に重い足音が響いた。

 鎧を思わせる衣をまとった壮年の男が、受験者たちを鋭く見渡す。

「静まれ!」


 瞬時に大広間が沈黙に包まれる。

「これより試験の説明を行う!」


 大講堂が静まり返った。

 男の名はラウレンス。元王国騎士団所属の教官だという。

 張りつめた声が高い天井に反響する。

「すでに承知のとおりだと思うが、試験は三段階、筆記、実技、模擬戦闘だ。先に行っておくが、合格できるものは、ここにいる一割にも満たんだろう」


 その言葉に、大広間がざわめいた。

 顔を見合わせる受験生、唇を噛んで気持ちを奮い立たせる者、早くも拳を握りしめて炎を燃やすような目をした者……緊張と不安、そして闘志が入り交じった空気が広がっていく。


 ラウレンスはその様子を一瞥し、さらに声を張り上げた。

「だが、挑戦なきものに栄光はない。この狭き門を突破した者は、王国の未来を担う者として将来を約束される。——おまえたちはここに立っている時点で、まぎれもない挑戦者だ。恐れることなく、力を示してみせよ!」


 その言葉に、広間の空気が一層張り詰めた。

 ミレイユはきゅっと唇を結び、ウィンも自然と背筋を伸ばしていた。

 ナッシュだけは相変わらず飄々とした笑みを崩さない。


 やがて受験者たちは誘導に従い、大広間を後にして次の会場へと歩みを進める。

 重苦しい沈黙の中、ざわめきと足音だけが響く。


 その人波の中で、一人の少年が立ち止まった。

 赤みがかった髪を後ろに流し、驚愕に見開かれた瞳が前方を射抜く。

「……あれは……ウィン?」


 視線の先には、群衆に混じって歩くウィンの姿があった。

 声はすぐに人のざわめきにかき消され、ウィン自身は振り向きもしない。


 少年はただ立ち尽くし、その背中を凝視し続けていた。

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