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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
婚約破棄? じゃあその子、もらっていきますね

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09 闇に差す

 つま……妻!?

 なんで!?


「あ、あのっ、私こんな格好をしてますけど、女ですよっ?」

「もちろん存じております」

「え、えぇー……」


 パンツルックの騎士礼装のせいで男と思われていたのかと想像したけど違った! 知ってるならなんでさ……!?

 いや待て待て、ここは前世の世界とは違うんだ。同性婚とか普通にあるのかもしれない……?

 ……ステラ様が、私の……? とまで考えて、途端に恥ずかしさがこみあげてきて顔を覆う。


「……ちなみに、王国法で同性婚の規制などは……?」

「されておりませんが、ここ十数年では聞きませんね」

「……ま、まぁそうですよね。貴族は血筋を大事にすると聞きますし――」

「代わりに、愛人という話なら山ほど聞きますが」

「あ、あいじ――」


 一瞬フリーズしてしまった。

 貴族は血筋を大事にするという話はよく聞く。そのため自分の血を引いた子を儲けることは重要であり、正室だけでなく側室も迎えることもままあると。そこまではわかる。わかるけど……。

 その上、さらに、愛人だって? 貴族たちの風紀は一体どうなっているんだ……!? 前世でもハーレムものの創作はたくさんあったけどさぁ! 実際に遭遇(?)すると動揺の一つもしたくなりますよねぇ!


 ひとまず、まとめると……同性婚は規制されてない。されてないけど、貴族間では聞かない。しかし婚姻外の愛人というパターンならよくある。

 そんな状態で、私はステラ様に対し、求婚ともとれる言動をしてしまった。私が実際どう考えていたかは関係ない。周囲がどう捉えたかが全て。


 ――……私は、最悪な手を打ったのでは……?


 サーっと顔から血の気が引いていく音が聞こえたような気がした。


「えーっと……その、ステラ様は、私と……け、結婚するかも、と思って、あの場で私に応えてくださったのですか?」

「…………そうなりますね」


 つまり、周囲で聞いていた学生たちの中にも、そう捉える人は居るってことで。


「ろ、ろくに話したこともない、相手なのに?」

「貴族の婚姻なんてそのようなものですよ」


 つまり、周囲で聞いていた学生たち略。


「……あ、あいじん、にされる、かもしれなくても?」

「……王子殿下に婚約破棄を告げられるような女であれば、それも致し方ないかと――」


 つまり略。


 ……。

 ア ウ ト !


「申し訳ありませんでしたああああっ!!」


 私は、私に出せる最速のスピードでもってステラ様へと土下座した。土下座でも足りないけれど、これ以上の謝罪方法なんてわからない。


「誤解を招くような紛らわしい言動をして、本当に、申し訳ありませんでした!」


 私の中には『勧誘』という意識しかなかったのだ。

 私は、結婚出来ない。むしろしてはいけないから、意識から外れていた。

 だからそう伝わるとは思ってもみなかった……というのは、ただの言い訳にしかならないけれど。


「その……私は結婚する気はないのです。もちろんステラ様に不満があるという話ではなく、誰が相手であっても、です」

「……え?」


 私は元平民の養女だ。結婚して子を儲けてもアッシュフィールド辺境伯家の血は介在せず、家の乗っ取りになってしまう。私は養父様じーさまにも恩を感じているのだ。そんなことはしたくない。

 ……同性が相手であれば子どもが出来ないからアリなのでは?と一瞬脳裏を過ったけど、問題はそこだけじゃないし、女性に興味があるわけでもない。


 あぁもう、私は何て愚かなことをしてしまったのだ。ステラ様を助けようと思っていながら逆に貶めて。それでいて、覚悟を持ってやって来た彼女に対し、どうしようも出来ないでいる。

 これでは第二王子のことを笑えやしない。最低だ。


 なのに、それなのに……。


「貴女に迷惑を掛けておきながらいうことではないかもしれませんが、それでも……貴女の力が必要なのです」


 私は、手を離せない。

 本当に最低だ。

 だから、せめて。


「貴女の立場は保証します。貴女に不便がないよういくらでも便宜を図ります」


 心身の安全はもちろん、それだけでなく。

 私に差し出せる全てを。


「魔物が相手であっても、人が相手であっても、全力で貴女をお護りすると、私の受けし加護、夜の女神ノクスの名に懸けて誓います」


 これが領地運営のためなのか。

 それとも、私自身気付かぬ望みがあったのか。

 わからない。わからない、けれど。


 私の中に。

 どうしようもない、熱があった。


「だからどうか、力を、お貸しください……!」


 吐き出さずにはいられない、熱が――



「……一つ質問をよろしいでしょうか?」


 しばしの沈黙の後、難しい顔をしたステラ様が問いかけてきた。

 断られたくなさに、『今自分が何に押されたのか』、振り返ることもなく、反射的に返事をする。


「一つといわず、いくらでもお答えします」

「貴女は本来であれば責任を負う立場ではありませんでした。何故そこまで領地のために必死になれるのですか?」


 ――何故、って……。

 私は、領主だから、領民を守るため。

 それが、義務だから。


 ……違う、そうじゃない。私はそんな殊勝な人間ではない。

 全部……自分のためでしかない、エゴイストだ。


「私は……両親を失いました」


 十年前、五歳の時だ。

 魔災で領地まで大量に入り込んだ魔物から私を庇って、死んだ。

 ……居眠りトラックから私を庇って死んだ前世の両親と重なったことで、前世の記憶がよみがえるきっかけになったのは何の皮肉だろうか。

 神の加護を持っていると自覚したのもその時だ。それまでは、ただの子どもとして、何一つわからなかった。


 ――神の加護を自覚したその瞬間、私は私を呪った(・・・)


 『もっと早く自覚していれば、両親は死ななかった』。


 傲慢な考えかもしれない。

 けれど、それが可能だったのも事実。

 私はただの幼児ではなかったのだから。


 十年前の魔災被害は大きかった。三年前のも酷かったけど、それよりずっと。

 多くの人が傷付き、死に、人心が荒み、秩序が失われた。

 両親を失った私は他の孤児たちと共に孤児院に移ったけれど……弱者は、搾取の対象でしかなかった。


「姉のように慕っていた人を、弟のように可愛がっていた子を、失いました」


 『もっと早く自覚していれば、皆は死ななかった』。


 神の加護を自覚してからは自己流ながら訓練をしていたけれど……間に合わなかった。

 同時期に孤児になり知り合ったレンたち三兄妹はギリギリで助かったけど、彼らだって死にかけた。

 私が強者になっていれば、もっとマシになっていた。

 また一つ、私は私を呪った。


 十歳の時に狩人ハンター登録をして、お金も求めた。……私からお金をむしり取ろうとするバカ共も多かったけど、その頃には全部返り討ちにしてやった。やっとそれくらいには強くなれた。

 十二歳の時にまた大きな魔災が発生し……孤児院の皆は何とか守れた。失ったものがないわけじゃないけど、ちょっとだけ自分を誇れた気がした。


 そして養父様じーさまの目に留まった。

 正直なところ、この時点では私は『領民を守れない貴族たち』と何の期待もしていなかった。恨んですらいたかもしれない。

 けれど養父様じーさまは、「じゃあ儂はお主が存分に動けるようにしてやろう!」と、ポンと養子にしてきた(けんげんをわたした)。私がクソ野郎だったらどうする気だったのだろうか。

 そうして私の手の届く範囲が増えたかと思えば。


「養父様を、失いました」


 死因は怪我ではなく、いわゆる末期がんだった。

 ……私が気付いた時には遅く、手の施しようがなかった。私の取得していた治癒魔法では治せなかった。

 何もかもが、遅かった。


 『もっと早く自覚していれば』。


「私は、領民を守りたいとか、そんな前向きで崇高な目的じゃなくて……ただこれ以上、見知った誰かを失いたくないだけです」


 領民のためではない。

 自分のため。

 自分が嫌だからそうしているだけのエゴイスト。

 ただただ自分のために、ステラ様も巻き込む。

 そう自覚していても、直せない、なんて酷い人間――


 ひたすら自嘲し、自虐し、ひとりで勝手に沈み込む私の耳に、ステラ様の声が滑り込む。


「わかりました。未熟な身ではございますが、私、ステラ・シルバーレインは、貴女のために(・・・・・・)尽くしましょう」

「――……っ」


 闇に光が差し込んだ、そんな錯覚がした。

 いや、実際にこれは私にとって希望の光だったのだろう。この時はわからなかっただけで。


「ありがとうございます!」


 思わず私はステラ様の手を握りしめた。喜びのあまり、貴族令嬢に対し失礼だという認識は湧かなかった。

 だから……彼女から握りしめ返され、逃げられなくなった(・・・・・・・・・)と気付くのに遅れた。


「ところで、先ほどいくらでも便宜を図ると仰ってくださいましたよね」

「はい! なんなりと!」


 能天気にも深く考えず返事をする私に、ステラ様は。


「では、貴女とわたくしで婚約をしましょうか」

「…………………………えっ」


 なんて???

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