きいろいカサと風のひみつ
町のはずれに、小さな丘がありました。
丘の上には、一本の大きな木が立っています。
春には黄色い花が咲き、夏には涼しい木かげをつくる、やさしい木です。
その丘のちかくに、そらという名前の男の子が住んでいました。
そらは、雨の日がにがてでした。
外で遊べないし、空はくらいし、雷はこわいし、風はひゅうひゅううなるし、なんだか心までしょんぼりしてしまうのです。
ある日、黒い雲が空をおおいはじめました。
雷がごろごろなり、雨粒がぽつり、ぽつりと落ちてきました。
「また雨か……」
そらはためいきをつきました。
そのとき、家の玄関の前に、見たことのない 黄色い傘が立てかけてあるのに気がつきました。
「だれのだろう?」
そらが手に取ると、傘の持ち手に、小さな紙が結びつけてありました。
『ひらけば 風がおしえてくれる』
「風がおしえてくれる? なにを?」
そらは半信半疑で、ぱっと傘をひらきました。
するとーー
ぶわああっ!
やさしい風が傘の中からふき上がりました。
雨なのに、あたたかくて、光のにおいがしました。
「うわっ!」
そらの体はふわりと浮き上がり、空へと舞い上がりました。
びっくりして目をとじてしまいましたが、風はやさしく体を支えてくれます。
やがてそらが目を開けると、町ぜんたいを見下ろす高さまで上がっていました。
「すごい……!」
屋根の上に落ちる雨粒がキラキラ光り、学校の校庭の水たまりが鏡のように空を映し、ふだんは気がつかない景色がいっぱい広がっていました。
すると、どこからか声が聞こえました。
「ねえ、そらくん。雨、わるくないでしょ?」
声のした方を見ると、黄色いレインコートを着た女の子が、同じように風にのって浮かんでいました。
「きみは、だれ?」
「ひかりだよ。この傘、わたしのなの。なくしちゃったと思ってたけど、見つけてくれてありがとう」
「この傘、すごいね! 空を飛べるなんて」
「うん。雨の中でだけね。雨は、たくさんの音を集めるから。風は、たくさんの気持ちを運ぶから」
ひかりは笑って、雨の中でくるりと回りました。
濡れたレインコートは、光を跳ね返して、まるで太陽みたいにきらりと光りました。
「わたし、雨の日が好き。どんな気持ちも洗ってくれるし、終わったら、ぜったい空が明るくなるから」
そらは胸の中に、小さな火が灯ったような気がしました。
「ぼく、雨はきらいだった。でも、いまは……すこし好きかも」
「それでいいよ。ぜんぶ好きになる必要はないもん。でも、こわくなくなったら、それだけでいいの」
風が弱まり、二人の体がゆっくり下へおりていきました。
ふたりが丘の上へ着地すると、大きな木の枝に、黄色い花がひらいていました。
雨があがり、わずかに太陽が顔を出しました。
「ひかりちゃん」
「なあに?」
「また会える?」
「もちろん。雨の日に、この黄色をさがしてね」
ひかりは傘の持ち手をそらの手にそっと重ねました。
「黄色はね、こわい心をあかるくする色だよ」
そう言い残して、ひかりは風に溶けるように消えていきました。
そらは空を見上げました。
雨あがりの雲のすきまから、光が線のように差し込んでいます。
(黄色をさがそう。今日も、明日も)
そらは黄色い傘を胸に抱きしめました。
雨の日はもう、こわくありませんでした。




