16 納品
家に行くよりも先に、村へと寄ることにする。
というのも、ゴブリンを渡せばほんの少しだが現金が手に入る。
ほんの銅貨3枚といっても、数が揃えばまとまった額になるだろう。
……といっても、20匹納品しても、銅貨60枚にしかならない。一晩宿に泊まれるかどうかだそうだ。
それでもやはり、現金収入はあった方がいい。
森の中でパパッと魔石と角を取り除いて、それを出すことにしよう。
「よう、カリン」
例の門番に、気持ち悪い声で呼び掛けられたが、無視をする。
全身舐め回すような気持ち悪い目で見られても、我慢して門を通り抜ける。
その際、門番が手を出してくるが、ヨシュアがオレと門番の間に割って入ってきてくれた。
さすがに、勇者さまを手で掴むわけにもいかず、ごまかすように愛想笑い浮かべて手をヒラヒラさせていた。
「……カリン、大丈夫?」
「…………割って入ってくれて、ありがと」
ヨシュアがずいぶんと心配そうに声をかけてくる。
ひょっとしたら、今のオレの顔色は、悪いのかもしれない。礼を言う声も、小さくなってしまったし。
あいつは、だめだ。
大体の村人が距離を保つか離れようとするのに、あいつは、捕食者というか、ゴブリンみたいな目をしてる。気持ち悪い。怖い。
人間なのに、人間のはずなのに、人の姿をした魔物のような感じ。
苦手意識が完全にできあがってしまっている。あいつに対して、怯えている。体が震えるのを止められない。隠せない。
「おれたちが村にいる間は、おれたちみんなできみのことを守るから。だから、安心して」
優しい声色に、思わず4人を見渡す。
各々、力強くうなずいてくれたことで、震えはおさまった。
なんだか、胸がぽかぽかして気分がいい。
「………ん、ありがと」
でもなんか、顔を上げられなくなった……。
「…………おい、……おい、どこ行く。こっちに用があるんじゃないのか?」
なんかぼうっとしてて、獲物やゴブリンを納める食料庫を通り過ぎようとしていたらしい。たまたま出てきた解体担当の男に声をかけられて、振り向く。
「……ん、今日の獲物」
アイテムボックスから、20ほどのゴブリンとハイドスパイダー1匹、それから、以前に倒した、周囲の環境に合わせて体色が変化する、カメレオンスネークを出す。
「お、ハイドスパイダーか。こいつは意外と美味いぞ。外殻が丈夫だから、加工すれば防具になる。お前には腕用とか良いんじゃないか? 蛇は、皮が高く売れる。……少し待ってろ。すぐに皮を剥ぎ取ってやる」
解体の男はいつもは口数が少ないが、今日は饒舌だ。
……もしかしたら、この男も、オレが防具とか用意できないの気にしてた?
……いや、オレがケガしたら、獲物が入ってこないからだろうな。
「えーと、ゴブリンが22匹、1匹銅貨3枚だから……」
「66枚な」
「相変わらず、お前さんすげえな。……で、ハイドスパイダーは外殻を外しても内膜があるから、食う時に膜を裂けば中身は問題ない。これが、剥ぎ取った脚の外殻と魔石。一番硬くて丈夫な胴体の外殻も持っていけ。蛇は、皮と魔石と、肉も少し持っていけ。スパイダーの肉というか可食部は、長く持たないから今日はクモ三昧だ。嫌がる者もいるが、意外と美味いぞ。……だから、お前さんにゃあくれてやれないんだが」
「要らねぇよ。気持ち悪い」
「そりゃそうか。……じゃあ、勇者さまがたの対応頼むな。なんか分かったのか?」
今日はほんとによくしゃべるなこのおっさん。
嫌悪混じりでクモなんか要らない食べないと意思表示すると、別の話を振ってきた。
「……他のところと比べても、ゴブリンは多いらしい。まだ見つけられないけど、もしかしたら拠点があるのかも」
「お前さんが見つけられないんなら、ここいらじゃ誰も見つけられねぇよ。まあ、お疲れ。帰って休みな」
「…………う、うん…………」
終始饒舌だった男に、戸惑いながらもなんとか返事して帰宅する。
食料庫から少し離れると、「ヒャッホウ! 今日は祭りだぜ!!」と野太い声が響いてきてビクッとなってしまった。
あのおっさん、よほどスパイダーの中身が好きなんだろうな……。
ハイドスパイダー : 自身の動く音や気配を隠して獲物に近づき、顎から強力な麻痺毒を注ぎ込んで獲物を動けなくする、人の背丈ほどもある大きな蜘蛛。
脚の中身は食べられる。脚や胴体の外殻は防具に、腹から採れる蜘蛛糸の元となる粘液は、加工すると丈夫な糸になる。
カメレオンスネーク : 周囲の環境に合わせて体の色を変えることができる大きな蛇。
獲物を締め付けて仕留めてから、丸のみにする。
皮を加工すると、周囲の風景に溶け込んで隠れるスキル《擬態》が使用できる。




