第69話 正義の定義
ある日の夜。リテル達は王国の周りを囲むように存在する厚い壁の上で、王国を見下ろしていた。夜の中で、黄緑色に光る配線が王国に色を付け加えていた。
夜の涼しい風がオイカゼ旅人団を吹く。
「あー、この感じ、いいねー。」
ゼヴァが心地よさに声を出す。
「そうか?俺はもっと戦いたいんだけど。」
シャッツはこの夜景に目もくれず、目はそっぽを向いて退屈そうにしていた。
中央フラット王国の崩壊後、一人で生き抜いてきたシャッツには興味がないのだろう。極獣1匹も攻撃してこないこの王国ではつまらないそうだ。
リテルはふと思い出した。一人でシャッツが生き延びた間のことを知らなかったからだ。あの時は、再会したことの興奮で忘れていたが、今なら聞くことができた。
「なぁ?シャッツってどうやってあの後生き延びた?」
「あの後って?」
「中央フラット王国が壊された後。」
シャッツは腕を組みながら、思い返すように語ってくれた。
リテル達が突然、旅人へなるキッカケとなったあの出来事。
あの出来事とは牛獣 リアー・デタイルがギポーの放った恐怖で奮い立たせられ、牛獣と嵐が襲撃してきたこと。
その時、リテルはその場にいたカイ、シャッツ、ゼヴァ、サイダン、ダラ、ウェルカ、フラベレを両腕を舌に変えて、舌で抱えて飛んだ。だが嵐の止んだ頃、地上へ降りて確認した時、シャッツ、ダラ、ウェルカ。フラベレがいなかったのである。
そしてシャッツの真相が明らかになる。
シャッツが言うには、消えた理由はそいつらと戦いたかったかららしい。
なんともシャッツらしい、いい意味でバカみたいなワケだった。
あの時は焦っていたが、今となっては笑える。
そして牛獣の群れの中から生き延びることができたのはただ単に硬い体が衝撃を守ったゆえ。
暴風に流されて飛んでいった先は、大陸西に広がるジュガンドラ地方の東側。
森の泉に墜落したシャッツは、森を彷徨うことになった。
ジュガンドラの大森林はもちろん安全ではない。
極獣も危険な毒を持つ生き物もたくさんいる。
人の手から離れた完全な自然では誰にしも死は平等である。
熊の極獣や猿の極獣と取っ組み合いをしてその都度、ひっくり返していたそうだ。それは相撲をする物語を彷彿とさせる。
シャッツはリテルを見つけるため、森の中で長い距離を歩き回った。
結果、ブレイサー港王国に運良く辿り着き、あの日にリテル達と出会った。
「うむ、シャッツらしい話じゃの。だが、誇張しているようにも聞こえる。」
「あ?信じれねーならここでやってやろうか?」
シャッツは少し苛立っている。
たった少しのカイの意地悪がシャッツにとって否定されたように感じた。
拳をポキポキと鳴らしてやり合う準備は万端だった。
「わしはおどれと戯れる必要はない。死警官あろうわしがはこんなことを買う短気であってはならないのじゃからな。」
「バーカ。正義飾りの腰抜け野郎ー。」
「なんじゃと?」
どうしてこうなってしまった。
俺とホールンは仲介に入ったが止まることはなかった。
シャッツは変身し、カイもすでに刀に手を添えていた。
ムロフは彼らを楽しそうに見守っている。
両者が足を踏み出した瞬間、爆発と大きな地響きが壁を鳴らした。
カイもシャッツもその轟音に足を止める。
何事かとリテルはすぐに王国を見た。
あの爆発はリテル達のいる壁の下で起きていた。
白い煙が舞い上がっている。
赤いランプが注意するように喚起する。
付近にいた検査官は、爆発で崩れた壁を囲み、何かを迎えるように盾を構えた。
そして上からリテル達が目にしたのは、白煙に包まれて現れた黒檀色に染まる大きな人。皮膚に見えるものはない。
「何あれ・・・?」
サイダンは衝撃的な光景に肝を潰す。
恐怖を覗く行為と知っていたとしてでも見続けた。
その巨体は検査官に打倒されて、すぐに大きな幕で覆われた。
覆われた後も音を立てずに見ていると、背後から女性の声に尋ねられた。
全員の目線は後ろに向けられた。そこには検査官と同じような服を着た女性がいた。
「ナヌ?!」
「私はコアセンド王国の死警官。
コアセンド王国法に則り、機密目撃者を殲滅する。
不運にも因果はすでに成り立った。旅人そして少年でさえ免ずることはない。」
そして死警官は横長のバイザーを不穏に赤く点々と光らせ、カイの刀と同形の刀を手に取り、おそらく付加魔法放出法でその刀に魔法を付け加えた。
刀の上身は2倍の長さになった。
ホールンは死警官の殺気に層盾を構えた。
少し強く握るとコネルギの膜が一気に展開し、盾はリテル達を含むホールンを庇った。
「死刑なんか一生の有罪さ。逃げる理由もない。
全員死刑執行だ。」
死警官は走って層盾に刀で突っかかる。
もちろんその刀の刃は盾で防がれた。
ただ、その刀は付加魔法放出法がなく、盾に当たったのは普通の刀だった。
「ザコの見掛け倒しかよ。」
シャッツがそう弄ろうとすると、展開していたコネルギの盾をその空間魔法が突き破った。
鋭利な刃先がシャッツの右角をなぞった。
カイは咄嗟にシャッツに向いた刃を刀で弾き返した。
「何が死刑じゃ。何が死警官じゃ!
わしはおどれを断じて認めん!見失った正義など要らぬ!」
父、死警官グルジエ=デクノーアレの背を見続けてきたカイにとって、死警官とは自国の情勢を守る保安官ではなく、この世の秩序と均衡を保ち不正と殺人を防止することだ。
カイは完璧正義者として見過ごせないその正義を叩き直すため、ホールンの盾の前に出て、刀を交合わせた。
「お前の何に正解の正義がわかる?正義は人類の進歩に進むことだ!」
「おどれらの正義は人を殺して前に進むのか?悪を裁いてこそ前へ進むんじゃ!
わしはデクノーアレ死警官じゃぞ!」
砦の上で、両者のあるべき正義がぶつかる。
刀も同じように正義を賭けて激しくぶつかり合う。
夜に響く金属の高い音が断続的に鳴る。
交える両者の激突はお互いに引くことなく、接戦で進んでいた。
カイも死警官も体力を消耗してきたその頃、盾の後ろでサイダンが準備していた。
サイダンによる加速運動で一撃をお見舞いした。
「変速先手。」
目にも見えぬ速度で相手の懐へ行き、砦の外に突き飛ばした。
カイはその一瞬の出来事に呆然として見ていた。
迎え打つことができたと思った矢先、カイの背後に殺気を感じた。
静かに迫りよる別のバイザーをつけた死警官。
振り返った時、カイのすぐ前には刃物を振りかざす直前の死警官が現れた。
たちまち刀で防ごうと試みたが遅かった。
彼が来るまでは。
死警官が刃物を握っていた腕が急に止まった。
驚いてその腕を見る。誰かの手が腕を掴んでいた。
青フードである。
彼は隠し持っていた短剣で死警官の右腕を切り落とした。
死警官は舌打ちを鳴らし、魔法で空へ浮き上がった。
「旅人以外が王国内で刃物を所持することは許されない。
それにただの商人があの検査を潜り抜けた?んなわけない。
偽って王国に入ってきたな。
お前も殺します。」
その死警官は左手を空に掲げ、魔法を唱えた。
「アラインガング。」
空間から青白く光る光線が砦の上にいるリテル達を雨のように襲った。
逃げろ!と青フードがリテル達に呼びかけた。
光の雨を避けるように散り散りに別れて避け続けた。
抗えず無制限に降る光が気に入らないリテルは翼を生やし、空へ駆け出た。
死警官はリテルが飛んできていることに気がつき、標的を向けた。
「アラインガング。」
再び降り注ぐ光を抜け潜り、接近した。
「飛んだところで、そんな短い旅の剣で何ができる?
優位がどっちなのかわかるだろ・・・?
・・・なんだその腕は!?」
リテルは両腕は舌に変え、死警官を掴み、砦の壁に突きつけた。
リテルの舌は旅を重ねるごとに舌の握力(?)が強くなって成人でも振り解けない。
そしてロス・ガデーンズ王国で手に入れた鳥獣 トニトル・ムグーの力で電気を扱えるようになった。
「電舌!」
舌を通して電気が流れて、死警官は電舌によって電却された。
「公務執行・・・妨・・・ガイ・・・。」
死警官は壁に埋まって気絶した。




