第58話 慈悲を許さじ
兄シュトルフを裁いたフギレ。
王国の崩壊する未来を未遂に押さえ込んだ。
更に狼獣は変異を克服し、異纒正を受け入れた。
フギレは王国に戻り、カガガのもとへ行った。
フギレはいつも活気がある持ち主だった、しかし今はそれを表に表すことはない。
「私の兄、シュトルフを殺しました。」
カガガはそれを聞いて、驚くことはなかった。
ゆっくりと手で顎を触り、目を閉じた。
「お前がシュトルフを殺害したのにはいづれ理由があるんだろう。
昔、お前が俺に泣き込んだときの約束がそれなら俺は何も言うことはない。
人を殺すことは、この王国ではご法度のようにされているが、外に出ればそうもいかない。
悪人は裁き、善人は生かす、こんな世界だ。
昔から性はこんなもん。
ただ早く櫓の上にある肉をどうにかしてくれ。腐る前に。」
「す、すぐに連れて来ます!」
極獣を追い払い、落ち着いたリテル達。
無傷だったのはリテル、サイダン、ホールン。
シャッツは左角が折れたが魔人なので時間をかければ少しずつ治るそうだ。
カイとゼヴァは昆獣 プレスト・フィラの鱗粉の毒で治療中だった。
アメハの指示により、応急で手当をしたおかげで幸い、死には至らなかった。
ムロフは牛獣に攻撃されても、毒嵐をくらってもまったくの健全であった。
対してエクスタの状況は非常に危険に陥っていた。
アメハの診断の結果、彼の全身には毒が回っているそうだ。
完治には薬を飲み続けるしかないということだった。
嵐から抜け出した後からずっと目を開けてはいなかったが、時間をかければ救えるとのこと。
「俺は団長が起きるまでここで過ごすぜ。」
ジエドの宣言にアトリエもメルもためらう素振りもなく賛成だった。
リテル達もカイとゼヴァの治療が完了するまで王国にとどまるつもりだった。
時刻は深夜。
疲れがドッと背中に注がれた感覚がリテル達を襲う。
カイ、ゼヴァ、エクスタ、アメハを置いて帰った。
アメハは深夜作業には慣れていて、このまま看護するそうだ。
間に合わせの医者と共に夜まで見守る。
無理しない範囲でと注告してリテル達とジエド達は宿へ帰った。
布団に入って記憶は飛ぶように朝になった。
良くも悪くも一瞬だった。
目を擦り、着替えていると窓の外では見慣れない鎧を着た数人の団が大通りを通って、カガガの櫓に歩いて行った。
その団の中央には下半身は馬のような魔人であろう人物がいた。
その時のリテルは気にすることはなかった。
リテルが見た団は政府から派遣された朱陣 マユズミ。
年老いた丸メガネジジイである。
政府の命令によりアメハの回収を引き受けた。
正体は魔人ではなく特性 擬馬で下半身が馬になっている。
リテルのように一部を別の姿になれる原理と同様。
マユズミ率いる兵は櫓へ入った。
カガガは何の用だ、と素っ気なく言った。
「わしは前回の内容を話しに来たのではない。
別件である。直に言おう。
研究員N.118アメハ=オガネソン。生存の安否を問う。いるのか?」
「俺に何の関係があるのだ?」
「肯定か否定か、それだけでいい。森にいすぎてまともに話せないのか?」
「・・・ああ。この王国で立派に生きている。」
「そこへ案内しろ。今回は彼女を研究所へ戻すのが仕事だ。」
カガガは不敬なマユズミに渋々応じて、アメハの元へ歩いた。
馬の蹄が廊下を鳴らし、マユズミは病室の前で立ち止まった。
「なぁ、王国を見た際、いたる場所で負傷の跡が散らばっていた。
一揆でもあったのか?」
「極獣夜行だ。」
マユズミはカガガの返答に彼が言った言葉をもう一度口からこぼれ出してしまう。
「なるほど。なぜ病室に連れて来たのかわかった。」
マユズミは扉を開け、看護に疲れて眠っていたアメハを拾い上げこの場を去る。
何も言わず、去る時の言葉もなかった。
そして彼が扉の取っ手に触れた時、カガガは言った。
「これっぽちで陣が出動するのか?
それはそれは大事なことなんだな。」
「何が言いたい?」
「それ、回収ってやつだろ。」
カガガが言った瞬間、マユズミの顔は薄暗くみえた。
「無駄じゃ。付き合ってられん。
それ以上近づいてみろ、政府妨害罪とみなすからな。」
帰らせてもらう。」
扉をピシャリと閉めて王国を去った。
政府勅使のマユズミはアメハを回収した。
カガガはリテル達に事情を聞かれるが、はっきりと言うことはできなかった。
アメハは研究所へ帰ったと、葛藤するカガガは苦し紛れに答えた。
アメハが回収されたのち、間に合わせの医者が後を引き継ぎ、カイとゼヴァの体調は戻った。
エクスタはまだ不調だが、グローズ旅人団は決しておいてはいかないと誓う。
オイカゼ旅人団はカガガやフギレに背中を見守られながら再び外へと歩んだ。




