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アクアエルド物語  作者: MANAM


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第三話

 海と言えば海水浴、水平線、そして海賊。

茶髪のロングヘアの二十代と思しき女海賊マリナは今日も大海原の上の大型クルーザーを改造した海賊船の船長席で、指揮をとらず惰眠を貪っていた。

「アネゴ! アネゴ! 起きてください!」

 部活のヒト族の若い男セルディが船を操舵しながらマリナ大声で起こす。

「んぁ…もう朝ごはん…?」

 寝ぼけ眼のマリナにもう一人の部下でヒトネコ族の男ラントが苦言を呈する。

「何言ってんすか! もう昼ですよ! 最近海賊らしい事してないんだからしっかりしてください!」

「いいじゃん。やらなきゃやらないで。海賊って悪い事だし」

「そりゃそうっすけど…それ言っちゃ元も子もねえっす」

 マリナは大きく伸びをするとお腹をさすり辺りを見回す。

「それにしてもお腹空いたわね。ペロル、ペロル〜?」

[何だ? 呼んだか?]

 船長席の後ろからひょっこり現れたのは船の料理長であり謎の生物ペロル。子猫程の大きさで楕円形の緑の体に直接生えた四本の針金の様な足。真っ黒な瞳に常に笑っていような逆三角形の口。見た目は虫の様であるが虫でもない正に謎の生物である。

「あんたどっから出てくんのよ!」

[どこから出ようが人の勝手だ]

 正論の様で正論ではない論を振りかざすペロルに、呆れながらマリナは料理長である彼に食事を作るよう指示をする。

「お腹空いたから取り敢えず何かを…」

[へい、お待ち]

 ペロルは言われるが早いか何処からともなく丼に入った熱々のインスタントソイソーメンを取り出しマリナに手渡した。

「さすが、手際がいいわね」

 マリナはズルズルと音を立ててソイソーメンを食べつつ一つの疑問をペロルになげかける。

「そういや最近ソイソーメンが続くけど何か理由でもあんの?」

[材料が無い。それだけだ]

 至極真っ当で単純な理由にマリナは呆れながら啜り続ける。

「じゃあ買えばいいでしょうが!」

[金も無い!]

 至極真っ当で単純な理由を自信満々に告げられ、金欠である事を今更知りマリナはさすがに慌て出す。

「そう言う事は早く言いなさいよ!」

[なら早く聞け]

 その時、海賊にとってはなんたる僥倖か、マリナの海賊船の前方に豪華客船の船影が見え、操舵しているセルディがペロルと言い争うマリナに大声で報告する。

「アネゴ! 前方に船影! かなりでかいですよ!」

「え! マジ⁉︎ 」

 マリナはソイソーメンを食べながら大声で命令する。

「よーし! その船に全速前進! 突撃よ!」

[よく噛めよ]

 マリナの海賊船は蒸気を全開にして豪華客船へと向かって行く。


 一方イリス達は一等豪華客船『イースタン・アクア号』の一番安い三等客室のベッドに座りくつろいでいた。

「一番安い上に同じ部屋でごめんね」

「何言ってんだ。逆に礼を言いわなきゃな。そうだ、まだ名前言ってなかったな。オレはクラマール。お前は?」

「あたしはイリスだよ」

 先に名乗られたからには素直に自分の名前を答えるイリスであったが、ここで当然聞き覚えのある名前にクラマールは疑問を覚える。

「ん? イリス? どっかで聞いた名前だな…女王の孫もそんな名前だったような…」

 クラマールに言われて口を押さえてハッとする。城を出る前にイパダップからも気軽に名乗らないよう釘を刺されていた事を思い出す。

だがバレそうになった時の対処法もイパダップから伝授されており、イリスは声を上ずらせながらそれを試みる。

「い…いやほら! よくある名前だから!」

 イリスの言葉にクラマールは両手を枕がわりにベッドに仰向けになりながら答える。

「そーいやそうか。街でもイリスって名前の女子結構いたな。今もまだイリス様ブームだもんな」

「え…そんな事になってたの…?」

 自分の預かり知らぬ所でブームが起こっている事を知り、クラマールに聞こえないよう小さく呟きながら恥ずかしさで頬を染めるイリス。

クラマールは半身をお起こし真っ赤な顔のイリスを見て心配する。

「おい、顔真っ赤だけど風邪か? 大丈夫か?」

「あ! 大丈夫! 全然全く大丈夫!」

 照れ笑いしながらクラマールに向かい両手を振るイリス。

「ならいいけどよ。しかし腹減ったな。なんか食いもんねえかな」

「そうだ、この船お食事付きってチケット買う時に言ってたから食堂に行けば何か出してもらえるはずだよ」

「お、そうか。なら早速行こうぜ」

 クラマールは勢いよくベッドから飛び起き、イリスも共に食堂へと向かう。

食堂に近づくにつれいい香りが漂い食欲をそそる。そして中に入ってまず目に飛び込んで来たのはテーブルの上に乗った豪華なステーキ。

クラマールは感動のあまり目を輝かせ涎を垂らす。

「うお! すげー! さすが一等客船の飯だぜ!」

 勢いよくステーキの並べられたテーブルの席へ着くクラマールだったが、その後ろから給仕係の男性に声をかけられる。

「申し訳ございません、お客様。こちらは一等客室のお客様のお食事でございます」

「え…じゃあオレ達三等客室の飯は…?」

「どうぞこちらへ」

 給仕係に案内された先のテーブルにつき三等客室の食事が用意されるのを待つ。そして出された物は…

「って! オレ達はソイソーメンかよ!」

「あ! おいしい!」

 イリスは心底美味しそうに、クラマールは詫びしそうにソイソーメンを食べる。

「はあ…でもまあいいか。船に乗るって目的は果たせたしな…そう言やお前は何で船に乗りたかったんだ?」

「小さい頃居なくなったお父さんとお母さんを探すためにまずは東の国へ行こうと思って」

 イリスは音を立てずソイソーメンを食べながら答え、クラマールは丼をもちスープを飲む。

「そうか。名前は同じでもそこは違うんだな。イリス姫の親は死んだって話だしな」

「あはは…そうだね」

 スープを飲み干し完食したクラマールは水を飲みながらイリスへと視線を向ける。

「そっか、親が居ないって所はオレもお前もイリス姫も同じだな」

「クラマール君のご両親はどうして…? あ! 聞いても良かったのかな…?」

 クラマールはニヤリと笑い片側の肘をテーブルに掛けイリスの方へ体を向けてイリスの質問に答える。

「平気さ。オレの親は十三年前の戦争が終わる直前に生まれたばかりのオレを残して死んじまった。んでオレはめでたく孤児院行きってわけさ!」

 悲壮感もなくあっけらかんと言うクラマール。

「じゃあ何で孤児院を出ちゃったの?」

「ああ…それは…言葉にするのも恐ろしい陰謀が隠されてたからさ…」

「恐ろしい陰謀…⁉︎」

 クラマールは先程とは違い深刻な面持ちになり話し始めた。


 あれは四年前、オレが九歳の時の事だ。孤児院の学芸会で劇をする事になって、オレは主役のウサギに抜擢されて練習に励んでた。

劇の内容は白ウサギの村から黒ウサギの盗人がニンジンを盗んでいく所から始まる。主役の白ウサギはお供に猟犬と狼を連れニンジンを取り戻しに行くんだ。

「え…お供に猟犬と狼って…それ、白ウサギさん食べられちゃうんじゃ…」

そうさ、だから食われないように奴らが眠っているうちに腹ん中に石を詰め込んで満腹にしとかなきゃいけないんだ。

「いや…どんなお話なのそれ…」

まあなんだかんだ捕食の危機を乗り越えて黒ウサギからニンジンを取り戻して、猟犬と狼を盗人黒ウサギにけしかけた。

猟犬と狼は嬉しそうに黒ウサギを追いかけ回した。

「く…黒ウサギさん逃げてー!」

 で、ここまで練習して最後のシーンだ。台本を確認した。

『白ウサギは取り戻したニンジンを嬉しそうに食べました。めでたしめでたし』

 オレは台本に書かれた通り本物のニンジンを手に取りかじりつこうとした時、戦慄を覚えたね。


「って! ニンジンなんて食えるわけねえ! オレはニンジン大っ嫌いなんだから!」


 そう、この劇はニンジン嫌いのオレにニンジンを食わせるための孤児院ぐるみの陰謀だったんだ。


 クラマールは思い出し終わると笑顔になりまたもあっけらかんと話し始める。

「こうしてオレは孤児院を飛び出し今に至ると言うわけさ」

「どこが恐るべき陰謀なの! 大げさ!」

「何を! ニンジン嫌いのオレにとっちゃ恐ろしいっての!」

 イリスは大きくため息をついて脱力すると呆れながら微笑んだ。

 食べ終わると二人は腹ごなしをするためデッキに出て歩きながら話す。そしてその上の階、見渡しの良い屋上では双眼鏡を片手にセーラーの男性乗組員がダルそうに見張りについていた。

「はあ…見張りなんて古臭い事しなくても監視カメラでいいのになぁ…」

 不満を漏らしながら船員は双眼鏡を覗く。すると少し離れた場所にクルーザーを発見。しかしこれもよくある事なので気にも留めず双眼鏡をそのまま横に滑らせ水平線を見渡して行く。

「異常無し、と」

 ぼそりと呟くと船員はもう一度先程のクルーザーを見てみる。すると少しずつ屋根の部分が開いて行くのが見える。

「へえ、あそこ開くのか。いわゆるサンルーフってやつか?」

 興味深そうに見続けていると開ききったその部分から何かがせり上がって来ている様子だ。

「何かが出て来てるぞ? ズームズーム…ほう…横向きだからよくわからないが…望遠鏡か? なかなかロマンのある船だな。ゆっくりこっちの方を向き始て? 完全にこっち向いて望遠鏡の先はぽっかり穴が空いて…」

 そこまで見て船員の顔から音が聞こえるくらいの勢いで血の気が引いて行く。

「違…あれは望遠鏡なんかじゃない! 大砲だ!」

 船員は腰につけた無線機で慌ててブリッジに連絡する。

「き…ききき…きんきゅうれんらきゅうう!」

 その刹那クルーザーの大砲から爆音と共に砲弾が放たれ、イースタン・アクア号の右翼部分に着弾し、そしてけたたましく警報が鳴り響く。

『緊急事態発生! 乗客のお客様はお部屋へお戻り下さい。繰り返します…』

 爆音に緊急事態を告げるアナウンス、そして後ろを振り返ると煙を吹き出す船体。クラマールは一瞬で状況を把握した。

「やべえ! これは絶対海賊だ! おい! ここは危ない! 部屋に戻るぞ!」

 イリスの手を取り駆け出すクラマール。そしてイリスは深刻な顔をしてクラマールに質問する。

「クラマール君! カイゾクって何⁉︎」

 クラマールは思わず躓きずっこけた。

「カイゾク! フネオソウ! ワルイヤツ!」

「おお! なるほど!」

 カタコトで簡潔な説明に納得顔のイリスの手を再び取ると二人は自室へ向けて走り出す。


 海賊船ではマリナとペロルがデッキに出て煙を吹き出す豪華客船を見ながら彼女は満足そうに笑う。

「くふふ…右往左往してるみたいだね、おっかしー!」

[羽毛、砂糖?]

 大砲の次弾装填が終わり照準が再び合わされるとマリナは砲撃命令を出す。

「いよっし! トドメいっちゃいな!」

『ラジャー!』

 無線スピーカーからラントの声が聞こえる横から、セルディはある疑問をマリナに投げかける。

『でもアネゴ…船から品物頂かなくても良いんですか?』

「ああああ! 忘れてたぁああ!」

 マリナは砲撃命令を取り消そうとするがスピーカーからはラントの嬉しいそうな軽快な声が響いてくる。

『いけいけごー!』

「ラント撃つな〜!」

 しかしマリナの願いも虚しく大砲からは砲弾が豪華客船に向け行ってきますしてしまう。

「うわぁああん! 砲弾ちゃん! かむば〜っく!」

[無理だろ]

 砲弾は見事に豪華客船に着弾。新たな場所から煙が上がる。

『ふほほ〜!』と大砲を連発するラント。

「もう撃つなぁあ!」と涙目のマリナ。

[落ち着け]と冷静なペロル。

『ダメだこりゃ』と諦めのセルディ。

 マリナの海賊船は混沌として、もはや収拾がつかない様子である。


 イースタン・アクア号はと言うと砲撃を受け各所で煙が上がっている。乗客もパニック状態に陥っており、外通路を通り部屋へ戻ろうとするイリスとクラマールの行手を阻む。そして何とかそこを抜け出したがクラマールが急ブレーキをかける。

「あ! ストップ!」

「はわ⁉︎」

 イリスはクラマールの背中にぶつかり止まると、前方の惨状を目にする。

「つ…通路が途切れてる…!」

 そこを通ればすぐそこが客室への入口なのだが、砲撃に完全に通路が断絶されそれ以上進めない状態となっていた。

クラマールは踵を返して元来た通路を戻る。

「仕方ない! 一度食堂に戻って反対側から…」

 その時イリスの背中側、通路が途切れた更に先に着弾して大きく船が揺れる。そのせいでイリスは体勢を崩し途切れた通路の縁から海の方へ体が投げ出された。

『あ!』

 イリスとクラマールはお互い短く叫び、お互い手を伸ばすが掴む事は叶わずイリスはそのまま海へと転落しその姿は見えなくなった。

それと同時に砲撃も止み逃げ惑う乗客と波の音がイースタン・アクア号に響くが、呆然とするクラマールの耳にはイリスの叫び声だけが残されていた。

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