24 明ける
明ける。
夜が明ける。
悪夢のような夜が終わり、希望の光が世界を照らす。
村は、壊滅した。
村の男連中は、全部悪魔で。
村の女連中は、その悪魔の被害者で。
残ったのは、オレ一人。
嫌な思いばかりだったけれど、薄いとはいえ、産まれたときからの人との繋がりは、すっぱり切れてしまった。
切ってしまったのは、勇者さま。
オレは今まで、自分の意思で自由に過ごしているようで、《家》に帰るよう暗示をかけられていたのだという。
村のあちこちに残された魔法陣に書かれていた文字というか記号というかなんかアレなアレから、フローラがあれこれ読み取ってオレに伝えてきた。……痛ましい表情で。
そういうの、なんとなく分かっていたし、なんなら15歳の誕生日が来る前に、村を去るつもりだった。
けれど、結果はこの通り。
鎖で繋がれた奴隷のように、せっせと狩りをして村に食料を届け続けていた。
獲物1頭につき、見返りは、両手の平に収まる程度の、わずかな小麦。
それが、どれほど悲惨な状況だったかは、フローラが涙ぐみながら説明してくれた。
家と、畑と、狩りの技術と、親の愛。
どれか一つでも欠けていたなら、今生きていないかもしれないとまで言われた。
その家に向けて歩きながら話を聞いていたら、涙もろいらしいカティアが、ぐすぐすとべそをかいていた。
……で、家に着いたわけだが……。
オレ一人では何年かかっても造れそうにないほど立派な造りの我が家は、倒壊してがれきになっていた。
15歳の誕生日は、今日じゃないのに。
せっかく悪魔を退けたっていうのに、帰る家を失ってしまって、立っていられなくなって崩れ落ちた。
ユングフラウとカタミミたちが寄り添ってくれるが、それで家が直るわけでもなくて。
……あ、仔オオカミが指ペロペロなめてくれるのかわいい。
「なあ、ヨシュア? これからオレは、どうすればいいんだ?」
「カリンは、カリンがやりたいようにするのが一番いいよ。……といっても、ここでこれまでどおりの生活をしていくのは、かなり大変だと思うけれどね」
両親が残してくれたものを全部失って、呆然とするオレに、どこか含みを持たせた返事をするヨシュア。
どうしようかな? どうしたらいいかな?
帰る家すら失ったオレには、もう、なんにも残って……。
……ふと、気がつく。
カティアが、ミシェルが、フローラが、そして、ヨシュアが。
じっと、オレのことを見ている。
ここでやるべきことを終えて、帰還して次の任務に行かなくてはならないはずの、忙しい勇者さまたちが、なにも言わず、オレを見ている。
なにを言いたいのか、その表情からはなにも読み取れないけれど……。
少し、無言の時間があった。
どうすればいいのか、なにを言いたいのか、今は頭が真っ白で、なにも考えられずにいると、ユングフラウが焦れたように寄ってきて、オレの背中に頭を押し付けてぐいぐいと押す。
……ヨシュアたちの方へ。
「……えっと、どうすればいいのかな? 頭がぐちゃぐちゃで、なにも考えられないや。なあ、ヨシュア? オレ、どうすればいいのかな?」
「…………んー…………。一緒に、来るかい?」
少しの間、考えるような仕草をしたヨシュアは、そんなことをいう。
「い、いいのか? オレ、ヨシュアたちと一緒にいていいのか?」
さしのべられた手を、反射的につかむ。
「任務の多くは危険だし、すごく大変だけれど、カリン、きみが嫌でなければね」
「い、嫌じゃない。一緒にいさせてくれ。オレにできることならなんでもするからっ」
「「……なんでも……」」
なんだか複雑そうな声が聞こえて振り向けば、カティアは胸を押さえ、ミシェルはお腹を押さえていた。
「なんでもって言うなら、教えてよ。どうやったら、そんなに魅力的に膨らむわけ?」
「……どうって……母親も、村の女たちも大きかったから、こんなものかと思ってた」
カティアが泣きそうな悔しそうな顔で胸を指差してくるけど、そんなん知らないよ。遺伝じゃねぇの? 泣くなよそんなことで。
「…………お腹が減ったなあ」
「あ、うん。朝ごはんにしよう。少し待っててくれな」
ギュゴゴゴって、なんかおっかない音が鳴った。
照れ照れしてるミシェルがお腹をさすってるので、腹の虫が鳴ったのか!? と戦慄する。
それはそうと、夜明け前の真っ暗な時間から戦い続けてたヨシュアたちは、さぞお腹が減ってるだろう。
今後のことも考えると材料が限られてしまうから、毎回必ず美味しいものを作ってあげるとは言えないけれど、今は温かいものを作ってあげよう。
「あ、手伝いますよ」
「ありがとう」
フローラに手伝ってもらいながら、手早く朝食を作る。
人はともかく、オオカミは肉だろ、馬は野菜だよな。でもそういえば、固いの食べなきゃダメなんだっけ?
そんなこと考えながら、ユングフラウやカタミミたちの分も用意する。
「はいよ。みんなたくさん食べなー」
がれきの中からテーブルとイスを発掘してもらったので、屋外でも地べたに座って食事にならない分助かる。
「美味しい食事をいただけるのは、幸せですね」
フローラが、幸せそうに笑う。
作った食事を美味しいと喜んで食べてもらうのは、見ていて幸せな気分だよ。
「たくさん苦労をかけると思うけれど、それでもおれたちと一緒に行くかい?」
「……えっ? オレ、ここに捨てられるの?」
食後のお茶で一服しているとき、神妙な顔でヨシュアが言うので、ちょっとおどけて見せた。
「そんなことしないよ!? 近くの町まで送り届けて、それから身の振り方を考えてもらうとか、難民としておれの領地で受け入れるとか、選択肢は色々あるから。だから、今全部決めなくても、ゆっくり考える時間もあげるってことだよ?」
なんか必死なヨシュアに、悪いとは思うけど笑ってしまった。
もしここで置いていかれたら、泣いてしまうどころか、二度と人に近づかなくなるかもしれないし。
ま、それはそうとして、オレは一緒にいてもいいみたいだから、
「分かった。じゃあ、言ってくれたらいつでも膝枕してあげるから。……でも、エッチなのは、まだダメだけどな?」
「カリンっ!? おれのことなんだと思ってるの!?」
「勇者さま」
なんだかあわててるヨシュアが面白くて、くすくす笑いながら言ってやった。
おとぎ話に出てくるような、ヒロインのピンチに駆けつけてくれて、悪いやつをやっつける、勇者さま。
生まれてからの人生で、もらったものや守ってきたものを全部失くしたオレを、受け入れてくれるっていうんだからさ、ちゃんと責任とってくれないと、泣いちゃうだけじゃすまないからな?
今後とも、どうか、末長く、よろしくな。
オレの、オレたちの、勇者さま。




