第57話 長風は燭火を吹く
見事、全極獣を討伐したオイカゼ旅人団、グローズ旅人団。
それと同時刻にフギレはシュトルフと喧嘩していた。
森の中で移動しながら戦うフギレと狼獣を従熱したシュトルフ。
その戦闘はシュトルフによる一方的な攻撃だった。
「俺をずっと追いかけて来ているが、王国は心配じゃないのか?」
「王国には頼れる仲間がいる。
あと、お前を追いかけているわけじゃない!
狼獣を追いかけているんだ!」
「そんなに大切なのか?
それならこいつからの愛を受けっとてやれよ!」
と、シュトルフは狼獣を操り、攻撃を繰り出した。
濁流のように飛ぶ斬撃はフギレを苦しませる。
フギレが攻撃を行えない理由は単純だった。
狼獣を盾にしてフギレの攻撃を防ぐ素振りを見せるからだ。
シュトルフはフギレが狼獣を傷つけることができないのを理解していて、タチが悪い。
シュトルフを木影からの不意打ちを狙っても・・・
「おっとー、こいつがどうなるかわかってるだろ?」
シュトルフはやはり狼獣を矢面に立たせる。
「小癪なことを・・・!」
小声でフギレは声が出てしまった。
シュトルフに対する、狡猾な行動と狼獣を弄する行為がフギレをいらだたせた。
一度、全速で近づいてみよう。
フギレは風の押しを強め、スピードを上げた。
静まり返る。
奇襲する作戦か。
狼獣を盾にsッ・・・。
一振りの刃がシュトルフの首筋を捉える。
「速いじゃなか、弟。
ただ・・・。」
シュトルフは刃が首に達する前に狼獣から離脱した。
平然を装うシュトルフだが、首元にくるまで気づくことはできなかった。
狼獣を手放し、従熱が解除。
狼獣は空中から従熱が解除されたため、地面へ落ちた。
「イナサちゃん!!」
フギレはシュトルフをよそに、狼獣へ向かった。
横たわっている狼獣には外傷はなさそうだが、内部の損傷は判断できない。
イナサちゃんの力を借りることができれば、あいつを倒すことは容易だけど・・・。
無理に起こすのも悪いか。
フギレは狼獣の安全を確認したのち、シュトルフの前へ戻った。
「狼獣がいなくなったから、俺にやり返せると思っているのか?」
シュトルフは魔法で炎の球を出した。
するとそれを自分の下に持って来た。
「従熱!!」
自ら出した炎を従熱して形になったのは、狼獣そっくりだった。
従熱で狼獣を操っている間に、体温から形をとり、狼獣の型にはめるように炎を整えたのだった。
「瓜二つだろ?まるで俺たちの様。
いつか俺も自分のケモノが欲しかった。
こうして手に入れると、お前の気持ちもわかるぜ。」
シュトルフは擬似炎狼獣オオカタヤブリに乗り、フギレに向けて炎を放った。
このまま避け続ければ、森は大事になってしまう。
炎狼獣の放った炎が狼獣の付近へ落ちた。
しかし狼獣が起きる気配も動く気配もなかった。
フギレはすぐさま狼獣を炎から庇った。
狼獣へ声をかけるが、反応しない。
目は覚めているだろうが、息は荒く唸っている。
何かがイナサちゃんを苦しませているのか・・・?
それともあの時シュトルフが何かしたのか。
まずは火から離れさせるべきなので、フギレは風魔法を使用した。
ここから運び出す手段は風魔法だけ。
「猛禽の猛。」
横方向へ巻き風を放出し、狼獣を少し遠くへ離した。
「対処してそれが精一杯か?
俺は何百倍の速さで炎をだせるぞ?」
炎狼獣は炎の爪で狼獣を引っ掻いた。
「よくも・・・!」
フギレの声も闇の中へ、シュトルフは止めることはなかった。
狼獣の体に焼け傷が増える。
フギレは飛び出して炎狼獣に乗っているシュトルフの腕を深く刻んだ。
「たかが悪あが・・・」
シュトルフが狼獣へ目線を戻した時、狼獣の姿はすっかりなかった。
音も風も感じなかった。
咄嗟に大きく首を振り、辺りを見渡した。
どこだ・・・。
シュトルフの頭上に月の光の影が映った。
上を見た時には、狼獣の前爪が目の前にあった。
皓皓に輝く鋭爪が彼を捉えていた。
シュトルフは首の皮一枚のところで月光の一撃を避けた。
「イナサちゃん?!
やけに・・・大きくないかい?」
狼獣の姿はひとまわり大きくなっていた。
フギレは初めて見る狼獣の姿に困惑した。
フギレが困惑している中、狼獣はフギレの側へ寄り、咥えて背中へ乗せた。
フギレは狼獣の眼差しに何が起きているのか察した。
「イナサちゃん・・・。
やるんだね。君とならいつだって最高潮だ!」
フギレは狼獣と共闘することとなった。
「始めようかシュトルフ。
狩のお手本だ。」
狼獣、炎狼獣は互いにに爪や風、炎を使って攻撃を始めた。
互角のスピードで風と炎が森の空で激闘する。
満月の夜、二匹の狼が生死を賭けて大勝負。
月光と陽光が交り、神秘が四人を囲った。
「ここでお前を倒して、王国を潰す!」
炎狼獣は更に加速し、幾多に及ぶ攻撃がまだらに降り注いだ。
全身が炎だから体は軽いが炎を固く固めているせいで、強く速い一撃をだせる。
狼獣は隙を見て、体勢を整えた。
「弱っちい弟を持ったわ。
もうわかりきってることだろ?
昔から決まっていたんだ。」
血繋がりのあるイーレン家ではシュトルフが初めて特性を発現させた。
弟のフギレは特性を発現できないせいでよくシュトルフに手を挙げられていた。
乱暴な性格から両親も世話を焼き、困らせていた。
喧嘩をする時は未熟な火魔法をちらつかせ、いつも負けるのはフギレだった。
大人になってもその性格は変わらない。
「本当に残念な兄を持った。
もうちょっと静かだったらよかったな。
お願い、イナサちゃん。シュトルフを私の理想にして。」
狼獣の心拍数の増加に比例して、内から溢れる力は変異の力。
変異とは力の暴走を引き起こすもの。
我武者羅に暴れて、自我は制限される。
これが今までの変異の常識だった。
しかし今の狼獣はフギレに応え、意識的に変異を解放した。
変異の存在すら知らないフギレにとってただの狼獣だが、狼獣の中では大きな変化があった。
その変化とは変異の克服、異纒正である。
変異を克服した狼獣は暴れていた力を制御し、でたらめに放出していた風も風向きは整う。
発揮できる潜在能力を余分に余すことなく使い切ることができる。
狼獣の一つ一つの攻撃は炎も引き裂き、致命傷は免れない。
シュトルフが狼獣のおかしな変化に気がついても、もう遅かった。
狼獣が感じた屈辱が攻撃の手を止めることはない。
夜の勝者はフギレと狼獣であった。
風も火も止んだ頃。
「シュトルフ、静かになれたな。」
「・・・・・・。」
返事さえなかった。




