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98話 調べてみようアイランド

 海岸に立ち、周囲の地形を見回す。見た限り、高い建造物は無かった。もし人を探すとしたら地道に足を使うしかない。


「賢悟、ちょっと聞いてくれ。今、天眼通を使ってみた」

「どうでした、結果は?」

「芳しくない」


 知紗兎さんは不服そうに口を尖らせた。


「それは全く見えないのですか?」

「いや、そうじゃない。至る所から反応があり、困っている。もしかしたら能力を乱す何かが存在するのかもな」


 捜索対象が秘宝遺物なら、そんなことも可能か。とにかく今は生活の基盤を整えよう。長期戦も覚悟しないと。


「天目さん、危険な生物はいました?」

「少なくとも大型の獣はいないだろう。真っ先に確認したから、大丈夫だろう」

「ならば少しは安心ですね。それにしても凄い能力だと思います」


 幸子さんには天眼通のことを説明してある。最初に軽く伝えたが、何日も一緒に捜索することを考え詳細も話した。


「夢船を探すとしたら、沿岸の付近が第一候補だな」

「そうかもしれませんけど、まずは飲料水の確保です」

「蒸留しますか? 道具は持ってきました」


 それも一つの手である。しかし俺は首を横に振った。


「最後の手段にしましょう。燃料の消費が大きいですので」

「私も同感。なにより、まだるっこしい」


 知紗兎さんが俺の言葉に賛同したけど、理由は大きく違っている。とりあえず幸子さんも異論は無いようで、ここから移動することになった。

 問題は方向だな。島を見回して、まず目に入ったのは山である。中央の方に高い地形が確認できた。頂上が気になるけど、今は後回しだ。


「都合よく、道でもありませんかね」

「希望的観測に縋るのではない」

「いえ、見てください! ありますよ!」


 幸子さんが指を差す方に視界を向ける。結果、本当に道がある。林の中へ続いていた。舗装はされていないけど、立派な通路だろう。


「……俺は今まで気が付きませんでした」


 あの位置では、最初に上陸したとき分かるはず。真っ先に周囲を見回したけど、道に気付いた者はいない。

 疲れていて意識が散漫としており、見落としたのだろうか。


「実は私もだよ」

「とにかく行きましょう、人の痕跡を探します」


 生活する場所があれば、近くに水源もある可能性が高い。そして湧水や井戸でも発見できれば助かる。近くに川でもあれば、そこを遡るのだが。

 三人で道を進み、林の中を進んでいく。荷物はボートへ残さずに、全て背負う。何が起こるか分からないからだ。




 しばらく代わり映えしない景色が続いた。周囲は木々に囲まれ、見通しが悪い。道は前方で大きく曲がっており、先の確認ができなかった。


「厄介だな、どうも天眼通が安定しない。乱視にでもなった気分だ」

「無理はしないでください。探索は始まったばかりですから」

「伺った話では、体力を使うのでしょう。安海さんも心配していますよ」


 俺と幸子さんの言葉を聞き、知紗兎さんは頷く。少し控えるみたいだな。本当に必要なとき、使えなかったら困るだろう。


「どこか捜索の拠点は見付かりませんかね。無人の公民館とか」


 などと言ったが、そんな都合よくあるとは思っていない。軽口というか、ただの気休めである。

 ――そう、気休めのはずだった。


「公民館、あるな」


 道を曲がると、開けた場所に出た。ちょっとした広場と建物。知紗兎さんの言う通り、間違いなく公民館だ。はっきり看板に『公民館』と書かれている。

 二階建てで結構な広さ。外に水道もあった。


「人がいると思いますか?」

「分かりませんね。まずは訪ねてみましょう」


 幸子さんに答えながら、俺は入口に近付く。まずは声を掛けるものの反応なし。何度か繰り返すが返事は無かった。不在だろうか。

 横開きの扉に手を掛けると、簡単に動いた。どうやら鍵は掛かっていない。中を見て最初に気付いたのは、放送用の機材があること。それを確認して、なんとなく郷愁の念を覚えた。


「どうしたのだ、賢悟?」

「ちょっと懐かしい気分になりました。地元の公民館と似ているのですよ」


 まったく同じというわけではないけど、雰囲気が近いと思う。


「興味深いな。今度、そこに案内してくれ」

「構いません、また家にも寄ってください。それはともかく調査を始めましょう」

「人を探しますか?」


 幸子さんの質問に少しだけ考える。これだけ呼んで返答が無いため、周囲に誰もいないのだろう。あるいは警戒して、様子を窺っているか。

 どちらにせよ優先して調べたいことがある。ここが生活の基盤として使えるか、気になっていた。


「まずは水道ですね。外から確認します」


 中にもあると思うが、それは後にする。とりあえず背負った荷物を玄関に置き、必要最小限だけ持つ。そして外の水場へ移動した。

 やや緊張しつつ、蛇口をひねる。


「出たぞ!」

「知紗兎さん、待ってください。飲めるかチェックしないと」


 事前に用意しておいた携帯型のマルチ水質測定器を使おう。秘宝遺物には機械へ干渉するタイプがあると聞いた。故障していないことを祈る。

 よし、動作することは確認した。荷物から洗浄用の精製水を持ってくる。そして洗浄が終われば、検査開始だ。この種類は完了まで時間が掛かるはず。テキパキと作業を進める。


「どうだ?」

「測定中ですよ。ちょっと休憩しませんか?」

「賛成」


 嵐に遭遇してから、ろくに休まず動き続けている。かなり疲れた。揺れる船から落ちないよう、全力で身体を酷使したのだ。疲労を感じるのも当然か。

 休息を取りつつ、検査の様子を確認。外が終わったら、念のため中に設置された水道もチェックする。水源が一緒とは限らないし、給水管の内側部分が汚れていることも考えられる。――結果は全て問題なし。


「これなら大丈夫でしょう」

「よし! 中を確認するぞ!」


 取り急ぎ水回りの確認をしたけど、他はスルーしている。どんな部屋があるか、ざっと把握したのみである。




 改めて三人で公民館の内部を見て回ることにした。まずは玄関。扉を開けると、右手側の手前が下駄箱だ。その隣に放送機器がある。

 玄関を囲うように板が置かれてあり、うち履きのままでも放送が可能なようだ。ここで特筆すべき点が一つ。ライトのスイッチがあったこと。


「……明かりが付きますよ」

「電力が生きているのか」


 俺と知紗兎さんは少し首を捻る。水道の件でも思ったが、地図にない島で人間が暮らしているのだろうか。

 まあ、考え込んでも仕方ない。電気が使えるならラッキーと思うか。とりあえず中に入ろう。玄関の左手側が上がり(かまち)だ。靴を脱ぎ、公民館内に進入した。


「正面が広間、右に進むと突き当りが台所ですね」

「廊下の右手側に風呂。横に階段があって、その隣はトイレだな」

「あ、見てください! ここは温泉が出ます!」


 三人で館内を見ていると、幸子さんが嬉しそうに声を上げた。水質検査のときに見たけど、確かに温泉と書いてあったな。喜んでいる彼女は気にせず、他を回る。そのうち落ち着くだろう。

 一階部分だと、あと見てないのは倉庫くらい。そこは非常食が備えられており、ご丁寧に『避難者用』と記載がある。賞味期限も大丈夫。やはり近くに人がいるのかもしれない。


「残ったのは二階か。まだ倉庫を確認するなら、先に上を見てこよう」

「待ってください、知紗兎さん。俺も一緒に行きます」


 倉庫のチェックは後でも構わない。彼女の背中を追って、階段を上る。そこには和室が二部屋、また会議室や実習室などもあった。

 和室の押し入れに寝具が置いてあって、ふすまには倉庫と同じく『避難者用』の張り紙だ。俺たちに該当するかは疑問だが、貸してもらうことにする。綺麗にして返すので、ご容赦ください。心の中で感謝しつつ、捜索の拠点にしたいと思う。


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