第89話 青銅への地下道
リテル達は命脈族の長い歴史を今のひとときで教えられた。膨大な情報が圧縮されて脳へ詰め込むには大変だった。
「貴方達は、剣を持っていますね。
単なる武器としては活躍できますが、地脈族には効果が十分は発揮できないでしょう。
貴方達のための武器が必要です。我々の武器を扱うのは難しいので、武器を取りに行かなければなりません。
斥候兵!」
ホラクゥイーンは斥候兵を呼び出した。
斥候兵にリテル達に護衛を作り、武器の調達の命令を与える。
「任せますよ。ウェーブ。」
その斥候兵はウェーブというそうで、紋様がある命脈族には名前が与えられる。
そういう昔ながらの文化だそうだ。
ウェーブは波の紋様か刻まれた殻を持っている。
胸あたりを拳で叩き、忠誠を誓うような姿勢を表した。
「頭鐸兵!鏡兵!双器兵!準備しろ!」
ウェーブに呼ばれた命脈族がゾロゾロと足並みを揃えて出てきた。
本当に地上の王国の兵士と何ら変わらない心強さがある。
リテル達を守るように囲み、ウェーブの指示で前進を始めた。
リテル達の隣には頭鐸兵の上に乗ったウェーブがいる。頭鐸兵は何も言うことなくウェーブを頭に乗せている。
そしてウェーブはリテルに話しかけた。
「我々は今から銅鐸と銅鏡の場所に行く。
人間に合う物を探しにだ。
ん?前進止め!」
ウェーブは突然兵が進むのを止めた。
何があるのかとリテル達は前を見ると、黄緑色に発光する丸いものを見た。
平らな場所で一人でに転がっている。
「あれはボルボール。我々と同じように長くこの地で生きている。
意識をもつ最初の生命があれだ。」
あのボルボールに対して生死の賢者が反応する。
「起源生物、ボルボール。
外膜は柔らかく、衝撃を加えると体内からワタを出し、外敵から逃げます。」
「我々にとって、起源生物は中立的な存在で、わざわざ攻撃をする目的はありません。なのでボルボールを迂回して兵は進みます。」
兵がボルボールの隣を過ぎると、少しして目的の場所に到着した。
兵が目指したその場所は縦に伸びる隙間がある断壁だった。
「地殻変動によって姿を露わにした銅鉱脈は我々の銅鐸、銅鏡の材料の供給源。
程よい銅を採掘し、大地の力に対抗できる銅剣を創ります。」
「命脈族は銅を加工なんてできるの?」
「人類が火を扱い、創造してきた物に命を宿す。
教えてくれたのは全部貴方達、人間です。」
命脈族はいつ頃の時代の人に教えてもらったのかわからないけど、火を使うことができて、銅の加工の仕方も知っているようだ。
一体、いつから生きているのだろうか。
リテル達と兵らは銅鉱脈へ踏み込んだ。
静寂な空間で兵が歩くたびに足音が反響する。
大きな銅鉱脈の前に3匹の頭鐸兵が並び、一息に頭の銅鐸を銅鉱石にぶつけた。
3回、衝突音が鳴ると適度な大きさの銅鉱石が剥がれ、頭鐸兵がそれを拾い上げた。
「何とも、地脈族に対抗するには地脈族の力を借りるとは皮肉な物ですがね。
しかしこれも未来に繋がるなら、地脈族も許してくれるだろう。」
ウェーブは銅の採掘風景を見ながらそう言った。
「これで材料は揃ったのか?」
リテルがそう聞くと、ウェーブは殻を横に振った。
多分その行動は否定を表しているんだろう。
「我々はこれから貯水湖へ向かいます。」
ウェーブの指示に身を委ねて、貯水湖という地下の溜まり池に着いた。
水面は銀鱗のように青白く光っている。
水面を覗けば、植物のような一本たりとも枝分かれのしていない、まっすぐな茎が無造作に水中で息を潜めていた。
どうやら、この茎のような物が必要だそうだ。
しかし命脈族、地脈族は共に水に弱く、水へ殻をつけることさえ危険だった。
では今までどうやって取ってきていたのか。
それはウェーブの役目だった。
ウェーブの殻には波の紋様がある。
その紋様が特殊な生命の力を発揮し、水に浸かっても崩れることはない。
そして波の紋様はゴツゴツとした岩でも水のように泳げる。
潜伏からの不意打ちが得意だそうだ。
ウェーブは意気揚々に貯水湖にダイブして、手慣れた様子でその茎を数本集めた。
その茎と呼んでいた物はまた起源生物の一種で、デカミドロという。
デカミドロは水中で得た養分から酸素を生成するそうだ。
その酸素を使って火の火力を上げるという方法で加工をするようだ。
これで材料は揃った。
進行方向を回れ右して、トゥルムスへ帰る。
その道中、洞窟の中でスポットライトのように光っている場所があった。
「あの場所も説明すべきですね。
上を見てください。」
リテル達は光の出る上を見上げる。
すると、なんと洞窟の天井に逆さになった大きな木が一本、元気に生えていた。
「あれは命脈族も地脈族も大切に扱ってきた地下唯一の木です。
名はフォルセティの木。地上の有様を映し出す木です。」
フォルセティの木は地上の自然と生命の均衡を表す木で、均衡が乱れれば葉が落ちたり、木が枯れたり、逆に調和し合っている時は花が咲いたりするそうだ。
今は木の下に少しだけ葉が重なっている。
フォルセティの木はとても大事な一本の木で、どんなに争いが激しくても、あの木だけは手を出さない。
地上と地下を繋ぐ木。
「すげぇ・・・。逆さまだ・・・。」
隣のシャッツは口をポカンと開けていた。
そのまま、眺めて歩き続けているとトゥルムスが見えてきた。
トゥルムスの温かみで安心していると、油断は大敵だった。
突如として、岩煙が兵の前進を妨げた。
リテル達は前方へ目を向けるが、姿は煙で見えない。
武器を構えた。




