かみなりのカナミくん
夏のある日の午後、空は青く澄み渡り、太陽の光が町の屋根や道路をまぶしく照らしていました。
風は穏やかで、草の香りや花の匂いが混ざって、どこか懐かしい気配を運んできます。
町のみんなはそれぞれの時間をのんびり過ごしていて、外で遊ぶ子どもたちの声が通りに軽やかに響いていました。
ちかちゃんと弟のそらくんは、家の前で水遊びをしていました。
ばしゃーん、と水をくみあげては、きゃっきゃと笑い、互いに水をかけあって、笑い声が小さな夏の音楽のように弾けます。
「ねえ、そら! もっと水かけちゃうよー!」
「いいよー! かかってこいー!」
水しぶきが太陽の光に反射して、虹のように小さな光を放ちました。
二人は笑いながら走り回り、あちこちに水の輪を作ります。
その時、遠くで、低くごろごろとした音が空の奥から聞こえてきました。
空が次第に薄い灰色に変わり、風が少し強くなります。
「えっ、雷の音だ……?」
そらくんの顔が、みるみる青ざめました。
そらくんは雷が大の苦手だったのです。
ごろごろ……ばりばりばりっ!
「うわあああっ!!」
そらくんは耳をふさぎ、しゃがみこみました。
黒い雲が空を覆い、風は木々を揺らし、ぽつりぽつりと雨が落ちてきました。
冷たい雨粒が肌に当たるたびに、そらくんはびくっと体を震わせます。
「ちかちゃん、こわいよう……!」
「大丈夫、大丈夫! お家に戻ろう!」
二人は急いで家に駆け込みました。
雨は次第に強くなり、空はまるで灰色の海のように低く垂れ込めてきます。
すると……
ぴしゃーん!!
まぶしい光がすぐそばでひらめき、雷鳴が轟きました。
「うわああああん!!」
そらくんは泣きだし、顔をぎゅっとちかちゃんの胸にうずめました。
ちかちゃんは慌てながらも、そらくんを抱きしめ、背中を優しくなでました。
「大丈夫だから、泣かないで……」
そのとき、不思議な声がどこからともなく聞こえてきました。
「そんなに泣かれると、こっちまで困っちゃうなあ」
二人は顔を上げて窓の外を見ると、小さな男の子が立っていました。
黄色いカッパに、金色の雷の形をした帽子をかぶっています。
雨に濡れた髪の毛が光に反射して、まるで小さな光の精のようでした。
「だ、だれ!?」
「ぼくは、かみなりの国から来たカミナっていうんだよ。さっきのごろごろは、ぼくが鳴らしてたんだ」
そらくんは涙をためたまま、カミナをにらみつけました。
「なんでそんなことするのさ! こわいじゃないか!!」
カミナは帽子をぽりぽりかきながら、少し申し訳なさそうに顔を赤くしました。
「いやあ……実はね、ぼく、まだ練習中なんだ。ぼくの仕事は、雨を降らせて、木や花や畑に水をあげること。雷は、雲の中にたまった電気を放つための音なんだよ」
「えっ……こわがらせるためじゃなくて?」
「もちろん違うよ。雷がないと、世界の天気はこまっちゃうんだ。でも、ぼくはまだ新人だから、音の出し方がうまくいかないんだ。大きすぎたり、タイミングが悪かったりで……それで、そらくんを泣かせちゃったみたいなんだ」
カミナはしょんぼりと小さく丸くなり、うつむきました。
「ごめんね」
そらくんは涙を手の甲でぬぐいながら、まだ少し不安そうにカミナを見つめました。
「……雷って、ほんとは悪いことじゃないの?」
「もちろん! 雨を連れてきてくれるし、空気をきれいにしてくれるし、森にも田んぼにも、たくさんの恵みをあげられるんだ。それに、雷の光は道しるべにもなるんだよ」
「道しるべ……?」
「そう。迷っている鳥や、夜に帰る動物たちが、ひらめく光を見て帰れるんだ。雷の光は、空の遠くまで届くんだよ」
そらくんは少し目を丸くしました。
「そんな役目があったなんて……知らなかった」
カミナはにかっと笑いました。
「じゃあ、そらくん。ぼくの練習につきあってよ! こわくない雷を鳴らせるようになりたいんだ。そらくんが怖がらなければ、成功ってこと!」
そらくんは胸の鼓動を感じながら、ぎゅっと唇をかみしめました。
でも勇気を出して、静かに言いました。
「やってみる……」
ちかちゃんも力強くうなずきました。
「そらなら、できるよ!」
カミナは空に向かって大きく息を吸い込みました。
「いくよ! やさしい雷、鳴れ〜っ!」
ぽふっ。
空から、とても小さな音が聞こえました。
ごろり……ころころ……と、まるで子猫が転がるようなかわいい音です。
そらくんは耳をすませ、心臓が少しドキドキしますが、怖くありません。
「……へんな音……」
カミナは顔を赤くして叫びました。
「えーん! かわいすぎたー!!」
ちかちゃんもそらくんも、つい笑ってしまいました。
「じゃあ、もう一回!」
カミナは再び息を吸い込み、力を込めました。
「いくよ! 優しく、でもちゃんと響くやつ——っ!」
ごろごろごろ……ばしゃんっ!
大きすぎず、小さすぎず、どこか安心できる音でした。
そらくんは両手を胸に当て、深く息をつきました。
「……大丈夫。こわくない」
カミナはぱあっと笑顔になりました。
「やったあ!! 成功だ!!」
その瞬間、激しかった雨がふっと弱まり、雲の切れ間から光が差し込みました。
雨のしずくが光を受け、きらきらと輝きます。
「きれい……!」
空には大きな虹がかかっていました。
「雷雨の後は、こんなごほうびがあるんだよ」
カミナは帽子をちょこんと下げました。
「そらくん、ありがとう。きみのおかげで、ぼくは立派な雷係になれそうだよ!」
「ぼくもありがとう。雷が、こわいだけじゃないってわかったよ!」
「また会いにくるね! 今度は、もっと上手な雷を聞かせるよ!」
カミナは空へ飛びのり、小さく手をふりました。
雨の雫が弾け、風がそっと二人の頬をなでます。
そらくんは胸を張りました。
「ちかちゃん、もう雷こわくないよ!」
「えらいぞ、そら!」
そのとき、ころころ……ごろん……小さな雷の音が遠くで鳴りました。
そらくんはにっこり笑いました。
「きっと、カミナくんだ!」
虹はゆっくり空に伸びながら、町中を光で満たしました。




