25 これから
ユングフラウが引く馬車に揺られて早2日。
自宅と村と森しか知らなかったオレは、初日こそ『外の世界』に興奮していたが、整備されていない道を馬車で進むのは、結構振動があって、休めたものじゃないことは分かった。
村で力を合わせてレッサーデーモンを撃退した、馬のユングフラウと森オオカミのカタミミたちは意気投合したようで、ヨシュアたち《巡業勇者》の旅に着いてくることにしたみたいだ。
首の後ろをはむっと噛まれて運ばれてくる仔オオカミを馬車の中に受け入れたら、馬車を守るように周囲に散らばって、鼻と耳で警戒してくれている。
カタミミたちのおかげで、夜もしっかり休めるようになったし、休むときはユングフラウに寄り添って温めあっているようで、寝そべる馬の周りで丸くなるオオカミたちという不思議な光景に、首をひねったりしている。
現在は、今拠点としている街へ移動中。
弱い魔物はオオカミたちが速攻で仕留めてくれるので、オオカミたちの食事として確保しつつ、売却できる素材になる魔物は、後で剥ぎ取りできるように、やっぱり確保しておく。
カタミミたちで対処できないような強い魔物が出てきたなら、すぐに知らせてほしいと頼んである。
けれど、今のところはそんな事態にはなっていないし、もしそうなったときはヨシュアが勇者としての権能で気づくのだという。
仔オオカミたちを安全な馬車の中に預けておくことができるために、カタミミたちが張り切っているわけだけれど、その仔オオカミたちは、初日は馬車の振動でくんくんきゅんきゅん不安そうに鳴いていた。
揺れる馬車の中をうろうろしながら鳴いている仔オオカミがなんともかわいそうになって、思わず抱き上げたら、すぐにうとうとしだして、すやぁと眠りだした。
これ幸いと、みんなで協力して仔オオカミを抱っこして寝かしつけている。
交代で御者台に出る際も、ひざの上に仔オオカミを乗せていると、周りの景色を見たり、親たちの様子を見たりして、飽きたら丸まって眠っている。
子どもとはいえ、オオカミなわけだから、運動は必要ではないか? と思ったけれど、馬車が止まった際は元気一杯に跳ね回っている。
また、どういうわけか、ユングフラウの移動速度がぐぐっと増したようで、日程に余裕が生まれたらしい。
それによって、馬車の振動が増すことになったのだけれど……。
そのまま座席兼寝台で横になると、馬車の揺れでかえって体力を消耗してしまうのだという。
でも、オレが膝枕すると、振動や音を感じずに熟睡できるらしい。
その上、短い時間でもしっかり休めて、体調が良くなるって言っていた。
そんなわけで、御者を勤めたあとは交代でオレのひざで休んでもらってる。
……なんか、特殊らしいですよ? オレのひざ。
で、今の順番はヨシュア。
お腹の上で仔オオカミがぐでーんとしていても、静かに眠っている。
昼間は、カティアとミシェルは鎧を着ているので、仔オオカミたちは鎧を着ていないオレやフローラに抱っこをせがむ。
そんな仔オオカミの一匹は今、オレが抱っこしてうとうとしている。他にも、今御者台に座っているフローラのひざの上にも一匹いるはずだ。
鎧のなにが嫌なのか、あまり近寄ろうとしないカティアとミシェルは、仔オオカミの姿にほっこり癒されつつも時おりオレたちのことを恨めしげに見てくることがある。
そんなら、鎧脱げばいいのに。
一度そう言ってみたけれど、武器と一緒で手放せないものだと拒否されてしまってはなあ。
いや実際は、鎧を着たり脱いだりがそれなりの手間だから、めんどくさいというのと、何かあったときにすぐ動けないのが問題みたいだけどな。
でもなー、ヨシュアは、オレを助けに来てくれたときは、鎧着てなかったけどなー。
それだけ急いで来てくれたのだと思うと……。
「カリン、そんな表情もするのね」
「えっ? どんな?」
「恋する乙女の顔」
「……えー……?」
そんな顔、してたかな?
首をかしげれば、ミシェルがため息を吐いた。
「また、ライバルが増えたというわけだ。……まあ、聖女様に勝てるとは思えないがな。人格的にも、家格的にも」
「別に、まとめて嫁になればいいじゃない」
若干あきらめ混じりに言うミシェルに、あっけらかんとしたカティア。
「聖女さま?」
「そうよ。神託を受けることができる偉い人。今の聖女さまは、ヨシュアの幼馴染みなの」
「清楚可憐で、品が良く、二人でいると、本当に幸せそうで。……なんというか、お似合いなのだ」
そっか、いるんだ。聖女。
勇者と聖女。周りから見てもお似合い。
…………むー、…………。
なんか、モヤモヤする。
えいっ。……あ、まちがった。
仔オオカミの前足をつまんで、ヨシュアの鼻につっこむ。
頬をツンツンするつもりが、まちがってしまった。
反応がないので、肉球で鼻をペシペシしてやると、くすぐったそうにむずむずしている。
あ、でも、せっかく安眠しているのだから、邪魔したらダメだな。
「…………な、なんだよ、二人とも」
「……べっつにー」
「なんでもないぞ?」
なんだか妙にニヤニヤしてる二人から、つーんと顔をそらしてやる。
なんかくやしい。どうしてくれようか。
食事を減らして……。や、それはダメだ。
そんな感じでちょこっと考え事をしていると、今の今まで眠っていたヨシュアと目が合う。
「大物が来る。二人とも、戦闘の準備を。フローラは御者か?」
「フローラ、馬車を止めて!」
「今度はなにが来る? 血が滾るな!」
ヨシュアが起き上がると、腹の上でぐでーんとしていた仔オオカミが転がったので、あわててキャッチ。
馬車が止まるのに合わせて飛び出した三人に続いて外に出れば、オオカミたちはすでに警戒態勢に入っている。
木々の間からぬるりと姿を現したのは、頭は人、体は獅子、背には蝙蝠の翼、尾は毒蠍の異形。
前世知識で、マンティコアと予想をつける。
「なんだ? 初めて見る魔物だ。みんな、気をつけ」「ドラァっ!」
ヨシュアがなんか言っていたけれど、距離があるうちに先制攻撃は基本だろ?
人の顔をブサイクに作り替えて失敗したようなキモい顔に、岩塩洞窟近くの尖った石をぶん投げてやった。
オレの握り拳よりも大きな石は、マンティコアの顔にぶつかり砕けたが、確かなダメージを与えたみたいだ。
「森の中だから、火の魔法は使えないけれど……」
「さあ来い! 相手になってやろう!」
「悪しきものに、聖なる束縛を。《ホーリー・チェイン》」
カティアとミシェルは、来いと言いつつ突進し、フローラが光の鎖で敵の動きを止めた。
「悪しき者に、裁きの一撃を。《ブレイブ・セイバー》」
空に放った光のオーラが剣を形取り、マンティコアに突き刺さる。
それでも倒れないマンティコアに向けて、オレも、ユングフラウも、カタミミたちも攻撃を始める。
なんかさ、みんなと一緒なら、負ける気がしないよな。
オレと、勇者さまたちとの旅は、始まったばかりだ。
これからどんなことが起きるか、わくわくするなっ!




