表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/100

99話 謎の公民館に逗留

「宿泊は二つの和室を使いましょう」


 ということで男女に分かれて部屋を使う。まずは着替えと荷物の整備だ。なにせ波と風雨で完全に濡れている。もちろん防水には力を入れたけど、手入れをするに越したことはない。俺は早々に終わらせたものの、知紗兎さんと幸子さんは時間が掛かるらしい。先に部屋の探索を始めよう。

 最初に訪れたのは会議室。そこに資料を納めている棚があり、想像以上の収穫があった。建物の見取り図と、周辺地形の記録だ。水道や温泉は地下から汲み上げており、量も充分にあるらしい。どうやら水中ポンプ式みたいだな。この資料を見る限りだと、三人で使う分には枯渇の心配も少ない。


「荷物の片付け、終わったぞ!」

「良いタイミングですよ。今から温泉の用意をします」


 知紗兎さんが会議室に来たので、探索の成果を伝える。置いてあるマニュアルに従って準備すれば、素人の俺たちでも大丈夫そうだ。

 俺の言葉を聞くと、彼女は嬉しそうに破顔する。これは捜索の拠点に決定かな。


「素晴らしい提案だな!」

「ところで幸子さんは?」


 荷物の手入れは得意と聞いている。どこかで別の作業中かな。


「今まで私の整備に協力してくれていた。終わったら食事の用意を始めている」

「そういえば朝から動きっぱなしで、腹が減っています」


 調理をするなら、水が豊富に使えそうなことを早く伝えるべきだ。料理の方法も変わるだろうからな。

 二人で一階の台所へ向かうと、すでに準備を始めていた。俺たちに気が付くと、振り向いて机上の缶詰を見せてくる。


「昼食は簡単な物で構いませんか? 水の節約もしたいので」

「会議室に資料がありまして、水量なら問題なさそうです」


 だからといって無駄遣いは駄目だけど、通常の日常生活で使う分には問題ない。俺が伝えると、ずいぶん喜んでくれた。

 温泉の件も説明して、今から準備することを話す。知紗兎さんと違って、静かに喜んでいたようだ。さっそく始めるか。




 多少の時が流れ、ようやく温泉へ入れるようになった。すでに幸子さんの料理も完成したとのこと。台所には電子レンジもあって、冷めた料理は再び温めてくれるそうだ。

 ちなみに主食はチャーハン。炊いた米を冷凍し、保存しておいたものを使った。メインは麻婆豆腐。こちらも冷凍した豆腐を持ち込んでいる。また挽肉の代わりにベーコンを入れた。それから野菜の入った缶詰。三人とも席に着いたら、それぞれ手を合わせる。さっそく、いただこう。


「麻婆豆腐ですけど、普通が二皿。少しだけ辛いものが一皿になっています。少し味見してください。辛味を調整しますので」

「わかりました」

「どれどれ」


 少し辛い方を取り皿に分け、口に運ぶ。隣で知紗兎さん同様の動作をしている。その瞬間、舌に衝撃が走る! 辛い! というか痛い!


「激辛じゃないですか!」

「え? そんなに辛くないでしょう?」


 幸子さんは自分の分に追い唐辛子を入れ、平然と口に運んでいた。不思議そうな顔をしている。自然な上辛目線(うえからめせん)、止めてください。とりあえずチャーハンで中和。いや、本当に中和できるかは知らない。なんとなく辛さが引くような気がした。

 隣の知紗兎さんを見ると、無言で飲み下しているようだ。


「私は普通の方を貰おう」

「俺も同じで」

「そうですか? 追加の調味料が必要なら言ってくださいね」


 悪気はないのだろうけど、認識の差って怖いな。おそるおそる普通と言った皿に手を伸ばす。多少のためらいを越えて、一口。


「あ、美味い」


 良かった。こちらは適度の辛さで素直に旨いと思える。というか想像以上だな。考えてみれば、辛い方も味は悪くなかった。


「確かに。これ、金が取れるのでは」

「店を開いたら繁盛しそうですね」

「二人とも、褒めても何も出ませんよ」


 最初の一口は驚いたが、きちんと俺たちに合わせた料理も用意してくれている。ありがたいことだ。

 そのあとの昼食は穏やかに進む。ときどき冗談を交えながら、午後の行動予定を考えていった。話し合いの結果、この日は公民館へ留まることに決定。嵐で体力が低下しているためである。とりあえず館内の資料は確認しておこう。




 上陸二日目、早朝。今日から沿岸部を一周するつもりだ。会議室に地図があり、おおよその時間は見当が付く。無理をせず歩いて、約三日というところ。もちろん推測のため、もしも移動に困難な場所があったら、ちょっと別の話になる。

 そして公民館の入口に三人が揃った。


「準備、できました?」

「問題ないぞ」

「私も大丈夫です」


 俺の呼び掛けに対して、ほぼ同時に応える二人。昨日は温泉を堪能し、心と体を癒したのだろう。どちらも活力に満ちている。

 それと電気が使えるのは本当に助かった。外に大型発電機があったのだ。しかし玄関の電灯を点けたときには、誰も気が付いていない。見落とすとも考えにくい、それだけ目立っていた。この島に来てから、妙なことが起きている。


「行きましょう」


 とにかく今は探索に集中したい。できれば新鮮な果物でも、手に入れば嬉しいのだけど。

 三人で沿岸の『道』を歩く。これも妙なことの一つ。昨日は無かったはずの道。それが今朝になって、唐突に出現していた。正直に言って、得体の知れない状況に巻き込まれた感がある。ただ知紗兎さんの天眼通では、危険は無さそうとのこと。


「賢悟、私を信用してくれ。ここまで来て引き返す選択肢はない。そうだろ?」

「もちろんです」


 俺の心を読んだみたいに、知紗兎さんから声を掛けられた。たぶん顔色から何を考えているか察したのだろう。気を取り直して出発だ。俺は先頭を進む。

 ――歩くこと約二時間、なだらかな丘へと出た。海成段丘と呼ぶ地形だと思う。そこに大形の鳥が何羽かいた。


「お二方、見てください。あれはアホウドリでしょうか?」

「俺の目だと少し遠くて分かりにくいです。ただ、おそらく間違っていないかと」


 幸子さんの問いに、俺は肯定で答えた。全身は白を基調とし、後頭部は黄色だ。そして尾羽の先は黒っぽい。かなり大きい鳥である。別名はオキノタユウだったかな。こちらの名前は美しい、そしてカッコイイと思います。

 まだ距離が遠いためか、こちらに気付いた様子はない。


「このままだと驚かせる。できるだけ遠くを歩こう」


 知紗兎さんの言葉に俺も賛同する。それから移動を再開した。しばらく歩いたら休憩所を発見。机、椅子、トイレがあった。宿泊には使えないけど、小休止ならば充分か。今回はテントや寝袋を持ってきており、野宿になる予定だ。




 ちょっと休んだら、また歩き始める。そして浜辺に辿り着いた。もちろん最初に来た場所とは違う。


「みなさん、ウミガメですよ!」


 幸子さんが驚きの声を上げた。気持ちは分かる。その浜辺には多数のウミガメが生息していたのだ。浜一面に広がる群れは、滅多に拝めない光景である。カメラを持ち込んでいたら、間違いなく撮影タイムだったな。残念ながらモーターヨットに置いてきてしまったけど。


「さっきの鳥といい、食料には困らなそうだ」

「どっちも絶滅危惧種ですよ! 食べません!」


 食料に関しては思ったより余裕がある。改めて公民館の倉庫を調べたら、思った以上に非常食が置いてあったからだ。少し切り詰めれば一ヶ月は持ちそうである。

 しかし、カツカツで捜索するのはキツイな。できれば他に食料の供給源があると嬉しい。


「わかっている、冗談だよ」

「……まったく。とにかく先へ進みましょう」


 知紗兎さんの言葉を聞き、幸子さんは困惑していたようだ。彼女の言動に慣れていないからだろう。

 気持ちを切り替えて前進だ。ただ食料の話をしていたら、腹が減ってきた。もう正午を過ぎてから、かなりの時間が経っている。できれば落ち着ける場所で食事がしたい。――無情にも時は流れ、すでに日が傾いていた。そのとき、次の休憩所を発見。前と同じくらいの規模である。一つ違うのは、近くに洞窟が見えることか。暗くなる前に調べておきたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ