第56話 殻獣、牛獣、昆獣の満月の夜
シュトルフが変異した狼獣を従熱により乗っ取ってしまった。
彼がトリガーのように従熱した直後、極獣夜行が始まった。
狼獣は森へ消え、フギレはその後を追う。
極獣夜行で現れた極獣の侵攻を食い止めるため、北門にはリテルとサイダン。
西門にはムロフとホールン。
南門にはシャッツ、東門にはカイとゼヴァが向かった。
西へ走る水牛。
門を潜り抜け外に出ると、既に王国前にまで迫って来た殻獣、トリケラ・シールズ。
その殻獣は非常に強固な甲殻を持っていて、シャッツの頭突きによる衝撃にもびくともしない。
シャッツは顕凱を発動し、激流で大勢を押し返そうと再び、殻獣にぶつかった。
ガキン!!
シャッツがぶつかった所はハサミの側面だった。
殻獣のハサミの側面は他の部位よりも一段と固く、鉄とも言える硬さだった。
全身に纏う鎧は打撃を与えても凹みすらしない、鉄壁の鎧。
水牛とはいえ、この硬さには苦戦を強いられた。
攻撃するたびに反動が返ってくる・・・
シャッツが打開策はないのかと頭を捻ってくると、その殻獣は大きく飛躍した。
「飛んだ?!」
シャッツは殻獣を見上げていると、誰かに引っ張られた。
そして植物のつるが急降下してくる殻獣を拘束した。
「そこの牛!奴の腹を攻撃しろ!」
突然現れた銀髪で左目隠しの女がシャッツへ指示した。
「うるせぇ!リテル以外が指図すんな。あとシャッツ・ヴェル=ヴィリーブンだ!」
「そうかヴィリー。
さっさとあの腹を打破しな。」
やるしかない状況でシャッツは嫌々、殻獣の腹へ突撃した。
殻獣にとってその場所は内臓に近い場所であったため、弱点をついたようだ。
地面に落下し、もがく殻獣はシャッツの追撃でトドメを刺された。
「利口なイエスマンじゃないか。
私はグローズ旅人団のメル=ネイ。
見ての通り植物を操る特性、草戯。
じゃ、これで互いを知れた。これで終わり。
殻獣は一匹だけで攻めてこないだろ。さ、構な。」
南門に着いたのはムロフ、ホールン、グローズ旅人団団長エクスタ。
南口で出構えていたのは中央フラット王国を崩壊させたあの極獣。
牛獣、リアー・デタイル。
嵐を発生させる極獣には圧倒的な脅威がある。
他とは比べ物にならないほど強い牛獣。
それが極獣夜行によって誘き寄せられた。
ホールンはムロフと共鳴し、ムロフは真の実力を拡張できるようになった。
ムロフは速攻で牛獣の群れに立ち向かう。
「お前単騎じゃどうにもならんぞ!
風で打ち上げられて終わりだ。
ここはしっかり・・・」
エクスタが差し止める。
彼がムロフをとどめていた腕は簡単に剥がされ、ムロフは走って一頭の牛獣の角をがっしりと握った。
その牛獣はムロフを振り払うために頭を左右に激しく振る。
が、ムロフは腰を低く構え、両手でしっかりと角を持ち、牛獣の頭を固定した。
「どいつがやったのか知らないが怨むなよ。」
フンっと右膝を牛獣の下顎にぶつけた。
パキィバギィと砕ける悲痛な音が鳴った。
牛獣は勢いのままひっくり返り、荒い鳴き声と共に森へ消えた。
リアー・デタイルは恐怖に敏感で、強いフィジカルを持ちながら精神は弱めの極獣。
人間が恐怖を感じ、受動する行動は逃げる。
しかしリアー・デタイルは恐怖を感じると、ストレスの影響で暴走を始める。
そしてムロフの膝蹴りがリアー・デタイルらに恐怖を与えた。
つまり、暴走する。
ムロフを目掛けて牛獣は次々と頭を打ちつける。
「たかが頭突きじゃどうもならんぞ!」
ムロフは一匹一匹蹴り飛ばす。
が、ある程度ムロフへ集まると、だんだんと風が発生して来た。
「無鉄砲に殴ったら返って攻撃をしてくる。
学校で習わなかったのか?!」
エクスタは牛獣の中心へ跳び込み、ムロフを腕で掴んで、石化した別の手で地面を握った。
服を透き通していた風が瞬く間に、人が浮かぶほどの風圧になった。
ホールンは必死に門へしがみつくしかなかった。
巻き上がる嵐の外にいたホールンは空に浮かぶ異様な粉を見た。
薄紫に色づいた粉が嵐に吸い込まれた。
ホールンは咄嗟に腕で鼻と口を塞いだ。
「その鱗粉!吸わないで!」
家の隙間からアメハが布で口元を覆いながら言った。
「それは肺に悪い!」
この鱗粉は昆獣 プレスト・フィラによるもの。
巨大な蝶の姿をした極獣。
変異を吸収し、本来の肺を蝕む毒に加え、麻痺効果がある鱗粉も会得してしまった個体が極獣夜行に来てしまった。
「じゃ、じゃあ!ムロフやあの極獣達はどうなるの?・・・」
「いくらムロフさんの屈強な肉体でも対応ができるはずない。」
ホールンは自分にできることはないのかと深く考えた。
魔法が頭をよぎった。
けど、僕の魔法は貧弱で使い物にならない。
魔法を一番習う時はだいたい二年生からだったから、成長すらしていない。
ホールンは思わず、嵐に飛び出してやろうかと足を踏み出すところだった。
「今は引き時です。
助けたい気持ちもわかりますけど、辛抱です。」
ここで待っていたってムロフを見殺しにするだけ・・・。
今、自分にできることはムロフに耐性を与えることだけ!
「共鳴・減!」
ホールンはムロフがいるであろう場所に共鳴線を伸ばした。
すると巻き上がる嵐の中から黒い影が飛び出した。
「危ねぇー!」
飛び出して来たのはムロフだった。
片手にはエクスタを持っていたが、ホールンの共鳴・減を受けなかったため、深刻な不健康状態になっている。
アメハはすぐに手当を始めていた。
ムロフが出て来た後、嵐は止み、襲って来た牛獣 リアー・デタイルは鱗粉によって致死量の毒を摂取していた。
場所は変わって、鱗粉の元凶、東門ではカイとゼヴァが巨大な蝶、昆獣 プレスト・フィラと対峙していたのだが・・・。
カイもゼヴァも昆獣がずっと遥かで飛行しているせいで、まともに攻撃できず、魔法は鱗粉と羽ばたきから出される風圧で弾かれる。
かろうじて意識はあるものの、意のままに体は動かない。
末端が痺れて、刀を持つことで精一杯だった。
アトリエは着ていた青いマフラーでなんとか多量の鱗粉を吸うことはなかったが、決定打となるものなかった。
羽を凍らせて落とせたらいいのに、氷が届く前に吹き飛ばされる。
「すまん!お前らを犠牲にした!」
カガガが大砲を引いて走って来た。
「それは・・・?』
「滅殺大砲だ。
ん・・・?マァズイ!火をつけるものを忘れた!」
カイは意識が朦朧としながらもその会話を聞いていた。
ゼヴァを担いで、途中倒れながらも大砲の元へ向かった。
「ゼヴァの特性ならおどれの特性を火に変えることができるはずじゃ!
ゼヴァ、最後の踏ん張りじゃ!」
カイに応じて、震える手でアトリエに触った。
「特性ェ・・・変化・・・。」
アトリエは火が出ることを確認し、大砲のトリガーの場所へ炎を突っ込んだ。
炎がついたことを見たカガガは精一杯、トリガーを引いた。
轟音と共に、重量の大きな黒い球が昆獣に当たった。
砲弾は爆発し、大きな羽には火が付き、穴が空いた。
羽に穴が空いたことにより、巨体な昆獣は地面を鳴らして落ちた。
鱗粉はさっぱりと吹き飛ばされ、近づけるようになった。
「まだ触覚が動いている。
決めてを。」
アトリエは巨体に炎をつけた。
悶え苦しんだ昆獣は力尽きた。
「これが火の感覚・・・。新鮮ー。」




