第80話 終わりを告げる
人を恨む性格と己の存在を否定する性格の二つの人格に別れ、化け物の姿と化したチック・ザ・マンは凶暴な性格の人格に支配された。
カイに人への恨みをぶつけた後、その腕を振り上げた。
そのまま地面に叩きつけるつもりだった。
が、どうしてもこの腕が動かない。
あいつが反抗してきている訳ではないのに、憎しみが口まで来ているのに動かない。
するとググッと後ろへ化け物の腕が引っ張られた。
カイも化け物も後ろを振り向く。
伸びる薄桃色の長い舌が化け物の腕に巻きついていた。
カイはいっぱいに驚いた。
化け物は戸惑っていた。
死んだはず、死んだと聞いたあのリテルが元気に後ろで立っていることに。
「どうしてだ?お前はすでに死んだはず・・・。」
カイも同じことを言おうとしたが、前にもリテルに同じ様なことが起きている。
腹部を突き刺されて死んだはずだったのに、目を離した隙に息を吹き返していたこと。
「今の俺は比べものにならねーぞ。みんなのおかげでな。」
リテルの舌から流れ、包み込むように黒い怨念の濁流が化け物の全身に降り注ぐ。
化け物の全身がリテルの取り込んだ死んだ魔人達の怨念にゾワゾワと纏わりつく。
腐食するように触れられた皮膚の場所はただれ始めた。
「痛い!痛い!痛い!」
化け物は呻吟の声をあげ、全身の怨念を振り払うように四本の腕で体を掻きむしる。
払い除けられた怨念から逃げる化け物は遥か高い唯一の窓を目指して壁に張り付いて、かなりの速さで登り始めた。
大きくなった化け物の体は帰り道になるはずの通風口を通ることができず、すぐに化け物は扉をこじ開ける。
その扉の先はムロフやホールンが耐えしのいで通ったことがあるあの非常に寒い部屋だった。
化け物にはこの出口しかない。
怨念が迫ってきている状況、化け物は扉を突き破って、全速力で突っ切ろうとする。
「イマデス!オフタリガタ!オネガイシマスヨー!」
化け物にとってすぐに出たい苦手な部屋の出口を妨げるのは、ホールンの共鳴を受け取ってずっしりと構えたムロフだった。
「想定とは全く違う姿だが、俺は行くぞ!」
正面から化け物の体をしっかり掴む。
「お前!お前!今すぐに放せ!」
もうすぐ手前の出口の扉に必死に手を伸ばす化け物は焦り、ムロフを引き剥がしたいが馬鹿げた力で掴まれていた。
「放せ!あいつらが!あいつらが!」
化け物に怨念が追いつき、背後から流れ込むそれらが腐敗を加速させる。
さらにチャンスを掴んだもう一つの人格がもう一度現れる。
「僕も、最後まで・・・、一緒にいくからね。」
化け物の腕も足も体もガチガチに凍結し始め、お互いの行動を相殺する人格同士はもう動かなかった。
怨念に押しつぶされ、パキパキと全身が軋む音が聞こえる。
ついに体を支えていた足達は折れて、腕も落ちる。
「やめろ・・・。
ここが僕達の最後・・・。」
二つの人格が止まったのかと思うと、最後に3人目のチック・ザ・マンの本体が声だけ残る。鼻をすするように、涙を流すように言った。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・。
私は、結局、なんの約束も、守れなかった。
エートス先生、ごめんなさい。」
まるで子供が謝るような口調で最後に残した。
その時には、体は完全に動きを止め、声すら発しなかった。
纏わりついていた怨念も姿をいつの間にか消していた。
ムロフはゆっくりと手を離す。
その後、ホールンが全員に寒さを耐えて出るために共鳴を使い、化け物だった者の横を通りながら出口をくぐった。
リテルが最後に化け物の隣を通る時、ハットが硬い音を立てて落ちてきた。
拾い上げ、ハットの中を見てみると底に何かがあることに気がついた。
一度、出口をくぐりセバスチョーにそれを見せる。
「テープ、デスネ。
ソレヲシヨウデキルキカイニアンナイシマス。
タダソレヨリ、マジンタチヲドウニカテダスケヲシマショウ。」
死んじゃった・・・




