表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/116

きいろいカサと風のひみつ

 町のはずれに、小さな丘がありました。

 丘の上には、一本の大きな木が立っています。

 春には黄色い花が咲き、夏には涼しい木かげをつくる、やさしい木です。


 その丘のちかくに、そらという名前の男の子が住んでいました。

 そらは、雨の日がにがてでした。

 外で遊べないし、空はくらいし、雷はこわいし、風はひゅうひゅううなるし、なんだか心までしょんぼりしてしまうのです。


 ある日、黒い雲が空をおおいはじめました。

 雷がごろごろなり、雨粒がぽつり、ぽつりと落ちてきました。

「また雨か……」

 そらはためいきをつきました。

 そのとき、家の玄関の前に、見たことのない 黄色い傘が立てかけてあるのに気がつきました。

「だれのだろう?」

 そらが手に取ると、傘の持ち手に、小さな紙が結びつけてありました。

『ひらけば 風がおしえてくれる』

「風がおしえてくれる? なにを?」

 そらは半信半疑で、ぱっと傘をひらきました。


 するとーー

 ぶわああっ!

 やさしい風が傘の中からふき上がりました。

 雨なのに、あたたかくて、光のにおいがしました。

「うわっ!」

 そらの体はふわりと浮き上がり、空へと舞い上がりました。

 びっくりして目をとじてしまいましたが、風はやさしく体を支えてくれます。


 やがてそらが目を開けると、町ぜんたいを見下ろす高さまで上がっていました。

「すごい……!」

 屋根の上に落ちる雨粒がキラキラ光り、学校の校庭の水たまりが鏡のように空を映し、ふだんは気がつかない景色がいっぱい広がっていました。


 すると、どこからか声が聞こえました。

「ねえ、そらくん。雨、わるくないでしょ?」

 声のした方を見ると、黄色いレインコートを着た女の子が、同じように風にのって浮かんでいました。

「きみは、だれ?」

「ひかりだよ。この傘、わたしのなの。なくしちゃったと思ってたけど、見つけてくれてありがとう」

「この傘、すごいね! 空を飛べるなんて」

「うん。雨の中でだけね。雨は、たくさんの音を集めるから。風は、たくさんの気持ちを運ぶから」

 ひかりは笑って、雨の中でくるりと回りました。

 濡れたレインコートは、光を跳ね返して、まるで太陽みたいにきらりと光りました。

「わたし、雨の日が好き。どんな気持ちも洗ってくれるし、終わったら、ぜったい空が明るくなるから」

 そらは胸の中に、小さな火が灯ったような気がしました。

「ぼく、雨はきらいだった。でも、いまは……すこし好きかも」

「それでいいよ。ぜんぶ好きになる必要はないもん。でも、こわくなくなったら、それだけでいいの」

 風が弱まり、二人の体がゆっくり下へおりていきました。



 ふたりが丘の上へ着地すると、大きな木の枝に、黄色い花がひらいていました。

 雨があがり、わずかに太陽が顔を出しました。

「ひかりちゃん」

「なあに?」

「また会える?」

「もちろん。雨の日に、この黄色をさがしてね」

 ひかりは傘の持ち手をそらの手にそっと重ねました。

「黄色はね、こわい心をあかるくする色だよ」

 そう言い残して、ひかりは風に溶けるように消えていきました。


 そらは空を見上げました。

 雨あがりの雲のすきまから、光が線のように差し込んでいます。

(黄色をさがそう。今日も、明日も)

 そらは黄色い傘を胸に抱きしめました。

 雨の日はもう、こわくありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ