12 モヤモヤ
「お見事。さすがに強いな」
レイブンに攻め立てられ混乱していたとはいえ、倍以上の数のゴブリンに突撃しても特に傷を負うことなく危なげなく仕留めてみせたヨシュアたちに、素直な言葉を掛ける。
「きみの援護が心強かったからね」
倒したばかりの魔物の血に汚れながらも、信頼しきっているような満面の笑顔で言うヨシュアに……。
……なんというか、その、えっと……。どきどき、してる……?
「……んー……。……神聖魔法 《浄化》」
「あ、ありがと。乱戦になると汚れやすくて大変だから、助かるわ」
軽い調子で礼を言うカティアに、ん、と短く返事して、仕留めたばかりのゴブリンを《入庫》していく。
一度に10匹以上仕留めて《入庫》することは、さすがに初めてのこと。
村に持ち帰ったあとにもらえる報酬に思いを馳せると、
「……そのゴブリンは、どうするのだ?」
不信そうでありながらも興味を隠せない表情のミシェル問われる。
「村に持って帰ると、1匹につき銅貨3枚で引き取ってもらえる。オレの貴重な現金収入だ」
「……一般的な宿で一晩泊まると、銅貨50枚から100枚はします。冒険者ギルドに討伐証明部位の角を渡すと、1本につき銅貨10枚になります。また、ゴブリンの魔石は同じく銅貨10枚です。……この辺りに、冒険者ギルドは無いようですが……あなたのそのアイテムボックスであれば、貯めておくことはできますよね?」
騙されてますよって言いたげなフローラの言葉に、しゅんとする。
搾取されているにしても、あまりにも無体じゃないかなあ?
「……カリン、おれたちは、《巡業勇者》としての使命を持ってはいるが、貴族の名を持つものでもある。不正を裁くなら協力するよ」
今にも人を斬りそうな据わった目で言うヨシュアに、戦慄する。
「やめろよマジで。オレはもうすぐ村を出る身だ。以降は戻るつもりはないし、関わるつもりもない。あんな奴らに労力を割くとか、人生の無駄でしかない」
どうやら本気のようだったので、こちらも真剣に応じる。
村八分にしてるのは向こうの方なので、関わる気がないのは本当のことだし。
「それよりも、岩塩の洞窟に行こうぜ。そんなに遠くはないが、日が落ちる前に着いておきたいだろ」
剣呑な雰囲気になりそうな空気を一方的に断ち切って、こっちだと先導する。
4人とも、何か言いたげだったが、気づいてないふりして先を行く。
暗くなる前に洞窟に着きたいのも本当だが、無知に付け込まれて搾取されてるって事実は、精神的にもよくない。
分かってはいたけれど、こうして事実を突きつけられると、腹が立ってくるもので。
夕食の献立を考えることで、ほんの少し気を紛らわしていた。
「よーし、着いた。この洞窟の奥に、塩の塊が採れるぞ」
畑を過ぎれば、すぐにまた上り坂。
生い茂る木々も姿を変え、まばらになっていく。
下草も減り、石ころやむき出しの土が多くなり、人の背丈を越える大きな岩が転がっているようになると、周囲を見渡しても岩ばかりになる。
そんな岩山の一角に、岩に隠れるように洞窟の入り口がある。
空が茜色に染まり始めた頃に着けたので、時間に余裕はありそうだ。
「で、どうする? さっそく行ってみるか? それとも、夕食にして今日は休むか?」
今日一日、ずっと歩いて戦闘して、疲れてないはずがないんだが、4人とも平気そうな顔をしている。
「今日はこの洞窟で夜を明かすんだろう? それなら、まずは入り口に結界を張ろう。それから岩塩を確認して、休もう」
「うん、それがいいね。フローラ、よろしく」
「任されました」
フローラが魔法を使用し、杖を地面に突き立てると、洞窟の入り口とその周辺に、不可視の結界が展開された。
「これで、オーク程度の弱い魔物であれば、侵入できなくなります」
得意気に胸を張るフローラを見て、つい、思ったことを口に出してしまった。
「……これくらいの結界を張れるなら、夜はしっかり休めたんじゃないのか?」
出会った頃……といっても、つい昨日の話だが……の、疲労具合を思い出す。
結界を展開していたなら、あんなに疲れきっていたりはしなかったろうにと。
「…………カリン、…………その…………」
「夜も、ね。移動してたの」
「日程は過密で、夜も移動しないと、とても間に合わなくて」
「町に着いて宿に泊まったときと、ユングフラウ号が限界を迎えて足を止めたときだけ、揺れない馬車で休めまして……」
…………うん、なんか、ごめん。
あと、それでよく、潰れなかったな、ユングフラウ。
今日は放置することになったけど、戻ったらしっかり労ってやるからな。




