第90話 文明の交流
頭鐸兵、鏡兵、双器兵に護衛してもらうリテル達。
銅を採掘し終え、波の紋様の斥候兵のウェーブがデカミドロを担いでトゥルムスへ帰る。
その途中で逆さの木 フォルセティの木を見た。
そしてトゥルムスが見えた時、あと少しだと思っていると、岩埃を掻き立てて何かが現れた。
リテル達も兵も身構える。
煙が収まると、姿を現したのはペブルロック。石の魔物だ。
目も口もなく、大まかに大きな一つの石に四つの人の手足にあたる石が繋がっている。
単純な見た目の石の魔物だ。
「む?久しいな。
頭鐸兵、頭突きで地へ返せ。」
「そんなことしていいの?」
ウェーブの無慈悲な指示にサイダンは聞く。
「ペブルロックはまた生まれます。時間はかかりますが。」
頭鐸兵は銅を採掘する時と同様、勢いのあるお辞儀で粉砕した。
無残にもペブルロックは砕け、砕けた石は動かなくなった。
そして何事もなかったように兵は動き始め、トゥルムスへと到着した。
ウェーブ、頭鐸兵はデカミドロと銅鉱石を土鐸兵に受け渡した。
「ここで我々の命令を完遂した。では。」
ウェーブと頭鐸兵は役目を終え、今度は土鐸兵に出番が回った。
「銅槍、銅剣、短銅剣、銅鏡、銅鐸を創れます。」
命脈族の作る青銅達は生命の力で特別な働きをする。
銅鏡は大地の力を防ぎ、反射する。
銅鐸は大地の力を打ち消し、音のような波動で攻撃をする。
ただし銅鏡、銅鐸は重く、身軽な動きがしにくいのが難点。
リテルは銅鐸、カイは銅剣、シャッツは短銅剣、ゼヴァは銅鏡、サイダンは銅槍を選んだ。
セバスチョーは持てない。
「ん?リテルは剣とか槍じゃなくていいのか?」
シャッツは俺の選択に疑問があるらしい。
「銅鐸を見た感じ、あれをぶん回せば強そうだなーって。
防御にも使えるらしいし。」
「なるほどな。」
土鐸兵達はその注文にしっかりと答え、地下草に火を起こし、デカミドロの先端を近づけた。
途端に火が強くなると、すかさずに銅鉱石とすでに準備されていたスズを混ぜて型へ流し込む。
火にも動じず、手慣れた様子で淡々と完成へと進める。
ここまではリテル達が想像できる武器の作り方だった。
土鐸兵が見たことがない波動をまだ固まっていない青銅に放つ。
リテル達は土鐸兵の後ろから好奇の目を向ける。
「気になりますか?」
余裕のある土鐸兵はリテル達の視線を感じ取ったのかそのまま説明してくれた。
「この作業は生命の力を与えています。
銅鏡、銅鐸には一段と多く与え、大地の力に発揮できる特別な物を作ります。」
説明が終わると、生命の力を与えるのをやめ、後は固まるだけだそうだ。
青銅を固めるには自然に冷めるのを待つと、青銅が脆くなってしまうそうで、そこで活躍するのが雪の紋様を持つ土鐸兵のリョート。
殻は一度も壊れたことがなく、最長寿の命脈族。
殻の紋様や風化具合から風格が漂う。
リョートが出てくると土鐸兵は一歩後ろへ引き、冷却を頼む。
リョートは返事を返すことなく、冷え固まるのを待ち侘びる青銅達に黙々と冷気を放つ。
全ての青銅を固めたのを確認すると、礼も貰わずリョートは奥へ戻った。
これで武器は完成した。
各々が手に取り、重さを実感する。
目新しい物に釘付けになっていると、空腹が襲ってきた。
「この地下にはご飯はないの?」
リテルの質問に土鐸兵は数秒の間を置いて答えた。
「我々には食を必要としないので、食べ物はありませんが・・・。
もしかするとあの生き物なら食べられるかもしれません。」
あの生き物とは?
リテル達はウェーブと共にその生き物の場所まで案内してもらった。
ウェーブは銅鐸を持っていて、水を汲むための銅鐸らしい。
場所は浅い水溜りのある湿った空間だった。
よく見ると色褪せた低い水草が生えている。
この水草を好む生き物が俺達の食料となる生き物。
それは、陸を移動する丸々とした甲殻を持つ生き物だった。
「こ、これ・・・?」
リテルが目の前にある物をこれから食すわけじゃないだろうと、ウェーブに問う。別の生物であってくれと願うリテルはウェーブの肯定に砕かれる。
「この生物は我々と同じぐらい長い間生きていきた起源生物、ロブミジンコ。」
ロブムミジンコと呼ばれるそいつはリテルの膝あたりまである大きめの生き物だった。
ウェーブがロブミジンコを背中から拾い上げ、リテル達にロブミジンコのお腹を見せる。甲殻類のように10本の足を不快に動かして、リテル達の身の毛がよだつ。
「食べませんか?地下で唯一のですよ。」
ウェーブはそれを手放そうとするので、食い気味に「食べる」と言った。
2匹それをトゥルムスへ持ち帰り、火に通した。
意外とロブミジンコは香ばしい肉の匂いを出していた。
リテル達は空腹で仕方がなく、いただきますと合掌するとすぐに肉を啄んだ。
胃は満たされていく。幸せだった。
火を通した水を飲み干し、合掌で終わった。
リテル達が完食すると、その様子をじっと不思議に見ていたウェーブは合掌とはなんなのか聞いてきた。
「掌を合わし、イタダキマス、ゴチソウサマとはなんだ?」
命脈族には食べる文化がないので、合掌もご飯への感謝の言葉を知らなかった。
言葉の意味を教えると、驚き喜んでいた。
「我々の信じてきた人類にはこのような文化があるのか。
いい言葉だ・・・。」
ウェーブは掌を合わせ、命をいただく言葉を何度も呟きながらトゥルムスへ帰って行った。




